見ていると、苛々する。



軽口叩きながらランニングして、じゃれあうみたいなボール遊び。
一人で居ることは殆どなくて、いつも人が集まっているソイツは、見ていると苛々さ
せられる。
才能はないわけじゃないのに気付くのが遅くて、気付いた途端ものすごいスピードで
追いかけてきた変な奴。
ほんの少し話しただけの先輩も次には気楽に声をかけていて、同じ学年の奴らだっ
て、そいつが一番気安いと思ってるらしく、話しかけることが断然多い。

面白くない。

目立つからいけないんだ。
一人で居るのに大声で独り言喋るし、馬鹿なことばっかりやってるから嫌でも目に付
く。
今みたいな軽いウォーミングアップの時間でも周りに人が途切れることは稀で、誰か
しらは側に居るような気がする。
一軍選抜の練習試合にバッテリーを組んでた先輩にべったりだ。
同室の先輩二人は、しょっちゅうちょっかいをかけるし。
小湊とは一緒に二軍経験があるせいか妙に仲がいい。
その同室っていうだけの先輩も、何故か気にかけていることが多い。
投手も入れた内野で集まることは良くあることで、その度に一人除外されたような気
分になる。
アイツが中心になって作られてるそれは、面白くない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アイツが笑って、周りが笑って、先輩の一人に殴られて、それにまた周囲が笑って。


苛々する。

自分でもあからさまだと思うくらい見ていたから、小湊が気がついたのは意外じゃな
い。
(ちなみに、アイツは気付きもしなかった)
小湊がこっちを見て、少しだけ微笑んだように見えたのは、目の錯覚かとも思ったけ
れど。
そのすぐ後、自分のポジションに近い守備陣に話しかけた小湊の意図が分からなくて
見ていたけれど、倉持先輩も何故かこっちを見て、そしてあいつに蹴りを入れた。
それはいつものことなのに、その後に突っかかってくるそいつを無視して小湊と話始
める理由はまるで分からない。
会話が上手い二人に引き摺られて、そいつを抜かした周りが話に加わる。
ついには投手を除いた内野だけで何か話し始めた一郡から、邪魔だとばかりに追い出
されてる。
その様子にちょっとだけ溜飲を下げたけど、キョロキョロと周囲の様子を伺っている
のにはむっとさせられる。
また誰かじゃれる相手を探してるのか。
咎めるように見ていると、たまたまこっちを見たそいつと目が合った。
内野は話中。捕手も二人で相談中。
身体が空いてる、というか一人で居るのが僕だけだったから。
それが理由だとはわかっているけど、関心が向けられるのは悪くない。
「おーい、降谷!キャッチボールでもしねぇ?」
ここで嫌といえば、あっさり引き下がるだろう。
その内、他の奴の話も終わるし、すぐに僕に注意すら払わなくなる。
だから、少し面白くなかったけど頷いた。
こいつとのキャッチボールは、全然楽じゃない。ボールは変なトコ飛んでくるし、捕
球が上手いわけじゃないから、小湊や先輩たちだったら取れる僕の球も取りこぼす。

いいことなんて一つもないのに、あのぐにゃぐにゃ曲がる球がミットに飛んでくるの
は嫌いじゃない。
早速飛んできた球はやっぱり変な感じで、少しも気持ちのいい音がしないのに。
「・・・・・・・・・・・・・・?」
何で、嫌じゃないんだろう?
少し前はあんなに苛々してたのに。
思い返すと、本当に苛々していたのかも分からなくなる。
もどかしいような、羨ましいような変な感覚は絶対に気分が悪い方に分類できるもの
だったけど、それが誰にでも軽く話せるアイツが羨ましかったからなのかは分からな
くなってる。
ずっと燻ってるようなものじゃなくて、その場ですぐ霧散するようなものなんだか
ら、きっとどうでも良かったんだろう。
でも、だったら今感じてるのは何なんだろう。
嫌なものがなくなればどうでもいいものになるだけなのに。
「降谷!!何やってんだよー!」
聞こえてくる当人の声に、ますます訳が分からなくなる。
僕よりも明らかに球威で劣ってる・・・・・けど、御幸先輩も気にかけてて、一軍に
まで上がってきた投手。
僕と違ってチームにすぐ溶け込んで、それが苛々させるヤツ。
そのはずだったのに、その苛々が綺麗になくなっていた。
僕が出来なかったことを簡単にしてのけることが気に喰わなかったし、少しだけ羨望
がなかったといえば嘘になる。
だから、向き合って感じるのは苛立ちだけで、それがなければ他の奴らと変わらない
と思っていたのに。

楽しい、なんて。

「・・・・・・・・・・」
「おわぁ!!」
最初のキャッチボールと同じように、少しだけ本気でボールを投げる。
今までと同じボールが来ると思ってたらしくて、予想通りに取りこぼしてミット毎遠
くに飛んだボールを視線で追うそいつの様子は、少しだけ僕を満足させた。
「ヘタクソ」
捕れないと分かってて投げた僕に文句を言うかと思ったけど、何か言いたそうな顔で
睨みつけてきただけで、素直にボールを拾いに行った。
それはちょっと拍子抜けだったけど、自分の投げたボールを追いかける様子が何だか
犬みたいで悪くない。
遠くに飛んでいったボールを拾って、駆け寄ってくる。
もちろん、その様子は飼い主の所に駆けて来る犬とは反対なんだけど。
ついでに、犬は駆け寄る途中で投球はしない。
「テメー!!わざとやりやがったなー!!」
叫びながらの投球は、今までよりもかなり本気で投げたんだろう。
取り辛い所か、構えてたミットからかなり外れた所を飛んでくれてた。
引っ掛けて落としたけど、ミットの中に収まってるはずもなくて、それはさっきの僕
が投げたボールと同じようにグランドに転がってる。
「ふははは、どうだ!」
「・・・・・・・・ノーコン」
「んなッ!!それを言うならお前だって!」
結構小さい声で呟いたつもりだったけど、聞こえたらしい。
ぎゃあぎゃあ騒ぎ始める様子に自然と口元が緩んだ。

楽しい。

沸き起こってきた感情は、御幸先輩に初めて球を受けてもらったときの感じとは違う
・・・もっと、ずっと弱くていつでも捨てられるくらいのものだったけど、それは確
かに楽しいっていう感情だった。
それに自然と浮かんでいた表情に自分でも驚いて、気付かれないように視線をボール
に移動させる。
「少し強めに投げただけだろ」
ボールを見下ろしてから、憤慨してるそいつに視線を戻す。
こっちが我慢してやってるのに、いつでも自分の球を投げるなんて不公平だろ。
「君のボールだって取り辛いんだよ」
だからお返しだ。
そう含ませて告げてやれば、そいつは何かが気に障ったらしくてじたばたしてたけ
ど、それでもキャッチボールを止めるほど怒ったわけじゃないらしくて「早く投げ
ろ」なんて言ってきた。
そのことに少しだけほっとしながら、ずいぶん力を抜いた球を相手のミットに納まる
ように投げる。
たった、それだけのことですぐに機嫌を直して、やっぱり曲がるボールを投げてく
る。
「やっぱり、取り辛いよ」
「クセ球はオレの持ち味なんだからいいんだよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・知ってる」
「ん?」
「・・・・・前はヘコんでたのに」
「昔より成長したって言えよ」
何度も、ボールが行き交う。
全力投球とは程遠い球で、しかも返ってくるのは取り辛い球。
相手は、僕と同じボジションで、僕のプレーに関わらないヤツ。
本気じゃないキャッチボールを、軽口を叩き合いながらやって。



なんでこんな意味のないことを続けてるのか、自分でも分からないけど。



楽しい。










あとがき
降谷→沢村で。クリ沢公言してるサイトに降沢送るような人間です。私。
沢村が自分に吼えてるときは楽しいけど、自分以外とじゃれてるとつまらない降谷は
無自覚ラブでいいと思います。ついでに、沢村の持ち味を本人に一番最初に教えてた
の実は降谷ですとか言ってみる主張。


 
viskoさーん!ありがたう!
クリ沢じゃないけど、てかクリス先輩いねーけど!!
最初は降沢もいいなーと思ってたんだけど、最近私どうしても降谷も受けに見えるのよ!
こういう、ほのぼのーっときゃっきゃしてるのがいいよね!!

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