「雅さんってさー、あんまキスマークとかつけてこないよね。他の人の前でもあんまベタベタとかしてこないし」
隣に寝転がっていた鳴が少し不満げに見上げてきて、雅功は眉を上げて見下ろす。
「何だ、急に」
「オレはさ〜、雅さんに虫つくの耐えられないから!」
そういいながら、鳴が雅功の体に手を伸ばし、ぽつぽつと指をさしていく。
「ココとかココとか、オレのモノって印つけてさー、みんなの前でも「雅さんはオレのもの!」って主張するけど?」
「やめろっつってるだろ、恥ずかしい」
「恥ずかしい方が優先なの〜〜?」
思い切り口を尖らせた鳴に、雅功は苦笑して頭を撫でた。
「本気で嫌だったらつけさせねぇっての」
「そういえばキスマークは隠そうとしないよね……」
「俺がやめろって言ってるのは人前でベタベタすることだからな」
しれっと言い返すと、鳴ががばっと跳ね起きる。
「え? それキスマークはつけていいってこと?」
「つけすぎなきゃな」
鳴が分からない、と言った顔で首を傾げた。
「じゃあ、何で雅さんはつけてこないの?」
その表情が可愛らしくて、雅功は笑って鳴の唇にキスをした。
「さあ、な?」
「って昨日話しててさー、雅さん結局答えてくんなかったんだよねー」
部活前の着替えの最中、鳴はぶつくさとカルロスに訴えた。
「そういうことが全般的に人に見せたくないって言うなら分かるんだけどさ。ねー、どう思う?」
なんだかんだ言っても、この手の話題ではカルロスは意外と頼りになる。どうやら伊達に脱いでいるわけではないらしい。
「お前もね……そういうことあんまりぺらぺらオープンに喋るのもどうかと思うけど」
苦笑気味のカルロスに、鳴は腰に手を当てて仁王立ちになった。
「股間が常にオープンなお前には言われたくないね!」
「さあ、どっちがマシだか分かんねーけど。それより鳴、こっちこっち」
カルロスが手招きして、部室に設置されている大きな鏡の前に鳴をよぶ。
「え? 何?」
「都合よく丁度上半身裸だからな」
そういうと、カルロスが手鏡で鳴の背中側に出し、姿見に映した。
「え?」
「背中」
言われてよくよくみると、鳴の背中やうなじには、紅い跡がそこかしこに散っている。
「え、ええ!?」
「まさか気づいてないとはねー。気にしないで着替えてるんだと思ってたぜ」
「そ、そういえばもうわけわかんないくらいの時になんか背中ちくってすることがあったような……」
「つまり、キスマークつけられてることに気がつかないほどよがらせられ」
「うわあああああああ!!」
自分でついていると分かっているなら、人に見られたって恥ずかしくはない。だが、全然気がついていなかったのだ。
しかも、昨日何故つけないと聞いたってことは、雅功は鳴がつけられていることに気がつかないということを知ってしまったわけで。
「もっ、何で皆教えてくんないんだよばかああああ!!」
「そりゃあ、普段のお前見てたら皆「分かってて見せてる」って思うだろうな〜」
はっはっはと笑っているカルロスの横で、鳴は頭を抱えてしゃがみこんだ。
2010.08.02 脱稿