「ねー雅さん」
雅功の隣で、ベンチの背もたれに寄りかかっていた鳴が、ふと、何かを思いついたように身を起こす。
「何だ?」
「雅さんてさー、犬に似てるよね」
何故か嬉しそうに、妙なことを言い出した鳴に、雅功は首をかしげた。
「……なんだ急に」
話の先を促すと、鳴はにっこりと笑って小首を傾げる。
「実家でさー、昔でーっかい犬飼っててさ。グレートピレニーズとか言う奴!大人しいけど強くて頭良くて頼りになる奴で、オレがガキんちょの頃、背中に乗ってる写真とかもあんの」
でっかい、といいながら両手を大きく広げる鳴の目が、キラキラしている。アルバムなど見なくとも、その写真に写っている鳴がどんな顔をしているのか想像がつくな、と雅功は思った。
「アイツ、オレが中学になった頃に死んじゃったんだけど……。なんか雅さんて、アイツと似てるなーと思って」
「それ、褒めてるのか?」
どちらととるべきか微妙なラインの発言に、雅功が苦笑すると、鳴は大きく頷く。
「勿論! でさでさ、 アイツは死んじゃったけど、今こうしてアイツと似てる雅さんがオレの隣にいるわけじゃん! だから、雅さんってアイツの生まれかわり」
「鳴。お前俺がお前より年上だってこと、ちゃんと理解してるか?」
鳴の言葉をさえぎってツッコミを入れると、鳴は一瞬きょとんとした後、唸りながら俯いた。
「え?……あ、そうだよね……」
数秒唸っていた鳴が、ぽん!と手を打ち鳴らす。
「あ! じゃあアイツが雅さんの生まれ変わりで!」
「勝手に俺を殺すな!!」
それでは雅功がこの世の人間ではないことになってしまう。
「そうか、そうだよね」
鳴が後ろ頭を掻きながら首をひねった。どうやらようやく、その路線は無理であると分かったらしい。
「ちぇー、生まれ変わってまでオレの所に来てくれたんだったら、もう運命の相手確定じゃん!って思ったのに〜」
悔しそうに口を尖らせ、むくれている鳴に雅功は苦笑する。一度何かの考えに捕らわれると、しばらくそれに夢中になるのは鳴の性分だ。
「……別に、その犬である必要はねぇんじゃねぇのか?」
「え?」
身を乗り出して振り返った鳴を横目で見て、雅功は笑った。
「だから別に、犬の生まれ変わりなんかじゃなくたって運命の相手でもおかしくねぇだろ」
「……雅さん、オレのこと運命の相手って思ってくれてる?」
じぃ、と真剣な目で鳴が見つめているのは分かった上で、雅功は視線を鳴から離し、正面に向ける。
「……まぁ、な」
微妙に聞こえる返事も、鳴には十分本気の返事であることは伝わったらしい。
「へへ、へへへへ。そっか、じゃあいっかー」
鳴がばたばたと脚をばたつかせていると、二人の斜め前に座っていた樹が振り返った。
「あのー」
「ん?」
「え?」
「そういう会話、出来ればココじゃなくて、別の時間にやってもらえませんかね……。一応今、練習試合の真っ最中で、ここはベンチなんで……」






戻る


2010.07.26 脱稿