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江戸、上野池之端、高山藩中屋敷。藩主嫡男・結城惣一郎の寝所。
「……国許へ帰るなぞ、断じて許さぬ…」
惣一郎は静かな怒りを滲ませ、低い声音で右近の耳元に囁いた。
ほの暗い行燈の灯りに白磁のごとき胸を曝して、右近は惣一郎の身体の下で小さく喘いでいた。
惣一郎は先程から右近の両手首を敷布に押さえ付けている。
右近の指先は色を失い、触れた部分から鼓動の高まりが痛々しく伝わってきた。
「なれど…殿とご家老の命とあらば……いた仕方ありませぬ」
「偽りを申すな!」
鋭く言い放つと、惣一郎は右近の脚の間に乱暴に身を割り込ませた。
「…惣一郎様っ!」
逃れようと身を捩る右近の身体の上に乗り上げ、
「そなた、再び誠之進に会えるのが嬉しいのだろう?」
上から見下ろすようにして、惣一郎は意地悪く囁いた。
目元を染めて、右近がふいと横を向いた。
言葉より雄弁なその仕種に、惣一郎は唇をかんだ。
わざと猥らに腰をすりつけながら、
「……正直なやつだな」
右近の膝裏に手をかけ、片足を腹につくほど折り曲げる。
露になった菊座のまわりを、惣一郎の先端で焦らすように探ると、右近が眉を寄せて身をすくませた。
「…まだ慣れぬのか?」
惣一郎は嬲る動きから一転して腰を突き入れた。
右近の白い喉が反った。
先端が入った後、惣一郎は一旦動きをとめ、相手の反応をうかがう。
右近は瞼を固く閉じ奥歯を噛みしめている。
時折、唇の間から吐息ともうめき声ともつかぬものが洩れた。
だが本人の意志に反して、熱い内壁は誘うように蠢き、惣一郎にまとわりついた。
「そなた…もはや私なしではおられぬだろう…?」
右近の耳朶に触れんばかりに唇を寄せ、惣一郎は恍惚として囁いた。
「…く、くだらぬことを、申されるなっ」
語尾を震わせながらも、右近が柳眉をつりあげて睨み返した。
惣一郎は鼻先で笑い、ゆっくり秘肉をかきわけるように身体を進める。
右近が息をのみ、反った背が敷布からわずかに浮いた。
「さて…そなたの身体に聞いてみようか…」
右近が口惜しげに唇を引き結んだ。
惣一郎は胸の突起を指でつまみ、ひねるように嬲った。
打ち込んだ楔で内側から弱い部分を責めると、右近は目尻に涙を滲ませて身をよじった。
しかし一言も声は洩らさない。
「強情なやつめ…」
苦々しく呟きながらも、惣一郎は右近を責め続ける。
右近なしではいられないのは己のほうだった。甘美な毒に、惣一郎は骨の随まで侵されていた。
惣一郎が浅い抜き差しをくり返すと、右近の伏せた睫が震え、淡い桜色に染まった胸がせわしなく上下した。
「正直に申せ」
惣一郎が問う。
右近はそれでも唇を引き結び、潤んだ眸で精一杯睨み返した。
惣一郎は右近の視線を真正面から受け止めたまま、細腰を両手で掴んで奥まで一気に貫いた。
右近の背が大きくしなった。
そのまま、捩り込むように腰を使い始めると、
「っあ…あぁぁ…っ」
とうとう右近が耐えかねたように声をあげた。
「申してみよ…誠之進に抱かれたいか?」
乱れる息の下から右近は切れ切れに訴える。
「誠之進は…斯様な…猥りがわしき…ことなどっ…」
「…せぬと申すのか?」
奥歯をかみしめる右近に、惣一郎はつかの間動きを止めて冷笑をあびせた。
「さて…涼しげな顔をして、案外閨ではしつこいかもしれぬぞ…。そなたが知らぬだけではないのか」
一瞬、右近は目に力を込めて惣一郎の言葉を否定した。
惣一郎は傲然と右近を見返し、二人の視線が絡み合う。
「…そういえば久喜萬字屋(吉原の大見世)でも、『溝口様は床上手』と、振袖新造たちが噂しておったが…?」
右近が小さく息をのんだ。
とどめを差されたように、右近の目から徐々に射るような光りが消えていった。
切なさ、諦めを通り越した、虚ろな玻璃玉のような瞳に、惣一郎は激しい苛立ちを覚えた。
(斯様な戯れ言に、いちいち傷つきおって…!)
惣一郎に腰をつかまれたまま、右近は糸の切れた人形のように上半身を敷布の上に横たえていた。
(…なぜそこまで誠之進にこだわる?! 彼奴にはそなたの気持など受け止められぬ。…もう追うのはよせ、右近!)
*
泣き出したいのは惣一郎のほうだった。
報われぬ片恋に身を焦がす愚かさは、自分も同じだ。
人のことを言えた義理ではない。
自分は右近の主だ。
その気になれば、無理矢理奪うことなどいつでもできた。
だが惣一郎は敢えて待ったのだ。
誠之進が江戸から去り、時を経て、二人の行く道が別れてしまえば、右近の恋着もおのずと風化するだろう。 魂を削るような恋を忘れるまで、ただ側にいて見守ってやりたかった。
寵童を花の盛りにだけ閨の相手にするのとはわけが違う。
惣一郎は切ないほどに右近を愛していた。
手に入れる時は、右近の身体も心も、信頼も、全て自分のものにしなければ意味がなかった。
そして…春。ようやく時が来たように思えた。
一度は自分の想いに応えてくれるのかと甘い夢を見た。
しかし一一。あの天満屋の事件で、自分のひとり相撲だと思い知らされた。
右近は誠之進を忘れてなどいなかった。
所詮、右近と誠之進は清い仲。
躯の奥深い所で繋がった、『割りない仲』ではない。
児戯にも等しい恋の真似事など、粉々に打ち砕いてやろうと、半ば強引に伽を命じた。
一度知った蜜の味は想像以上に甘かった。
溺れるように右近を抱く日々が続いた。
右近はもはや拒まず、忘我の境地で惣一郎の名を呼ぶ。
されど…。
過ぎる快楽に泣いて赦しを乞うときも、
小刻みに身体を震わせて果てる瞬間も、
閉じた瞼の裏で描くのは、結局、誠之進の面影ではないのか…?
何度枕を交わしても、疑念が消え去らない。
心が欲しいと叫びながら、気がつけば、陵辱するがごとく白い躯を貪る自分がいた…。
*
(何と不器用で愚かなことよ…)
惣一郎は再び右近の上に被いかぶさると、首筋をきつく吸った。
「うっ…」
痛みに覚醒した右近が、再びぼんやりと惣一郎の視線を捕らえた。
漆黒の瞳の奥を見つめ返しながら、惣一郎は繋がったままの腰の動きを再開した。
右近の内部が反射的に蠢き、熱い粘膜が惣一郎を絡めとった。
「右近…っ」
蕩けそうな歓喜が脳髄へと駆け上る。
惣一郎は右近の両膝に手をかけて大きく開かせると、さらに奥深く己を埋没させ、憑かれたように貪った。
「…ん…ふっ…」
やがて、右近の吐息に濡れたような艶が混ざり始めた。
惣一郎はいつもこの時を待ち焦がれている。
硬質な光りを放つギヤマンが、熱に犯され融け始める瞬間のようだ。
右近の皮膚の下で起った変容が、惣一郎を凶暴なまでに駆り立てる。
激しい突き上げに、右近は流されまいと爪をたてて敷布を握り込んだ。
惣一郎の腹で擦られ、勃ち上がっていた右近のものが、限界まで張り詰める。
前後を同時に責められ、とうとう右近が啜り泣くような声音で訴えた。
「…ん、も、もう、お赦しください…っ」
叩きつけるように最奥を穿ちながら、
「父上が何と言おうと……国許へなぞ…断じて帰さぬぞっ…!」
荒い息の下、惣一郎が悲痛な声音で叫んだ。
「…う…んっ…惣一郎さまっ…あぁぁっ…!」
震える睫の下、瞳はもはや焦点を結ばず、右近の身体が小刻みに震え始めた。
「何処へも行ってはならぬ……右近!」
右近が惣一郎の全てを覆いつくしていた。
細胞のひとつひとつが、右近を求めて狂おしい叫び声をあげていた。
苦い覚醒が後に続くことを知りながらも、惣一郎は骨が震えるような歓喜に我を忘れた。
おわり
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