あの後、俺は朔に入学した。
この学校には、前の学校の連中はほとんどいない。
選択教科も、美術は選ばなかった。
もう捨ててきた。あの青や、あの思い出は。
「すごーい、二見君絵が上手いね〜!」
「いやいや、普通っしょ、このくらい」
でも時々、こういう声が聞こえるのが億劫で仕方ない。
選択教科が終わり、美術の奴らとうっかり鉢合わせしてしまった。
あのときを思い出すから、避けていたのに――
『みっともない』
『はずかしい』
「そーいえば、私前にすごいきれいな絵を見たの! 多分どこかの中学だと思うんだけど……」
「二見君より?」
「二見君のも上手いんだけど……どこだったかなぁ……」
『もっと勉強しろ』
『外を歩けない』
「美術館とかじゃないの?」
「違う! バスケの大会の時見つけたから、絶対中学!!」
「え、高宮さんバスケ部?」
「マネージャーだけどね」
教室について、そっとため息をこぼした。
――何で音楽室と美術室が近いんだよ!
少ししわになった音楽の教科書を机にしまうと、次の化学も移動だということに気づいた。もうじき本令がなりそうだったから慌てて教室を出た。
「思い出した!たしか碧三中の……金沢って人の絵!」
「あれ、碧出身の金沢ってウチにいなかったっけ?」
一斉に振り返ったとき、授業開始の鐘がなった。
カサブタ
「ほら、アイツだよ『おこぼれ君』」
「そこまでして入りたい学校かなぁ、ここ」
「でも、ほら2年にもいるじゃん水泳の」
「あぁ、あの人もそうだっけ」
うるさい、うるさい、うるさい。
どこへ行っても、俺は『おこぼれ君』と呼ばれ、白い目で見られる。
たしかに、必死になってこの学校入った人には俺はムカつく存在かもしれない。でも、こっちも譲れない事情がある。
あの後、やっぱり母さんは暴れてて、中学入試の時よりひどくなっていた。
窓は割られて、壁はボロボロ、服も何枚かズタズタに引き裂かれていた。
泣きたいのはコッチなのに、母さんが泣き喚いて暴れるから、止めるのに必死で気づいたらどうでもよくなっていた。
「せっかくの身長、もったいねぇよな」
「何かやったんじゃない?取り消し寸前って事は」
「暴力沙汰とか?」
つまらない。
謂れの無い中傷を浴びすぎて、半分当たってるから笑いたくなって、俺は窓の外に眼を向けた。
「――――……あ」
その人を見つけた瞬間、走り出そうとして思いとどまる。
そこにはあの時のまま、取り澄ました、少し不機嫌そうな表情を浮かべた『金沢ながせ』がいた。
同じ学校だったことに感動して、その瞬間に『金沢ながせ』を知りたくなって……ふと、思った。
――――まだ、あんな絵を描き続けているのか……と。
そして絶望した。まったく違う世界にいる自分とあの人のことに。
「それに、話したこと……ないし」
でも、それでも、それでも……『金沢ながせ』と話したい。いろんなこと、話したい。
俺のこと、あの人のこと、絵のこと、そして――バスケのこと。
知りたくて、知りたくて……このまま面白くない3年間を過ごすはずだったこの学校を選んで、本当によかったと思った。
「――――先輩だったんだ、あの人」
自分よりかなり小柄な体を思い出して、思わず苦笑した。
―――――――――――
*中学時代〜高校1年時までを捏造。
主人公と高階をメインに書いていって、うっかり楽しかった!
高階は、主人公が同じ学校だと知ったときは、純粋に喜んでいたら良いな。
時計塔事件で主人公がウソをついた(まぁ、実際にはウソでもなかったけど)ことで、憎しみというより、妬みの感情が生まれたんじゃないかと思ってる。
基本、うちの高階は子供なんだよな〜。黒というより、愛情の足りない子供みたいな。
甘えたがりで、わがままで欲しがり。子供の残酷なところを残して大きくなっちゃったみたいな。
うん、ワンコだ。
捏造シリーズはマダマダ色々書きたいなぁ……
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