その日はなんとなく一つの部屋に皆が集まり、思い思いのことを行っていた。
別段一緒のことをやらないでも、同じ部屋になんとなくいるだけでいい、そんな雰囲気の日もある。
ふと、おもむろに浜田が立ち上がり、部屋の中を見回した。
「コンビニに行ってくるが、何か欲しいもんある奴いるか?」
浜田が後輩をパシリに使わず、自分で買い物に行くのはいつものことだ。
本人はじっと待ってるのが好きじゃない性分なだけだ、といっている。が、単純に人をあごで使うより自分でやるほうがいいタイプだというのは皆が知っている。
「あっ、雅さんフランクフルト買ってきて〜!」
後輩たちのほうも、2年生は慣れたもので、浜田に「ついでの買い物」を頼むことも少なくない。特に鳴にいたっては、「お前のほうがあごで使っているんじゃないのか?」といいたくなるレベルである。
雅功もだが特に気にする様子もなく、入り口で靴を履きながら鳴を見た。
「お前フランクフルトとかソーセージとか好きだな」
「うん♪」
鳴は楽しそうに壁に寄りかかる。と、おもむろに日本人であれば誰でも知ってるフレーズの替え歌を歌いだした。
「鳴くんはね♪ ソーセージが大好き雅さんのねっ♪」
その瞬間、レーシングゲームに興じていた者は大クラッシュを起こし、課題のプリントを行っていた者はシャープペンでプリントに穴を開け、コーラを口に含んでいたものは思い切りむせた。
「鳴っ!!」
浜田が怒鳴るが、鳴は一向に意に介さず続きを歌い続ける。
「♪だけど でっかいから 口ん中半分までしか食べられなモガッ!!」
次の瞬間、飛ぶように入り口から引き返して来た浜田が鳴の口を力いっぱい塞いだ。
「♪もががもが〜 もがが」
「歌いづづけようとすんじゃねぇ!!」
鳴が口を塞いでいた手を力づくで下にずらす。
「嘘は言ってないじゃん? オレの口が小さいってよりかは雅さんのがでっかいんだし」
「誰もんなところを問題にしちゃいねぇだろうが!!」
「あのー」
言い争いのようなものに発展している黄金バッテリーの会話に、カルロスが口を挟んだ。
「すんませんけど、バカップルの痴話げんかなら他でやってもらえないっすかねー」
「だっ、誰がバカップルだ!? バカ言ってんのはコイツだけで、俺は被害者だろうが!!」
浜田の抗議に、鳴がむーんと頷く。
「うーん、ま、確かにでっかくて食べれないってより♪雅さんが恥ずかしがるから食べられない のほうが合ってるかもだし〜」
「だっ……ああもういい!! テメェも一緒に来い!!」
鳴の首根っこを掴んで、ずるずると引きずるように浜田が部屋を後にした。
部屋のドアが閉まった1秒後、ゴン!という激しい打撃音と鳴の「痛ーーーい!!」という悲鳴っが聞こえてくる。
それを聞いたカルロスが、ふと室内にいたメンバーの顔をみまわした。
「賭けしません? あのバカップルが、徒歩5分のコンビニから30分以内に帰ってくるか、それとも2時間以上戻ってこないか」
「えっ? え、あの、それって」
おろっとした樹に、カルロスがニヤニヤと笑う。
「別にどっかにしけこんで2時間帰ってこないとは言ってないぜ? 正座して2時間説教かも知れないだろ?」
それまで我関せずと言った様子で音楽を聴いていた白河が、イヤホンを外してカルロスを見た。
「鳴が2時間説教を黙って聞くわけはないと思うけどね。でもそれはおいておいても、賭け成立するの?」
「俺2時間」
「俺も」
「僕も2時間で」
次々と挙げられる手を数えて、カルロスが肩をすくめて苦笑した。
「あっちゃ。ほんとに成立しねーわ」
2010.1.19 脱稿