ヤサシイキロク

 気が付いたら、スケッチブック1冊使い切っていた。
 改めて見返してみて、顔から火が出そうになった。
 でも、もう後には引けない。適当に、近くにあった封筒にそれを押し込んで寝た。

「おはよーございます!」
 家を出たところで、高階が通りかかった。あの事件以来、何だか無駄に爽やか度が上がった気がするのは、俺だけか?
 と、一瞬別のことに気を取られていたら、持っていた封筒を取られていた。
「何ですか、これ」
「――って、あ、おま……それ!!」
 がさっと言う音と一緒に、紙をめくる音が聞こえてきて、血の気が引くのがわかった。
 悔しいことに、アイツに高らかに腕を上げられると、その先にあるものは大概取れない。つま先立ちしても届かないのが、更にムカつく。
「うわっ。え、これ…もしかして全部ふ――――」
「おーまーえー、もう返せ!!!」
 やっと腕が俺の届くところまでおろされたから、慌てて奪い返すと、なぜか高階が顔を赤くしていた。
「先輩……なんかそれ、見た俺のほうが恥ずかしいんですけど……」
「――――うるさい……」
 高階の指摘に、俺も顔が熱くなる。高階がこんな反応だから、本人の反応が……少し怖くなった。
「ねぇせんぱい」
「ぁんだよ」
「今度俺の誕生日の時も、おんなじの欲しいな」
 少し間のあった後、すごく、すごくいい顔で高階が笑った。つか、さっき恥ずかしいって言ってなかったか?
「――こんなんでよければな」
 ため息混じりにそういうと、高階はさっきより嬉しそうに笑った。


「二見君、誕生日おめでとう」
「二見君、これ……」
 案の定、二見はいろんな人たちからプレゼントをもらっていた。机の上が、色とりどりの包装紙やリボンで埋め尽くされていく。
 それを眺めながら、俺は気づいたら鞄に手を置いていた。あの輪に入って、コレを渡すのは、かなり抵抗がある上、万が一槌谷に奪われたら、大変なことになる。
「――昼休みかな……」
「なにがなりか?」
「うわっ!」
 目の前に現れた、ユル顔槌谷に思わずのけぞると、バランスを崩して椅子が後ろに倒れそうになる。慌てた槌谷が俺の腕を掴むと同時に、椅子が倒れた。
「ジュリエのピンチは俺のもの!!」
「――――とりあえず助かった」
 意味は不明だが。
 その音で、二見がこっちに顔を向けた。目が合うと、立ち上がって俺の椅子を起こした。
「どしたの、大丈夫?」
「へーき。それより二見、昼休み――」
 言いかけて、槌谷がそばにいるのに気づいた。
「昼休み?」
「――――なんでもない、後で」
 そういって、俺はまだ掴んでいた槌谷の腕をゆるく振りほどいて、席に着く。キョトンとした槌谷に、小さく『ありがと』と告げると、嬉しそうに笑ってユルユル漂いながら席に戻っていった。






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