「初恋」あとがき




 自作の解説は野暮の極地ですが…、ちょっとだけ語らせてちょ。

 なかなか見えなかった誠之進の右近に対する気持ち…。そろそろ明らかにしておこうと思いました。

 おそらく右近の気持に気付かない鈍感のように思われていますが(笑)、

 「あの右近に」…惹かれないわけがないですよね。

 少年時代のおませな誠之進は、右近に惚れてしまい、わざわざ藩校に入学したようなものです。あのまま佐伯羅山の私塾に通っていても何ら問題はなかったのですから。

 だけど、二人とも葉隠武士(爆)なんです

 とっても「ええかっこしい」で、なかなか本音を表に出せない…。好きでたまらないから、相手を失うリスクを冒すのが怖い。

 あの今町湊の一夜が、二人のあり方を変える唯一のチャンスでした。

 「男同士で契るなど鳥肌がたつ」という右近の台詞をまにうけて、誠之進は右近への恋をあきらめました。右近をそういう対象として見ないよう、懸命に自分を律します。

 江戸にいた頃など、まだ微妙だったかもしれません。

 三郎の守役を仰せつかって国元に帰ったことで、ようやく一つの区切りがついたのだと思います。

 一方、晩生の右近は今町湊のあの日から、ようやく誠之進への慕わしさは『恋』かもしれないと気づくのです。(右近視点は「晩夏 」5話

 哀しいすれ違いです。

 どちらもがあの時、もう一歩を踏み出す勇気がなく、ふたりは恋人同士になる機会を逃しました…。

 そして、数年後、誠之進は三郎と出会ってしまいます。

 もう時計の針は逆戻りできません。

 心は半分町人の三郎に、武士の見栄はありません。自分の気持に正直に、捨て身で誠之進にぶつかります。

 一方、悲しいかな、右近の時計は藩校時代のまま止まっています…。


 三郎と誠之進、惣一郎と右近の恋の行方もですが、誠之進と右近の行き着く先を、読者の皆様に見届けていただければ嬉しく思います。

                              戸田采女拝