十一の巻
「夕凪」4 前編




by 戸田采女

 誠之進とふたりで旅に出る…。

 いや、正確にいうと『出奔』するのだ。

 養子になど行きとうはない、大名になどなれぬと、あれほど何度も言ったのに父上は耳を貸してくれなんだ。

 ならば誠之進が後見として付き添うと言うても、それも退けられた。藤十郎以外の重臣たちが、よってたかって我らを引裂こうとする。

 もうよい…。

 誰にも何も頼まぬ。

 誠之進は…どこまでも私と共にゆくという。

 そのために家も身分も知行も、何もかも捨てると言うてくれた。

 本当は…私とてわかっている。
誠之進を愛しているなら、そんなことをさせてはならぬのだ。
石頭の主膳はともかく、誠之進の母上の嘆きを思うとやりきれぬ。

 されど…。

 誠之進と引き離され、私ひとりが本田家にやられるなど…。いくら源蔵やお福がついてきてくれても、国許を離れ、誠之進もいない場所で私がどうして生きていけよう? 結局、遠国へ養子に出すのなら、父上も何ゆえ私をわざわざ加賀屋からひきとったのだろう。

 私は…誠之進がいてくれたから、城での暮らしに馴染むことができた。父上にはまことに申し訳ないが、父上は江戸と国許を一年ごとにいったりきたり。国許においでのときでさえ、私と同じ屋敷に暮らすわけではない。大名家ではそれが普通なことくらいわかっている。父上をお恨み申す気持ちは毛頭ない。されど、毎日をともに暮らし、私が今まで父とも兄とも頼んで来たのは誠之進だ。

 父上と誠之進、どちらをとるかと言われれば、答えははなから決まっている。
誠之進は血の繋がった誰よりも愛しい、かけがえのない想い人だ。失っては生きていけぬ。

 誠之進が出奔しようと言うのなら、私も覚悟を決めようと思った。




 砂地のハマボウフウの茂みの中、脱いだ浴衣をしいて、私と誠之進は裸で抱き合っていた。

 誠之進の肩越しに空を見上げれば、水平線の彼方に黄金色の夕焼けが広がっていた。夕闇が落ちてくるまでには、今しばらく時がかかるだろう。小さな入江には漁師の網小屋などなかったが、いつなんどき、近隣の者が通りかかるやもしれぬ。

 だがそんなことも、もはやどうでもよくなっていた。

 (誰に見られようと構わぬ。

 誠之進が好きだ、契りおうたふたりが肌を合わせて何が悪い?!

 城で人目を気にして誠之進と夜を過ごせぬなど、もうそんな窮屈なことはたくさんだ…。)

 寄せては返す波の音以外、辺りは静けさに満ちていた。

 ひととき、何もかも忘れて身をまかせたい…。

 馴染んだ肌の温もりに包まれ、私は夢見心地で誠之進の愛撫にこたえていた。

 しなやかな長い指が前髪を梳いてく。子供の頃からそうされるのが大好きだった。頬や顎に羽毛のごとく軽やかに触れながら、時折合わさってくる誠之進の唇は、暖かくて柔らかで…もっともっと触れあっていたくなる。少しでも離れれば、どこまでも追いかけてしまう。
 
 追いかけると、誠之進はふたたび私をつかまえて、より深く唇を合わせ、今度は舌を絡めて強く吸った。ふたりの吐息がひとつに溶けていく。触れあった部分が痺れたように心地よく、背筋に甘い震えが走った。

 口吸いを続けながら、誠之進の手が私の下帯に伸びた。もどかしそうに布を緩め、最後は半ば引きちぎるように取り去った。既に恥ずかしいほど固く張り詰めていたものが、誠之進の目の前に曝されている。

 誠之進は目を細めてしばしそれを見つめたのち、そっと手を伸ばして掌の中で袋を転がすように愛撫した。軽く優しい触れ方が物足りなくて、我知らず腰が揺れてしまう。
「誠之進っ…」
見下ろす鳶色の瞳を見つめ、懸命に訴えたつもりなにの、誠之進は袋や会陰のあたりをそっと指先で行き来するだけだった。

 焦らされている…。

 わかった瞬間、何やら悔しくて、誠之進のすました仮面を剥いでやりたくなった。

 私も誠之進の下帯の手を伸ばして軽くふれてみると、充実し、熱く漲ったものが下帯の中で天を突いていた。

 (自分とて…切羽詰まっておるくせに…)

 私が布の上から撫でさすると、
「若…っ」
誠之進が目を細めてくっと息を詰めた。
さらにしっかりと手を押し当て、掌で形を確かめるように撫でると、誠之進は秀麗な眉を寄せて、薄く開いた唇の間から気持よさそうに息をもらした。

 何もかも捨ててふたりだけで旅に出る…。

 そんな無謀な決意と、海辺の開放感のせいだろうか。

 自分でも戸惑うほど、身体中が誠之進を求めて渇きを訴えていた。




  脱いだ浴衣の上に、今度は誠之進が仰向けに横たわった。私は誠之進の脇に座り込んで、股間へと身をかがめた。熱く脈打つ屹立は、見ているだけでどきどきしてしまう。誠之進のものを口で愛撫したのは、まだ数えるほどしかかない。戸惑いもあり、ぎこちなく唇を寄せる。猫のように舌を鳴らして竿の部分を舐めると、誠之進は上体を起こし、大きくて暖かい掌がゆっくりと私の頬をなでた。

 まだ陽のあるうちから、しかも戸外で斯様な振るまいに及ぶとは…。冷静になって考えれば、憤死しそうなほど恥ずかしい。されど、誰に強いられたわけでもない。今の私は自分からそうしたかったのだ。誠之進が気持よさそうに仰のき、眉を寄せる顔をもっと見てみたい…。

 私は記憶の引き出しを探り、誠之進がしてくれたことを思い出そうとした。丁寧に舌を絡めて竿を舐め上げ、先端を含んで唇で上下する。いつしか四つん這いになって、夢中で誠之進のものを頬張っていた。息が詰まって苦しかったが、質量を増していく屹立を懸命に愛した。

 「若…っ」
誠之進の声が熱く掠れている。
私の頬を撫でる手が、時折しっとりと押し当てられ、指先に軽く力がこもる。
稚拙な愛しかたでも誠之進は感じてくれているのだろうか?
先端をくわえたまま、ちろりと上目使いに見上げると…誠之進と目が合ってしまった。

 あ……。

 顔から火が出るほど恥ずかしかった。
思わずかたまってしまった私に、誠之進がふわりと目元を和ませ、
「若…」
艶のある深い声で私を呼んだ。
「こちらへ…おいでなされ」
こちらへと言われてもよくわからず、一旦誠之進のものから顔を上げて目で尋ねた。
誠之進はくすりと笑い、ふたたび仰向けに横たわった。
「私の…顔の上にまたがってごらんなされ」
「え…」
相手の意図を悟り、私は羞恥でさらに身をこわばらせた。
「い、いやじゃ…そのようなこと」
私がふるふると頭を振ると、
「なぜ…?」
尋ねながらも誠之進は私の左膝に手をかけ、強引に自分の上にまたがらせた。
誠之進の顔の前にまともに尻をさらす形となり、あまりの恥ずかしさに逃げ出したくなった。
「やだっ…」
いざって前へ逃れようとしたところ、右の太腿にも誠之進の手がかかり、私はぐいと引き戻された。
四つん這いで、誠之進の顔の上に後ろ向きにまたがっている。
こんな体勢では何もかもが誠之進から丸見えだ。
「は、離せぇっ…」
涙声で訴え、身を捩っても、誠之進はますます手に力を込めて私の両足をつかみ、今度は自分が身体をずらして、丁度いい位置に顔を持っていった。

 間をおかずに、誠之進が張り詰めた私のものを口に含んだ。
「誠之進っ…」
熱い口腔内にすっぽりとのみ込まれていく。
恥ずかしさで死にそうなのに、あまりの心地よさで溢れるように声が洩れた。
「あっ…ああ…」
誠之進の舌先が先端のくびれをなぞると、たまらずに内股が震えてしまう。
「や…誠之進っ…んんっ…」
私は誠之進の腰骨のあたりに頬を預け、快感に喘いでいた。
薄く目をあければ、置き去りにされた誠之進の屹立が、天を突いている。
「あ…」
与えられる刺激で感じすぎていた私は、もはや誠之進のものを口に含む余裕はなくなっていた。だがこんな姿のまま放っておくのも気の毒で、そっと左手で屹立を握りこみゆるゆると扱いた。

 愛しいものが手の中で嬉しげに硬度を増した。
誠之進はいったん口を放すと、今度は袋を舌先でなぞるように愛し始めた。もどかしいような刺激に腰が絶えまなく揺れてしまう。
左手が尻の肉をやわやわと揉んでいたかとおもうと、
「くうっ…」
蕾に指先が侵入してきた。
そのままゆっくりと回すように、指の腹が内壁をやさしく擦りながら、蕾をほぐしにかかった。
誠之進の舌も休みなく動き、今度は先端の鈴口に攻撃をかけてくる。
舌と指で同時に前後を攻められ、
「はあっ…あん…ううっ…」
耳を覆いたくなるほど、はしたない声が洩れ始めた。
腰から下が淫らな刺激でどろどろにとろけてしまいそうだ。

 後ろを出入りする指が濡れた音をたてながら、さらに奥へと潜っていく。
「誠之進っ…あっ…はぁぁ…」
いやいやするように前髪をうちふるうと、指が二本に増やされた。
「あ…くうっ…」
高まる圧迫感…。しかし誠之進自身とは比べものにならない。
少しずつ慣らそうとしているのはわかるが、契ってから一年。抱かれることに慣れた躯はそんなものでは物足りなくなっていた。

 誠之進のものが欲しい…。
はやく、ひとつになりたい…。
 
 涙目で肩越しに振り返ると、誠之進は突然動きをとめた。
「え…っ」
あろうことか、尻の肉を両手でつかみ蕾に唇を寄せてくる。
「誠之進っ!」
あまりの恥ずかしさに声をあげると、誠之進の舌先が入口をつつくように嬲りはじめた。


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