「あー……」
食後、食堂でまったり過ごしている時間。
缶ドロップスから一つ取り出した春市が嫌そうな顔をしたのを目に留め、倉持は声を掛けた。
「どうしたよ?」
「あ、その、ハッカだと思って」
「はぁ?」
「このドロップ、ハッカ以外の味は好きなんですけど、ハッカは嫌いなんです。でも、残して捨てちゃうのももったいないし……」
春市の掌に転がっていたのは、白いドロップ。
「そういや亮介さんもハッカの飴は嫌いだとか聞いたような……」
「そうなんですよ。子供の頃から、二人でこのドロップ買ってもらうと、いつもハッカばっかり残っちゃって。残すと怒られるって、無理矢理兄貴にハッカを口に放り込まれたりして」
「昔っからそうなんだな、あの人」
ヒャハハハと笑うと、春市も苦笑した。
「嫌いな食べ物がほぼ同じなんで、いっつもそんな感じでしたよ」
「前に、ハッカだけ入ってる缶を売ってるの見っけてさ、ありえない!って怒ってたぜ。自分が買わなきゃいいだけなのに」
「んー、でもその気持ちよく分かるかも」
春市が首を傾げると、横から手が伸びて、その掌にあったドロップがひょいっとつままれる。
「なんや、俺アレ好きやけどな」
ぽいっとそのまま口の中にドロップを放り込んだ前園を、春市が口をあけて見上げた。
「そういやゾノはハッカの方が好きだったよな」
「むしろ俺はハッカ以外のやつはいらん」
口をもごもごさせながらの前園の言葉に、倉持は思い当たることがあってニヤと笑う。
「じゃあお前、小湊とは趣味あわねぇな。そういやさ、食の好みの違いが原因で別れるカップルが多いってお前、知ってるか?」
「は? な、何言って、そもそも別にその」
「まあ、そりゃそうだよな〜、デートに行ってもどこで飯食うとかで毎回ケンカしてたら、別れる方がいいよな〜」
うろたえた様子の前園を覗き込みながら、倉持はニヤニヤと追い込みをかけた。
前園が春市にそういう好意を持ってること、それからまだ告白していないことは知っている。
と、春市が首をかしげた。
「そうですか?」
「え?」
「だって、ハッカだけが好きな人と、ハッカだけが嫌いな人だったら、二人で一缶食べたら丁度良くないですか?」
「そ、そりゃ、まあ、そうかもしんねーけど……」
理屈としてはそうだが、まるで前園と付き合うのを否定しないかのようにも聞こえる発言に、倉持は少し唖然とする。
「割れ鍋に綴じ蓋ゆうやつか?……っていいいいイヤその、別に俺とお前がそうやってとかっていっとるわけやないけど!」
思わず納得したらしい前園が、赤面して慌てて否定すると、春市が微笑んで前園を見上げた。
「ゾノ先輩、今度からこのドロップ食べるときは、全部ハッカを食べてもらえますか?」
「お、おう! 任せろ!!」
嬉しそうな春市と、照れながらも笑っている前園の間に花が飛んでいるような気がして、倉持は舌打ちをしながらその場を離れた。
これで付き合ってないとかいう人たち。
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2007/9/2 脱稿