「もうじき、二見君の誕生日よね〜」
「今年は何あげる?」
「クッキーとか好きかな〜」
 女子のそんな言葉で、もうじき二見の誕生日が近いことを知った。
 他人の誕生日に興味なんて無かったけど、時計塔の時に迷惑かけたし、お詫びの代わりに……何かしたいと思った。


ヤサシイキロク


「――――何してるの、アナタ」
「別に」
 昼休み、誰もいない屋上で俺は二見の顔に触っていた。
 触ってみてわかったのが、コイツがムカつくくらい顔の整った奴だということ。
 目の大きさや鼻の形、いつも柔らかくほころんでいる唇、キレイに流線型を描いた輪郭。そしてサラサラの髪。
 ひとしきり触って、俺は二見の顔から手を離した。まだ、凹凸の形を覚えている手が、少し震える。
 ――――早く帰りたい。
「ねぇ、ホントどうしたの?」
「――別に」
 俺は、立ち上がって屋上の扉を開けようとした。その手は、二見の手に阻まれる。
「あのね、無言で人の顔に触って、その態度はどうなの?」
「どうって……」
 何が、と続くはずが、二見の口に吸い込まれた。
「キスして欲しいのかと思って――……」
 唖然とする俺に、二見は苦笑いをしながら濡れた俺の唇を親指で撫でた。
 その仕草に、思わず顔が熱くなる。何しても似合うんだよな、二見は。
「んなわけねぇーだろ!」
「だって真剣に俺の顔見たと思ったら、いきなり触るから、俺のハートはバクバクよ」
 俺が振り払った手を心臓に当てて、二見は大げさに肩をすくめた。
「んで、ホントのとこどうなの?」
 俺の顔に何か付いてた? という二見の問いに、俺はただ首を横に振るだけで終了させた。
 ――――今なったチャイムが、本令だからだ。


 イチョウの葉の色にそっくりな二見の髪。
「ねぇ」
 何色を重ねたら映えるんだろう。
「ちょっと」
 夕日に透けて、少しオレンジの髪もいいな。
「――――」
 笑顔、見たいな。
「――――え〜〜あの、無視しないでくださいますか?」
「――何?」
「俺、もう帰りたいんだけど」
 苦笑する二見を見ると、そこはもう駅で。とっくに分かれ道は過ぎていた。
 何となくバツが悪くて少し視線をそらすと、二見が息だけで笑ったのがわかった。
「――――なんだよ」
「じゃぁね、また明日」
 くしゃりと頭を撫でると、二見は何とも形容しがたい笑顔で人ごみの中に消えていった。

 家について、スケッチブックを開く。
 何枚も描き直して、やっと描きたい表情が決まった。今日出された課題は終わっている、後はコレを仕上げるだけ。
 親に内緒で買いなおした色鉛筆を握って、俺は真っ白の紙に色を滑らせていった。









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