「なんやお前、変なとこ器用やな」
食堂で同学年で溜まって話をしているときに、急に御幸がガムの包み紙を折り始めた。
ガムを膨らましながら迷うことなく御幸は銀紙を折り、それはあっという間に指輪の形になった。
その指輪は、単に輪にしただけのようなものではなく、中央に飾りの台座になりそうな部分まである。
「俺はいつだって器用っしょ?」
御幸は更に苺チョコの赤い銀紙を小さく丸め、その台座に石に見立ててはめ込んだ。
完成した指輪をテーブルの上に転がしながら、御幸はにやりと笑う。
「そりゃそうかも知れねーけど、自分で言ってんじゃねーよ」
ヒャハハ、と笑いながら倉持が突っ込みを入れた。
「ようできとんなー……よくこんなもんの作り方しっとるな、お前」
前園は指輪を手にとってしげしげと眺めてみる。どう見ても折りかたを知らずに作れる代物には見えない。
「俺いっぺん覚えたことはそう簡単には忘れないのよ。コレは確か、小学校の遠足のときに女の子に教えてもらったんだったかな」
「どうやって作るんや?」
「何ゾノ、興味あんのか? 結構簡単だぜ? っと、紙があまってねぇな」
御幸が新しいガムの紙を剥いて、中身を倉持の口の中に放り込んだ。
「むが! お前なー、先にことわれよ!!」
「お前なら焦って飲み込んだりとかしねーだろ。ゾノ、自分の分の紙は自分で用意しろよ」
「おう」
前園もガムの紙を剥いて、中身は自分の口に入れる。
「まずはこうやって―――」
「アレ。ゾノ先輩、手に何持ってるんですか?」
部屋に戻ると、春市が前園の手に視線をとめた。
「ああ、さっき面白そうやったから御幸に作り方教えてもらったんや。ガムの包み紙で作った指輪なんやけど」
「見せてもらってもいいですか?」
「おう」
指輪を渡すと、春市は興味深そうにしげしげと指輪を眺める。その様子がなんだか微笑ましいと思った。
「やるわ、それ」
「ええ!? その、いいんですか!?」
「何言っとるんや、元々ただのガムの包み紙や」
苦笑すると、春市はそれは嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、その……もらいます、ありがとうございます」
「……あん時のか?コレ」
「そう、です」
一年後、3年生が卒業して寮を出、新しく入ってくる1年生を迎えるために大掃除をしている最中。
春市の荷物から、銀紙で作った指輪を前園は発見してしまったのだった。
一瞬、見覚えはあるがどこで見たのかを思い出せず、記憶を辿ってみればそう言えばそんなこともあったと思い出した。
春市は恥ずかしそうに頬を染めて俯いている。
「なんやお前、こんなもん捨てればええやろが」
「す、捨てられませんよ! ゾノ先輩にもらったものですもん……」
ますます赤くなりながらの言葉に、前園の方が赤面した。
「いや、お前、貰った言うてもこんなもん……」
「でも、だって、コレ貰ったときは俺片思いだったし、初めてゾノ先輩に貰ったものだし、それにガムの紙って言っても指輪だし」
「ちょっと待て! 分かった、分かった!!」
言われている方が恥ずかしい。途中で止めると、春市は真っ赤な顔のままで再び俯いた。
「けど一つだけ訂正しとくで。付き合ってはおらんかったけど、片思いやったわけやないからな。俺だって、そん時にはもうお前のこと好きやった」
「え……」
驚いた様子で春市が顔を上げる。
前園はそこにそっと顔を近づけて、唇を触れ合わせた。
一年後には、きっとちゅーするくらいには進展してるはず……(見切り発車)
いや、うちのサイト、考えてみればまだくっついた話までいってないんで(笑)
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2007/8/26 脱稿