「……ふぁ」
ゆっくりと布団から起き上がり、雅功は欠伸をしながら大きく伸びをした。
雅功は目覚まし時計が鳴る30分前にきっちり目を覚ますタイプで、目覚めも良い。よっぽどの夜更かしでもしなければ、大抵すっきりと起きることができる。
「……ん」
「っと」
隣にいる温かいかたまりが身じろぎしたのを感じ、雅功は慌てて身体を縮こまらせた。
「鳴。寝てるか?」
そっと額に手を当てて、後頭部へ向けて撫でると、鳴がうっすらと目を開けた。
「起きてる。……ふぁ」
小さく欠伸をした鳴が雅功の手に頭をこすりつける。
「起こしたか?」
「んや……さっき目覚めてからちょっとうとうとしてた……」
鳴がごしごしと目を擦ったのを見て、雅功はその手を掴み、布団の上に戻させた。 「今日はまだ、もうちょっと寝てていい」
「ん〜」
「まだ時間はあるからな」
鳴の寝ぼけ眼が雅功をみる。 頭をもう一度撫でてやると、鳴はすぐに目を閉じた。
「雅さんの手、気持ちい……」
鳴は実は、あまり他人と一緒に寝ることを好まない。
というより、雅功の部屋にはこうしてやってくるが、他の者のところには一切行かないし、他人が自分の部屋に泊まろうとしたら叩き出すというレベルで、他の者と同じ空間で眠りたくないらしい。
あまり眠りが深い方ではないから、他の人間が動くと目が覚めてしまう、などと本人は言っていた。だが、それだけではなく、眠れなくなってしまったりしたときに、他の人間にそれを見られたりするのが嫌だとか、そういう理由もあるのだろう。
その一方で、雅功の部屋には無断で入ってきて一緒に寝たりするのだから、……まあ、困った奴だと、雅功は思っている。色々な意味で。
「撫でててやるから、寝ろ」
苦笑しながら手を動かしていると、次第に鳴の吐息は寝息に変わっていった。
こんな穏やかな寝顔を見ることができるのは自分だけだと、そう感じるたびにどんな気持ちになるか。
しっかりと雅功の手を掴んで再び眠っている男は分かっていないだろうなと、雅功は微笑んだ。
「ま、教えねぇけどな。調子に乗りそうだし」
雅功のつぶやきは、朝焼けへと吸い込まれていく。
今日も野球日和になりそうだった。






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2010.07.30 脱稿