困った。
目の前にある生活調査シートを見つめて、降谷は沈黙した。
何の意味があるのだか分からないが、先日日常生活を調査するとか何とかでプリントを渡された。
住んでいる場所とか、出身地、出身中学とかは、まあ普通にかけたのだが。
問題は、その次の項目。
「同じ学校の親しい友人の名前を2名」
友人、ときた。
この項目を見て、思い浮かんだ人間は居ることには居るのだが、親しいと勝手に言ってしまっていいのだろうか。
どうしようかと悩んでシャープペンを持ったまま紙を見つめる。
と、急に手元に影が落ちた。
「降谷君、何困った顔してるの?」
「あ、コレうちのクラスもやったぜー」
丁度名前を書こうかどうか悩んでいた二人が、椅子についていた降谷を覗き込んでいる。
「……何て書いたの?」
「え、コレ? 決まってんじゃん、俺春っちとお前の名前書いたぜ」
あっさりと言ってのけた沢村に、春市も頷いた。
「俺も、栄純君と降谷君って書いたよ」
ごくごく当たり前のことのように言われ、少し驚いて降谷は首を傾げる。
「……いいんだ」
「へ?」
「何が?」
不思議に思った降谷に、沢村と春市も不思議そうな顔をした。
「友達だったんだ、と思って」
「ぬあっ!? 何だとテメーこら降谷ぁっ!!」
突然沢村が怒り出す。どうしたんだろう。
ぎゃあぎゃあ騒いでいる沢村の顔を、困ってじっと見ていると、春市が苦笑した。
「降谷君、言い方が悪いと思うよ? 俺も栄純君も、降谷君は友達だと思ってる。プリント書いちゃえば?」
「……うん。じゃあ、書くよ」
「シカトすんなコラーーーー!!」
まだ騒いでいる沢村は放っておいて、プリントに「沢村栄順」「小港春一」と書き込む。
「……ってちょっとお前それ漢字違うつーの!!」
「俺のも間違ってる、しかも苗字も名前も両方……」
見ていた二人が揃って文句を言った。降谷は顔を上げて沢村を見る。
「自分こそちゃんと書いたの?」
自分の名前さえひらがなで書く沢村だって、その辺はあやしいものだ。
「ちゃんと書いたぜ!!」
「ホントに?」
「漢字分からなきゃひらがなで書きゃいーし」
「栄純君……」
春市が沢村と降谷の顔を交互に見て、溜息をついた。
「貸して、俺が書くよ」
手を差し出した春市に、シャープペンと消しゴムを渡す。春市は書かれている名前を消して、「沢村栄純」と「小湊春市」に書き直した。
「これであってるの?」
沢村の名前を指差して本人を見ると、沢村が頷く。少し気になってじっとプリントを見つめると、春市が首をかしげた。
「降谷君、どうかしたの?」
「……僕の名前も書いてくれる?」
「え、氏名のとこ? そのくらいじ、 ……ああ、うん、いいよ」
不思議そうだった春市が、途中で納得したような顔をして、氏名欄に「降谷暁」と書き込む。
「間違いないでしょ?」
「うん」
間違いなく自分の名前も覚えていてくれたことが嬉しくて頷くと、春市が微笑んだ。
「へー、降谷の名前ってそういう漢字書くんだ」
覗き込んだ沢村を、春市がシャープペンで突っつく。
「栄純君、絶対俺の名前も降谷君の名前もひらがなで書いたでしょ」
「うっ」
「もー、二人とも野球バカなのは知ってるけどさ、もうちょっと野球以外のことも覚える努力をしたほうがいいよ?」
揃って春市に叱られてしまい、降谷は沢村と顔を見合わせた。
降谷視点の練習、と思ったんですが……難しい……
何と言うか意味不明ですね……
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2007/8/31 脱稿