「沢村、何だそれは?」
沢村の手にある小瓶に目を留めたクリスが問いかけた。
「今日、マネージャーの子に貰ったんすよ。唇が荒れたって言ったら、このリップをあげる、って」
「リップなのか?液体に見えるぞ」
「なんか、刷毛で塗るやつらしいですよ」
クリスが沢村の手から小瓶を取り上げる。
「らしい、って、まだつけていないのか?」
「俺自分でリップとか塗るの下手なんですよ〜。こんなの自分でつけたら、べたべたになりそうで。貰ったはいいけどどうしようかと」
あはは、と沢村が笑った。その顎をクリスが指で捕らえる。
「え、クリス先輩?」
「しかし、荒れているんだろう?・・・・・・どれ」
クリスの左手が沢村の顎を持ち上げ、軽く曲げられた右手の指の背で、そっと沢村の唇をなぞった。
「・・・・・・っ」
「ああ、確かに荒れているな。リップをつけたほうがいい」
唇をなぞられる感覚に、沢村の中にざわりとした感覚が生まれる。
ふと、マネージャーにリップを貰ったときの、マネージャーの台詞が沢村の脳裏に蘇った。
『沢村君、唇が荒れてるなんてダメよ!こういうことは、いつ何があっても大丈夫なように、準備しておかないと!』
そのときは準備って何のことだろうと思ったのだが・・・・・・もしかしてこういうことなのだろうか。
確かに、がさがさの唇をこうじっくり見られるのは恥ずかしいかもしれない。ましてや触られるとドキドキする。
「く、クリス先輩!」
「何だ?」
「そ、その、俺リップつけてくるんで・・・・・・」
「さっき自分じゃつけられない、と言っていたじゃないか」
「え? そ、そうですけど」
ふとクリスが目を細め、今度は指の腹で沢村の唇をなぞった。
「つけてやるから、じっとしていろ」
「え!?」
「喋るな」
クリスがリップの蓋を開ける。蓋についている刷毛がそっと顔に近づき、ひんやりとした感触が唇に触れた。
「・・・・・・」
クリスとはキスもしているというのに、リップを塗られるという行為がなんだかちょっと恥ずかしい。少し戸惑って、沢村が視線を外すと、クリスが笑った。
「ほら、塗れたぞ」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
少し気になって唇を舐めると、口の中に甘い味が広がった。
「あれ、甘い?」
「ん?」
クリスがリップのビンを見る。
「『HONEY Lip』と書いてあるな。そういう味がついているリップなんじゃないか?」
「へぇ・・・・・・あ、クリス先輩もつけてみます?ホント甘いッスよ」
「ん?ああ・・・・・・どうせなら、直接リップをつけるよりはな」
「へ?」
クリスの顔が近づいてくる。
温かく濡れた感触を唇に感じて、沢村は反射的に目を閉じた。
「ああ、本当に甘いな」



日記に書いたコネタを格納しました。
甘いです。
リップ泥棒って言うより、舐めちゃってるし、
塗ったそばから舐めたら意味無いし、
舐めてリップがとれたら「また塗ってやる」→舐める→リップとれる(エンドレス)に……

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