「……鳴」
「えっ」
振り返った鳴の肩を掴んで、雅功は自分の方に引き寄せた。
戸惑ったままの鳴の頬に触れ、そのまましっかりと唇を重ね合わせる。
「んぅ!?」
驚いて開かれたままだった口内にやすやすと舌を侵入させると、鳴が我を取り戻したように腕で雅功を押し返そうとした。
だが雅功はそんな抵抗を封じるように、更に強く唇を押し当てる。
「ん、んふぅ、んんっ」
鳴が鼻から抜けるような声を出しているのを聞きながら、雅功は鳴の腰を強く抱きしめた。
「っ、ん、んむぅ」
仰け反ろうとした背を捕まえ、抗議の唸り声を唇で封じ込めて黙殺する。
「っは、ちょっ、雅さっ」
首をひねってどうにか一瞬だけ逃げた鳴を、雅功は更に覆いかぶさるようにして唇を重ねた。
「ふっ……、ん、んぅ……」
甘い唇が、吸い付くほどに少しずつ抵抗する力を失っていき、蕾が綻ぶかのように少しずつとろけてゆく。
「ふぅん……」
鳴の口の端から交じり合った唾液が溢れ、喉元までたどり着く頃には、すっかり鳴の肢体からは力が抜け落ち、雅功に組しかれるような体勢になっていた。
それを見て、雅功はようやく少しだけ、唇を解放してやる。
「は……ぁ、雅さん……」
雅功の下で、荒れた息を整えるように鳴の胸が上下している。
ゆっくりと開かれた琥珀色の瞳は僅かに潤み、艶をかもし出していた。
しかし、力が抜けて尚、鳴の手は雅功を押し戻そうと胸に当てられている。
その手が体勢を整えようと床につこうとしたときに、手近にあった空き缶に当たり、からんと乾いた音を立てて床に転がった。
「……ちょっと、雅さん!」
鳴が潤んだままの瞳で雅功を睨む。
「何で缶チューハイ1本でそんなベロベロに酔っ払ってんの!?」
今日は鳴の20歳の誕生日で、初めての……一応ということになっているアルコールを二人で飲もうと、家で酒盛りをする予定だったのだ。
「もう! ベロベロじゃん! いつもなら頼んでもこんなことしないくせに!」
どうせなら酔っ払っていないときに押してきてよなどとギャーギャー騒いでいる鳴に、雅功は訂正しないでおくことにした。
僅かに酔って理性が緩んでいたところに、アルコールで軽く紅く染まった鳴のうなじが箍を外させたなどと、教えてやる必要はないのだから。








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2010.08.04 脱稿