十一の巻
「夕凪」4 後編




by 戸田采女

 私が指を抜くと、三郎の蕾が喪失感で寂しげに収縮している。
舌先で舐めてやると、敏感すぎるくらいに反応し、ぴくぴくと震え始めた。

 羞恥に身悶えながらも、快楽に勝てない躯…。
そんな風に教えこんだのは自分だった。
三郎は私以外の者の肌を知らない。

 なれど、ここまで慣らされた躯だ。もしや他の男の手にかかっても、たやすく快感に泣くのだろうか?

 本田忠直のような老人が、三郎を満足させられるとは思わないが、ああいう好色な老人は秘具を使ったり、三郎を家臣に犯させ、それを見物して楽しむつもりやもしれぬ。

 三郎の象牙色の滑らかな肌に細縄をうち、屈強な侍を後ろから挑ませる…。
三郎は無論抵抗するだろうが、やがて…泣叫んだ喉からかすかに甘い息がもれ…。

 愚かな妄想だとわかっていても、頭の中にそんな三郎の姿が浮んでは消えた。

 我ながら度しがたい悋気だ。

 だが、もはや三郎が本田忠直に相まみえることはない。

 何もかも捨てて出奔しようという私のよびかけに、三郎は応えてくれた。

 どこまでも、地の果てまでも、私を信じてついてきてくれるという。

 おそらく承知してくれるとは思っていたが、黒目がちの瞳がまっすぐに私の目を見つめ、はっきりと決意を示したとき、感極まった私は言葉をなくしていた。

 何があっても三郎の手を放すまい…。

 どちらかが命を終えるまで、決して離れはしないのだ。


 ふと我に帰れば、三郎が四つん這いになったまま、私の腹の上で小さく喘いでいた。
中途半端に高められ熱を持て余している姿は、私をさらに煽りたてた。
三郎の尻を軽く前方に押し、上体を起こす。
「誠之進?」
何をする気だと、肩越しに目で問う三郎に、
「若…こちらを向いて…」
腰に手をそえて、一旦自分の身体の上から退かせると、今度は向き合う形で股の上に坐らせ、固く尖った刀身を、三郎のひくつく蕾に押しあてた。

 「あ…誠之進っ…」
両の親指で押し広げるようにして、熱を持っておののく蕾に己の切っ先を含ませた。
いっぱいに広がった部分が、さらに皮膚を伸ばしながら懸命に受け入れようとしている。
「若…ゆっくりと…腰を降ろしてごらんなされ」
三郎は固く目をつぶりながら、言われた通りに私の屹立をのみ込んでいく。
辛そうに眉根を寄せながらも、細かくうねる腸壁は私にまつわりつき、さらに奥へといざなう。

 「三郎ぎみっ……」
真綿のような締め付けに、気を抜けばもっていかれそうになる。意識をそらして大波をやり過ごし、私は三郎の様子を伺いながらゆっくりと根元まで挿入した。
「あっ…ふうっ…うう」
いつもと当たる角度が違うのか、三郎が瞳を泳がせて私の肩にすがろうとする。そのまま掴まらせ、優しく背中を撫でてやる。少し身体が慣れたのか、三郎がほっと深い息をついた。

 ひとつに繋がって奥深くまで満たされ、三郎は至福の表情を浮かべていた。
浅く息をしながら私の肩にすがり、熱く潤んだ瞳で見上げてくる。頼りなげな子供のようでもあり、男を誘う確信犯のようでもあり…。

 大人と子供の境目で揺れ動き、無垢な瞳と男を虜にする身体で三郎は私を翻弄する。

 (たまらぬな…)

 正直に言おう。三郎を愛しく思うだけでなく、身体でも離れられなくなっていた。

 私は三郎の手を自分の肩から外させると、繋がったまま上体を後ろに倒して両肘で身体を支えた。
「せ、誠之進…?」
「若が動いてごらんなされ」
「え…」
三郎が戸惑ったように呟き、一瞬にして耳まで紅に染めた。
「恥ずかしがることはありませぬ」
「な、なれどっ…」
うつむいて小さく頭を振る姿が、さらに私を煽った。
「嫌ならそのままじっとしていても構いませぬが…?」
ゆるく下から突き上げると、
「あっ…」
三郎がぶるりと身を震わせた。
「…それでは我慢できぬでしょう?」
「誠之進っ…」
はやくも三郎の腰が前後に揺れ始めていた。
「ほれ…たやすいことです…」
三郎は目に涙を浮かべながら、屹立をくわえこんだまま動き始めた。

 若木のようなしなやかな身体が、私の上でゆらゆらと揺れていた。
快楽を追いはじめた身体は歯止めがきかぬようだった。
「う…んんっ…」
鼻にかかった声を出しながら、三郎の動きが激しくなる。
たまらずに私の胸に手をついて身体を支えた。
「誠之進っ…なにゆえ…じゃ…」
またがって腰を振りながら、三郎が喉声に叫んだ。
奔放な姿に見とれていると、
「私ばかり…このような…っ」
ふたたび眉尻を下げて、泣き出しそうな顔で見つめてくる。

 いましばらく三郎を困らせ、かわいらしく乱れる姿を眺めていたかったが、私のほうもそろそろじっとしているのが苦痛になっていた。腹筋で上体を起こすと、私の楔に貫かれた三郎を抱きしめた。
「そなた…いじわるじゃ」
拗ねたように呟くと、三郎は私の背に両手を回してきつくしがみついた。
「若があまりにかわいらしいのでつい…」
苦笑しながら謝ると、
「ばかもの」
三郎の唇がしっとりと重なってきた。
深い口づけを交わしながら、私は三郎の背を片手で支えて反対側に押し倒した。
そのまま開いた膝を折り曲げるようにしてのしかかる。
体勢を入れ替えるとき抜けかけた刀身を、ふたたび奥まで突き入れた。
「あぁぁぁぁ…っ!」
鋭い声をあげて仰け反る三郎を、休む間もなく追いあげた。
角度を変えて内壁をこすりながら奥まで挿入し、突然抜けるぎりぎりまで引き抜いてやる。
「はあっ…ううっ」
三郎が衝撃に耐えようと両手で下草を握りしめた。

 屋敷の中と違い、だれ憚ることない海辺で、私も三郎も常より大胆になっていた。
どうせ我らは遠からず出奔するのだ。あられもない姿を誰に見られようが、三郎の可愛いよがり声を聞かれようが、もはやどうでもよい気がしていた。

 心のおもむくまま、存分にお互いを貪り合う。

 「三郎ぎみ…」
ゆるやかに律動を刻みつつ、時おり奥まで深く達する。内側から三郎を狂わせる秘密の場所を突きながら、私は刻々と変わる三郎の表情を、ひとつも見逃すまいと追いかけていた。

 激しい突き上げには眉を寄せて涙を滲ませ、やわらかく抉るような動きには、とろんと眉尻を下げてうつろな瞳で浅い息をついている。

 何もかも預けきっている様子に、どうしようもなく胸が疼いた。三郎の両足をしっかりと抱え直し、熱く熟れた蕾を容赦なく蹂躙する。絶えまなく洩れる喘ぎと、うねるようにまとわりつく肉襞が、三郎の快感の深さを物語っているようだ。

 「誠之進っ…んっ…あ…あぁん…」
宙を見つめている瞳が、一瞬、睫の間から艶めいた眼差しで私を捉えた。
「若…っ」
心の臓を鷲掴みにされ、放出を求めて荒れ狂っていたものが、頂点へと追い上げられる。

 三郎の両足を肩に担ぎ上げ、荒々しい突き上げを開始した。
くり返す波の音に混じって、はしたないほど湿った音が洩れてくる。
「あっ…誠之進…い、いやじゃ…」
音に煽らたのか、三郎の身体が羞恥と快感でさざ波のように震えていた。
「嘘をお言いでない…」
私の腹にあたる三郎の屹立は限界まで張り詰め、とろとろと蜜をこぼしている。
「これは…?」
片手で三郎を握りこみ、親指の腹で先端をこねてやると、
「やァっ…」
涙を滲ませながら身を捩った。

 私自身もそろそろ限界だった。
弱い部分を狙って先端で何度も突き上げると、
「せ、誠之進っ」
三郎が胸を反り返らせて両腕をつっぱった。
抉るように再奥を穿つと、
「あっ、ああぁぁぁぁ一っ」
三郎の喉の奥から掠れた悲鳴があがり、ちぎれんばかりに私を締め上げた。
「くうっ…」
極まった私も抑えに抑えたものを解放し、三郎の中に熱い樹液を放っていた。

 つま先までつっぱった三郎の身体が、ゆるやかに力をなくしていった。私も放埒な快感に浸りながら、三郎の肩に頬を寄せ、愛しい身体を抱きしめた。




 荒い呼吸もやがて静まり、波の音に溶けていく。
「誠之進…」
「はい…」
「…どこまでも…一緒じゃ」
「…若」
「決して離れはせぬ…」
溜息のような三郎の呟きに、私は万感の思いで両腕に力を込めた。

 私たちはしばし言葉をなくしたように、お互いの胸の鼓動に耳を済ませていた。





 やさしい肌の温もり包まれ、しばしの休息をとった後、あらためて身支度を整えて、暮色が迫る浜をあとにした。

 丘の上の屋敷につながる小道をいきながら、私は一度立ち止まり、眼下に広がる海原を振り返った。

 「誠之進…?」

 私の足音が止んだのを訝り、三郎が肩ごしに振り向く。

 「…何でもありませぬ。さ、参りましょう…」

 柔らかく微笑んで、三郎を促した。

 次にこの海を見るのは、首尾よく高山を脱出するときか一。

 血のような夕陽が大海原の彼方に沈もうとしていた。


つづく


「夕凪」4・前編「夕凪」5
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