ふと、何かが触れる感触に、意識が浮上した。
しかし、閉じた瞼の裏からでも辺りがまだ真っ暗であることは感じ取れる。
何かがいる、と思い、雅功はうっすらと目を開けた。
目を開けば、至近距離に何かがある。一瞬何なのか分からなかったが、闇の中でも輝く色に、すぐに鳴の髪だと気がついた。
「雅さんの、ぶぁ〜〜〜〜か……」
呟かれた声は、ほぼ耳元で聞こえる。どうやら鳴が覆いかぶさっているらしい。
馬鹿とは何だ、と怒鳴ろうとした瞬間に、頬に暖かな雫が落ちてきた。その感触に驚いて言葉を失っている間に、鳴がぐりぐりと頭をこすり付けてくる。
「いつだって雅さんを欲しがるのはオレばっかり……」
すん、と小さく鼻をすする音が聞こえた。
「オレが好きって言ってもいつもバカって言うばっかりで、雅さんは好きって言ってくんないし、ちゅーだってしてこないどころか俺から仕掛けるのも断る方が多いし」
鳴は雅功が眠っているものと思って語りかけているようだった。完全に起きる機を逸してしまい、雅功は寝たフリを続ける。
「そんなんばっかりじゃ、オレだって寂しくなることくらいあるんだっつーのバーカ」
ふっと鳴の身体が離れる気配がして、雅功は慌てて薄目だった目を閉じた。
が、すぐに離れた温もりがまた身体に掛かる感触があり、唇に柔らかいものが押し当てられる。
「こんなときくらい、目覚ましてくれたって……」
それが我慢の限界だった。
鳴の身体をかき抱き、そのままひねるようにベッドに引きずり込み、身体の下に組み敷く。
「っとに、このバカが」
月明かりに照らされた鳴は、まん丸に目を見開いていた。
「な……なんで起きてんの!? 雅さんのバカ! 変態っ!!」
「おい、起きて欲しかったのか起きて欲しくなかったのかどっちだ」
「起きて欲しかったけど起きてて欲しくは無かった!!」
「バカか」
鳴の表情が辛そうに歪む。その表情に胸が締め付けられ、雅功は鳴の頭をひとなでした。
「いいか、よく聞け」
「ヤダ!!」
「嫌だっておい……」
鳴がイヤイヤと首を左右に振る。
「ヤダ、聞かねーもん! オレが言って欲しいって強請って言うんじゃ何の意味も無いもん! こんなときに言われたらますます空しくなるじゃん!」
「バカ! んなご機嫌取りでホイホイいえたらこんな泣かせちまったりしねぇだろうが! 本気だからそう簡単に言えねぇんだっつーの!」
怒鳴りつけると、鳴はぐっと口を引き結んで黙りこくった。
「泣くほど我慢させて、悪かった。その……愛してる」
途端に鳴の瞳からぽろぽろと大粒の涙が零れ落ち、泣き笑いの表情になった。
「っとに、雅さん反則だよ……どうしてそうなの、オレがヤダって言ってる方法でちゃんとオレを満足させちゃうの……?」
ごしごしと目を擦る鳴をみて、少しだけ雅功もほっとする。
「それを言うなら、人の寝顔覗き込んで泣きながら寂しいとか言うテメーも反則だと思うがな」
「わーーー!? ちょっと!! それを言うのもこれから反則だからねっ!?」
紅くなって慌てながら、いつもの勢いを取り戻した鳴を見て、雅功は笑ってその頬に唇を触れさせた。








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2010.08.05 脱稿