六の巻
「白牡丹」3.5



 惣一郎の愛撫は執拗だ。

 自分の触れ方で私がどんな反応を示すか、とことん確かめずにはいられぬらしい。
堪えきれず漏れる喘ぎ、さざ波のような快感に身をよじる微かな動き、睫や髪の毛ひとすじの震えさえ、惣一郎は常に見逃すまいと注視している。

 見られていることを痛いほど感じながら、私は昂っていく自分を止められない。否、止められなくなった。

 自分は以前からこんなだったろうか?

 これほど呆気なく惣一郎の愛撫に屈していただろうか?

 三年前、江戸を去る前も、一時は毎日のように惣一郎に抱かれた。

 無論、あの頃、私の心は全て誠之進ものだった。それを承知しながら、なおも真摯に私を求める惣一郎に対して、申し訳なさばかりが募る日々だった。思いを返せないことを辛いと思ったのは、惣一郎が初めてだった。

 それは何も惣一郎が主人だからではない。

 恋焦がれてはいなくとも、惣一郎という人間がやはりいとしかったからだ。

 …あの頃も、決して嫌ではなかった。

 男の自分が女のごとく惣一郎に組み敷かれ、愛を受けることに、正直抵抗はあった。時折、心をすべて明け渡さない私に焦れて、惣一郎が乱暴に振る舞うこともあった。それでも、肌の上を滑る指先から、しっとりと押し当てられる唇から、惣一郎が私を心底求めているのが伝わってきた。

 時に狂おしいほどに、時に心が泣き濡れるほどに優しく。

 二月に中屋敷へ戻ってからは、もはや誰にも邪魔されることなく、惣一郎は私と夜を過ごしている。

 私が言うのも何だが、積年の想い叶った嬉しさを、惣一郎は隠そうともしない。

 子のできる側室ならともかく、寵臣の閨を三日にあげず訪なうなど、藩邸『奥』が喜ばぬのはあたりまえだろう…。




 先程から惣一郎は、私の項や耳朶に唇を這わせながら、既に固く尖った胸の飾りを指の腹で丹念に愛撫している。胸への刺激は私を煽るだけ煽り、行き場のない熱が皮膚の下で悲鳴をあげていた。

 もはや藩邸のことも、綾姫のことも、私の頭から消し飛んでいた。

 ひき結んだつもりの唇の間から、いつしか切ない喘ぎが漏れていた。

 惣一郎の動きが一瞬止まり、私は反射的に目を開けた。
「…如何した?」
まだ息ひとつ乱さず、惣一郎は余裕たっぷりに薄く笑った。
ひたと私を見つめる惣一郎の瞳に、物欲しげなおのれの顔が写っていた。

 思わず目を逸らす。

 惣一郎がくすりと笑った。

 間をおかずに、惣一郎がまだ触れてないほうの突起を口に含んだ。異なる触れ方で左右の胸を攻められ、半勃ちだった私の刀身が固く張り詰めていく。

 気付いた惣一郎が、己の腰を擦り付けるようにしてきた。
「…あっ…んん」
惣一郎はまだ下帯をつけている。布越しのもどかしいような刺激がたまらない。思わず鼻にかかった声が漏れた。
「いい声じゃ。もっと‥聞かせよ」
深い声音で耳もとに囁かれ、背筋に震えが走った。それも納まらぬうちに、惣一郎は熱を持って脈打つ私の分身に軽く手を添えた。今度はお互いのものが確実に触れあうよう、角度を変えて腰を押し付けてくる。

 羽二重の下帯の中、惣一郎の屹立もさらに硬度を増し、お互いの形まではっきり感じ取れるほどになった。惣一郎は器用に腰をずらして、先端のくびれをゆっくりと擦りあわせた。
「男同士でのうては、斯様な愉しみは得られぬの…」
惣一郎は目を細めると、熱い吐息とともに私の耳もとに囁いた。

 焦れったいような快感に、私は半ば睫を伏せながら、かすかにうなずいてみせた。
「…今宵は素直じゃな」
片頬で笑いかける惣一郎を、私は一瞬、睫の隙間から軽く睨んだ。

 
 惣一郎は己の下帯も全て取り去り、私たちは夜具の上、一糸まとわぬ姿でふたたび肌を合わせた。仰臥した私に半身を重ねるようにして惣一郎が覆いかぶさり、左手を添えながら、己のものと私のものを直に擦りあわせている。先端から蜜が溢れはじめると、惣一郎の大きな手がふたつ合わせてゆるゆると扱いた。

 惣一郎の手の動きに、二つの刀身が絡み合い、時折湿った音をたてた。
以前なら、音だけで鳥肌をたてた自分だが、今は…何が違うのだろう。はしたない、汚らわしいと思うより先に、素直に愛撫に溺れる自分がいた。辛抱強く私から反応を引き出そうとする惣一郎が、恐れ多いことだが、なにやら健気に思えてくる。

「…右近」
されるがままに身を任せている私に、とうとう惣一郎が焦れて問いかけた。
「どうじゃ…」
返答を待つ間にも、惣一郎の手は間断なく動き、いつしか私のものだけを丹念に扱き始めた。もはや知り尽した様子で、私の弱い部分を確実にさぐりあててくる。息は乱れ、頭の芯が朦朧となっていく。
「どんな心地か…申してみよ」
何を言わせたいのか百も承知だったが、その手には乗らない。
先端を指の腹でこねられ、たまらず無言で小さくかぶりを振ると、
「なに…これでは足らぬのか?」
惣一郎は私の耳朶に唇で触れんばかりの距離で問うた。
私がなおも言葉にするのを拒むと、
「ならば…これでは?」
鈴口のあたりに軽く爪をたてた。
「あっ、はうっ…っ」
痛みと背中合わせの刺激に耐えきれず、私はちいさな叫び声をあげ、惣一郎の肩に指先でしがみついた。

 惣一郎は嬉しげに瞳を輝かせると、すっと身体を下にずらして私の腰に両腕を絡めた。

 初めて惣一郎に己のものを含まれたとき、羞恥で目眩がしそうだった。家臣のものを口に含むなど言語道断と、懸命に惣一郎の肩を押し返したものだ。それにもいつしか慣れ…。

 惣一郎は指でしたのと同じように、己の舌で私の刀身をていねいに愛した。ねっとり舌を絡めて吸ったり、舌先で戯れるようにつついたり、巧みな攻めに私は我を忘れかかっていた。
「ん…ああっ…」
たまらず惣一郎の頭を両手で引き寄せてしまった。
惣一郎が私のものを口に含んだまま、驚いたように目をあげた。
私は深く恥じ入りながらも、放出を求めて浅ましく脈打つ躯を持て余していた。

 とにかく一度、この熱を鎮めてほしい…。

 己の手を惣一郎の肩にそっと置き直し、私は瞳で懸命にねだった。

 惣一郎には伝わったはずだ。それなのに、惣一郎は銜えていたものを放すと、枕元に這い上がってきた。しばらく無言でじっと見つめていたかと思えば、惣一郎の手が私の股間に伸びてくる。ふたたび手で慰める気かと思えば、指先が弄ぶように茂みに絡んだ。

 嬲るような動作に焦れた私は、
「…惣一郎さまっ」
熱く掠れた声で名を呼んだ。

 それでも惣一郎は片手で袋をやわやわと揉みしだくだけで、肝腎の所には一向に触れてこない。下腹の疼きに耐えかねた私は、思わず己の手を伸ばしていた。

「ならぬ」
低い声音で鋭く言い放ち、惣一郎は私の手を押しとどめた。
もはや私の屹立は放出を求めて限界まで張り詰めていた。
「若殿っ…」
喉から絞り出すような声音にも、惣一郎は耳を貸そうとしない。
とうとう私の意志に反して、悩ましげに腰が揺れ始めた。

「もう…我慢できぬのか?」
ようやくの問いかけに、私は素直にうなずくしかなかった。
惣一郎の前腕に片手で縋り、ふたたび瞳で懇願すると、惣一郎は口元を柔らかく綻ばせた。
「その顔…たまらぬな」
溜息のように呟くと、惣一郎は半身を起こし、私の右肘をとって起きるように促した。

 何をさせようというのだ…?

 私は苛立ちながらも主人の言葉に従った。

「なれど、まだいかせてはやらぬ…」
惣一郎は優し気な声音で酷な台詞を吐くと、そそり立つものを曝したまま夜具の上に胡座をかいた。
「ほれ…昨日見せた絵のように…身供の上に腰を降ろしてみよ」
「あ…」
惣一郎が製作中の『絵』を思いだしただけで、一瞬にして頬に血がのぼった。

「…あ、あれは…お許しくださりませっ」

 いわゆる『抱えどり』といわれる形だ。

 いくら『慣れた』とはいえ、自分から惣一郎の屹立を菊座にくわえこむなど、そこまではしたない真似はできなかった。

「主命じゃと申したら?」
からかうような声音の惣一郎に、
「…斯様な物言いは…卑怯にござりまする」
かろうじて反論したが、瞳は熱く潤み、声に力はなかった。
「では…このまま寝所に引き返そうかの」
惣一郎はわざとらしく微笑むと、
「よいのか…そのままで?」
つと手を伸ばして私の分身を人さし指で指し示した。
つられて見てしまった己のものは、腹につくほど立ち上がり、しっとりと涙を滲ませている。
私はたまらず目を逸らした。

 焦らされつくした躯は限界を訴えていた。間合いを見計らったように、
「まいれ」
惣一郎が低く命じた。




「はっ…ああ、ああっ」
下からめり込んでくる熱い楔。
待ち焦がれていたように絡みつく肉襞。

 私は胡座をかいた惣一郎の上に、足を大きくひろげ、背中を向けて腰をおろしていた。初めは惣一郎が私の腰に両手を添え、己の屹立にあてがっていた。だが先端が入口にめり込むと、私の菊座はさらに惣一郎を中へ誘いこもうと浅ましいほどに収縮した。

「お、お許しください…」
消え入るような哀願も、もはや口先だけのもの。それは自分が一番よくわかっていた。惣一郎は私の腰に手を添えているだけで、結局は自らゆっくりと腰を落として、惣一郎の楔を根元まで納めた。

 あれほど拒んだ体位も、いざ結合を果たしてしまうと、圧倒的な快感は私から羞恥も見栄も奪い去っていく。熱く脈打つものに躯の奥深くを犯されながら、惣一郎の右手で前をゆるゆると扱かれ、私は身を捩らせて前後からの攻めに耐えていた。
 
「う…うんっ…ああっ…」
躯の奥深く潜むあの一点を突かれれば、すぐにも達してしまいそうだった。
しかし、惣一郎は自ら積極的に腰を動かそうとはせず、あくまで私まかせだった。夜具の上で戯れ始めてからすでにかなりの時間がたっている。惣一郎とてそろそろ限界のはずだが、相変わらず小憎らしいほどの余裕を見せていた。

 惣一郎の左手が私の胸の飾りに伸び、とうとう三所責めとなった。
執拗にこねまわされ、私の息は切なく早まった。
「あああっ…惣一郎様…もはやっ…」
期せずして叫びのごとき哀願が口から漏れる。
赤く熟れ切った突起を擦られる度に、反射的に後ろが惣一郎自身を締め付けた。 「もっと欲しいか…右近」
惣一郎は熱く掠れた声で囁き、一度後ろから強く抱きしめると、私の膝裏に手を入れて一気にすくいあげた。

 両足をすくいあげて開かせるあられもない姿*。
膝裏に置かれた惣一郎の手以外、私の体重を支えているのは体内で熱く脈打つ楔だけだった。
否応無しに意識がそこに集中してしまう。
「お…お許しくださいっ……!」
果てもなく乱れていきそうな自分に恐怖し、私は掠れた声で許しを乞うた。
「何をいう…まだまだこれからじゃ」
惣一郎は私の項のあたりでくすりと笑い、いきなり激しく突き上げてきた。

「あっ、ああああっ一!」
気が狂いそうになる一点を、惣一郎の楔が容赦なく攻めたてる。その度に熟れた内壁が絞り込むように収縮し、惣一郎の呼吸も次第に甘く乱れてくる。

 菊座を出入りする湿った音とともに、猛烈な射精感がせりあがってきた。 
「若殿っ…」
引き絞るような悲鳴をあげ、私はようやく己自身を解放した。

 気がついた時にはもう遅く、熱い迸りが夜具を直撃していた。

 しまったと思いつつも、快楽に弛緩する私は指一本動かすのも億劫だった。

 そのまま惣一郎の胸に背を預けるように、私は脱力していった。足を抱えられたままの不様な格好だったが、もはや抗議する気も失せていた。

 焦らすだけ焦らされた後、ようやく許された放出に、私は気だるい余韻に浸っていた。

 惣一郎は後ろからやさしく抱きしめながら、私の息の納まるのを待っていた。やがて抱えた私の両足を降ろすと、繋がったまま膝をついて前屈みになるよう促した。惣一郎はまだ一度もいっていない。私の中で脈打つ楔もまったく硬度を失っていなかった。
このまま『後ろどり』に持っていく気だなと、渋々従うと、
「そなたも…これしきでは足りぬだろう? 今宵は存分に…かわいがってやるゆえ…」
何処ぞのいやらしい殿様のような台詞に、私は思わず呆れ、くすりと笑みを洩らしかけた。
「笑うたな?」
「いえ…滅相もない…」
「そなたのような不心得ものは…」
惣一郎はゆっくりと膝立ちになって私の背に覆いかぶさった。
「…いかがなされます?」
肩ごしに嫣然と微笑んでやると、惣一郎は無言で私を後ろから引き寄せ、深く抉るように腰を使い始めた。
「あっ、んああ…っ」
先程とは違う角度で内壁をこすられ、またしてもあられもない声がでた。
熟れ切って敏感になった肉襞がこれでもかと惣一郎に絡みついた。
「う、右近…っ」
背後で熱い息とともに、惣一郎の感極まった声が漏れた。

 ある時は戯れるように、ある時は相手を貪るがごとく、惣一郎と私は飽くことなく交わり続けた。うねりのような快感に身をゆだねながら、私は肉欲に支配される、底なしの淵を垣間見た気がした。


*この形「乱牡丹」というそうです(解説:仙之丞)




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イラストは『夢幻華亭』さんからお借りしています。

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