時代設定
物語りの始まりは十代将軍・家治の時代。田沼意次が側用人となり、老中昇格も近いといわれた明和年間。実在の人物で名前が上がるのはこの二人くらいで、後は完全なフィクションです。越後高山藩というのも、地理的には某藩をモデルにした架空の藩。実在の藩にしなかった理由は、歴史の調べものをしたい一般の人が「高○藩」と検索して、うちの小説がひっかかってしまったら一大事だから(笑)。上越市周辺の本物の地名も出ますか、一部わざと漢字を変えてあったりします。とにかく話としては虚構なので、その点どうぞ含みおきください。
メインのカップルは藩主・三男、三郎信尭と、守役の溝口誠之進ですが、藩校時代から誠之進を想い続ける櫻田右近、そんな右近に惹かれていく、世嗣の惣一郎の四人を中心に話は展開していきます。
『下弦の月』の続編にあたる『青嵐』では、三郎・誠之進主従の恋の行方だけでなく、櫻田右近の生き様にもより焦点をあてていきます。
愛しい三郎ぎみのため、どこまで捨て身になれるのか誠之進?! 右近ちゃんの行く道、『受けの花道』に桜吹雪きは舞うのか?! どうぞ皆様思い思いにお楽しみください。
登場人物
溝口誠之進
上席家老・溝口主膳の嫡男。大物の父親が重圧になるどころか、周囲の期待を裏切らない逸材。剣は十六才で直心影流の目録を得る。育ちのよさから、普段はおおらかで感情的に抑制のきいたタイプだが、立ち会いになると攻撃的な激しい一面も見せる。軽輩の子弟ともこだわりなく付き合い、そういうところからも藩士の信望は篤い。国許で藩主三男・三郎信尭の守役を勤めるが、六年間、肉親のように慈しんできた三郎と昨年遂に恋仲となった。だが、次の上席家老の座を狙い、溝口家を失脚させようとする次席家老・内藤帯刀の策謀が、ふたりの恋の行方に暗雲を投げかける…。27歳。
結城三郎信尭(のぶあき)
藩主結城因幡守信輝の三男。母親は関川の本陣「加賀屋」の娘、おひろ。
素直で愛らしい、幼い頃の気性はそのままに、正義感が強く何ごとにも全力で取り組む三郎は、藩校の生徒たちや中・下級藩士の間で人気が高い。守役の誠之進を一途に慕う。16歳。
櫻田右近
誠之進の親友。藩校「宗道館」設立以来の秀才、家中一の美男といわれる。江戸・中屋敷の用人、国許で勘定吟味役を勤めるなど順調な出世をとげていた。爽やかで男らしい誠之進に藩校時代から秘かに思いを寄せていたが、誠之進は主人・三郎と恋仲になってしまう。傷心の右近は後ろ髪をひかれながらも、ひとり江戸へ戻っていく。やがて家中を二分する騒動の中、右近は武士として、誠之進の友として、大きな選択を迫られることになる…? 27歳。
結城惣一郎信元
藩主結城因幡守信輝の嫡男、三郎の異母兄。遊び人の若殿を装いながら、実は意外に繊細で情が深い。
右近の美しさと潔癖な魂に惹かれ、一時は枕を交わす仲となるのだが…。ついに30歳。次の藩主としての器量が試されるお年頃?
…ここまでがメインキャラ4人…
…重要サブキャラ…
結城因幡守(いなばのかみ)信輝
高山藩主。人柄は温厚で、画才があり文化的素養はかなりのものだが、政治にはうとい。有能な家老である、溝口主膳に藩政は任せきり。本陣の娘、おひろを見初め、側室に迎える。二人の間に生まれた子が三郎である。
上席家老・溝口主膳(しゅぜん)
誠之進の父。藩主の信任篤く有能な家老。『お家第一』という考え方は一見保守的だが、藩政の実務に関しては、新田開発に力を入れるなど進歩的な一面も。家中の者を労り、子供の教育も以外にリベラルで、武芸にせいを出した後、余力で遊芸をすることは勝手次第、と太っ腹なところも。
藩金流用の罪で次席家老・内藤帯刀を閉門に追い込んだ今、早々に家督を誠之進に譲って引退したいと願っている。
堀隼人丞(はやとのじょう)
最年少の中老。誠之進の五歳年上で藩校の先輩にあたる。昔から溝口家と懇意で、町人の母を持つ三郎にたいしても好意的。武芸よりは書を好む良識家。
山崎忠実(ただざね)
還暦を超えた最年長の中老。中肉中背。やぎのような白いあごひげが優しい御老人。大の誠之進びいきで姪を嫁がせたいと思っているが…。
次席家老・内藤帯刀(たてわき)
誠之進と主膳、溝口家が二代続いて人を得たため、内藤家は次席家老の地位に甘んじている。不満がつのる帯刀は、三郎と誠之進を利用して巻き返しを謀ろうとする。ちょっと濃いめの野心家。44歳。
内藤帯刀の忍び、玄海
帯刀の子飼いの忍び。これまでも帯刀の命で汚い仕事に手を染め、何人も殺めている。美しい獲物が好き…?
内藤弥一郎
内藤帯刀の嫡男。三郎より二つ年上、藩校で机を並べる。父親に似ず、優し気な面ざしの書を好む青年。三郎に秘かに思いを寄せる。18歳。
彩之介(藤若)
内藤弥一郎の小姓。元は武家の出。実家がお取り潰しとなった挙句、親戚に騙されて大坂の陰間茶屋に売られる。縁あって内藤家に身請けされたが、帯刀の野望に巻き込まれることに…? 14歳。
…まあまあ重要なサブキャラ…
正室・お牧の方
惣一郎の母。田安家から嫁いだ典型的な浪費妻。藩主・信輝公に顧みられなかったこともあり、御国御前の「おひろ」に激しい敵意を抱いた。おひろ亡き後も、その息子である三郎が目障りでしかたない。一日も早く領内から追い出してしまいたい。将来、万が一にも三郎に家督がいかぬよう、他藩との養子縁組の画策に忙しい。
内藤嶺次郎
内藤帯刀の弟。誠之進、右近より五歳年上。藩校時代の先輩。昔、右近に言い寄ってすげなく断られた過去がある…。(自室の物入れには、衆道ものの『あぶな絵』がいっぱい…。モデルが右近に似ているからと、一冊三十両もする枕絵集を買った大馬鹿もの)
吉田小平太
誠之進、右近の友。徒組(かちぐみ)の吉田家次男。お気楽な次男坊だが、剣はなかなかの遣い手。藩校でも師範代として剣術の稽古をつけている。友情に篤い。現在は三郎の馬廻り頭。
滝川(佐久間)彦四郎
誠之進、右近の友。腕はたつが、岩石のように静かで無口な男。ここ一番で頼りになる。数年前、江戸へ出てから縁あって町道場「滝川道場」の養子におさまっている。
竹之内源蔵
三郎の乳兄弟。誠之進に憧れ、彼とともに三郎を支えるのが喜びであり誇り。献身的に仕える。
筧(かけい)松之助
三郎の一つ年下の友人。頭脳の明晰さでは「櫻田右近」の再来との呼び声が高い。美少年ではないが、栗鼠のような瞳の小柄で愛嬌のある松之助は、幼年組の者の勉強を見てやったり、面倒見のいいことで誰からも好かれている。武芸は苦手。
神原倫太郎
三郎の友人。三郎より一つ年上。宗道館の麒麟児とも呼ばれ、剣術の紅白試合では常に大将を努める。
現在は誠之進のはからいでお役をもらい、西の丸で三郎の警護を勤める。
徳川(田安)慶久(よしひさ)
惣一郎の伯父、御三卿。柳営で隠然たる力を持つ、反田沼派。
三郎ぎみの乳母・お福
誠之進・三郎カップルのよき理解者。実は江戸時代の元祖やおい女。ふたりに最高の環境で睦みあってもらえるよう、例の茶室や、誠之進の部屋の夜具や備品を整えたり、細々とした気くばりが流石元祖である。(…冗談です)