八の巻
「五月雨」4.5



 「では、まずは背中を流してもらおうか…」 
「はい…殿様」

 彩之介はすのこに膝をつき、ぬか袋を手にとって湯に浸した。軽く絞って帯刀の背中にあてる。目の前の広い背中は強靱かつしなやかな筋肉で覆われていた。武芸で鍛えたらしい帯刀の身体は、四十を過ぎても見事なまでに引き締まっていた。

 『大和屋』の客はお大尽や侍、僧侶など、帯刀と同年輩の男も多かったが、だぶついた身体はもはや見られたものではなかった。

 彩之介は素直に驚きを口にした。
「殿様は…随分と身体を鍛えておられるのですね」
「うむ…今は旅先のことゆえちと怠けておるが、国許の屋敷では毎日のように剣や弓の稽古をしておった」
「左様にござりますか…」
感心したようにうなずく彩之介に、
「どうじゃ…まだまだ見られる身体じゃろう?」
帯刀が肩ごしににやりと笑った。
先程、帯刀と客と比べていたことを見透かされ、彩之介は思わず頬を染めた。

 彩之介は黙々とぬか袋で帯刀の背中をこすり続けた。

 「もうそのくらいでよいぞ。彩之介」
「はっ」
これで御用は済んだと安堵しながら、彩之介は湯を汲んで帯刀の背中を丁寧に流した。

 「では私はこれにて…」

 彩之介は一礼して早々に湯殿を出ようとした。

 「なにを言う。次はそなたの番じゃ」
「え…?」
帯刀は檜の腰掛けごとこちらへ向き直った。
「ほれ、早う背中を向けぬか」
ぬか袋を手にとり促す帯刀。
「と、とんでもござりませぬ。殿様に背中を流していただくなど、もったいない…」
彩之介はほとんと後ずさりしながら、すのこの上に手をついた。

 たちこめる湯気と、帯刀の好色な視線が彩之介の裸身にまとわりついている。今逃げねば取りかえしのつかぬことになる…。頭の中で警鐘が鳴っているにも拘わらず、彩之介は射すくめられたようにその場から動けずにいた。

 「なに、遠慮することはない…」
帯刀の逞しい腕が伸び、彩之介の肘を捉えた。
そのまま強くひかれて、
「あ、殿様っ」
あっという間に帯刀の胸ぐらに抱き込まれてしまった。
「なんじゃ、そなた、小鳥のように軽いのう…」
帯刀が喉の奥で笑っている。
彩之介が困惑しきった瞳で見つめていると、
「ほれ、背中を流してやるゆえ、そこへ座れ」
帯刀はすのこの上を指さして、再度彩之介に命じた。

 主人にそう出られては、彩之介としてはもはや逆らえない。
言われるままにすのこの上に正座すると、帯刀がぬか袋で背を擦り始めた。
意外に優しい触れ方に、彩之介の警戒心がほんの少し弛んだ。

 「気持いいか…?」
「はい…い、いえ、もったいのうござります」
肩や背を暖かい湯を含んだぬか袋でこすられ、彩之介はいつしかうっとりと身体を預けていた。
「そなた…畿内の生まれであったな?」
「はい…」
「なれど雪国の女子のように、きめ細かな膚じゃ…」
「あ…」
気がつけば、帯刀の手が直に触れていた。
彩之介の肌の上を滑る手は、次第に愛撫するような動きに変わっていく。

 (や…やはり殿様はそのおつもりか…、しかし殿様に許してしまっては、弥一郎様に顔向けできぬっ…)

 彩之介の動悸が急激に高まった。何とか隙を見て逃れようと機会をうかがう。

 帯刀の手が彩之介の肩から二の腕をゆっくりと撫で始めた。
「父と兄の仇を討つというても、斯様な細腕では真剣など振れぬぞ…」
「そ、それは…これから精進いたしまする!」
「殊勝な心がけじゃが…」
帯刀が背後で軽く鼻を鳴らした。
「下手に鍛えて無骨な躯になってしまっては…元も子もないのう…」
言いながら、帯刀の両手が彩之介の脇の下をすり抜けて前に回った。
「あっ…」
小さく叫んだ時には、既に彩之介の背に帯刀がぴったりと寄り添っていた。
彩之介の胸は帯刀の両掌に捕らえられ、太い指の腹が乳首をいじり始めた。

 「と、殿様っ…」
逃れようと身じろぎしたが、戒めはびくともしなかった。
帯刀は彩之介の動きを簡単に封じ込めると、なおも指先で突起をつまんで軽くひねった。
「お許しくださりませっ…」
無駄とはわかっていても彩之介は哀願せずにいられなかった。
情けないほど素早く反応する己の躯が、恨めしくてならない。
すでに左右の乳首はぷつんと立ち上がり、帯刀はその感触を楽しむかのように愛撫を続けた。

 「のう彩之介、儂はな、この年になるまで女子専門でな。男を抱いたことがない」
「あ…っ」
軽くつまんだり、指の腹でこねまわしたり、巧みな刺激に彩之介の息が上がり始めていた。
「そなたの…陰間茶屋仕込みの術で…儂に極楽を見せてくれ」
「な、なりませぬっ…私は弥一郎様の小姓です、他の方に肌身を許すわけにはっ…」
「心配するな…弥一郎には内緒にしておいてやる」
耳朶に触れんばかりに囁かれ、思わず肌が粟立った。
「女子の肌とはまた違う…さらりとして滑らかな手触りじゃ…」
「殿様っ…どうか…お戯れはっ…」
「かわいそうに…。淋しかったのだろう?」
彩之介は激しくかぶりを振った。
帯刀の唇が後ろから彩之介の項に押しあてられた。
ぬめるように吸い付く動きに、彩之介は帯刀の腕の中で身を捩った。
「そなたをきちんと可愛がらぬ弥一郎が悪いのじゃ…」
片手で胸を嬲りながら、帯刀の右手が彩之介の下帯の中へ忍び込んでくる。

 (弥一郎様…たすけてっ!)

 大きな手に袋ごとやわやわと揉みしだかれ、彩之介は目尻から涙を滲ませて懇願した。
「と、殿様…お許しくださりませっ」
流されてはならぬ、と懸命に歯を食いしばってみても、彩之介の躯の奥は熱く潤みはじめていた。




 帯刀は彩之介に口で奉仕させた後、風呂桶のふちにつかまらせて後ろから挑みかかった。両手で彩之介の腰を掴み、白いまろやかな双丘を目で楽しんだ後、猛り立つものを震える蕾に押し当てた。
この体格差で己の一物が入るのかと訝ったが、
「う…なんという尻じゃ…」
一見、拒んでいるように見え、その実、彩之介の後門は驚くべき柔軟さで帯刀をのみ込んだ。
年若くともさすがに玄人だった。
本人もなるべく苦痛を感じず、男を招き入れる術を心得ている。

 ゆっくりと根元まで挿入すると、
「なるほどな…大和屋が百両とふっかけたわけじゃ」
帯刀はあまりの具合の良さに、思わず溜息をもらした。
彩之介は辛いのか、背を反らせ、浅く息をしながら風呂桶のふちに懸命にしがみついている。
「彩之介、そなたの借金はな、まことは五十両ほどだったのだぞ」
瞬間、彩之介の身体がぴくりと震えた。
哀れなほど動揺が伝わってきた。
「斯様なはした金で売られたとは、そなたも不憫じゃのう…」
彩之介は無言だった。
かすかな息の音だけが、可憐な唇の間から漏れている。

 「しかし大和屋の奴、そなたはこれから稼ぎ頭になる若衆ゆえ、五十両ではきかぬ。百両ださねば身請けはさせぬとぬかしよった」
帯刀は彩之介の前を慰めてやろうと手を伸ばした。

 「それでも…そなたを請け出したは何ゆえじゃとおもう?」

 彩之介が力なく首を左右に振った。
幼いものを握りこみ、親指の腹で先端のあたりをこすってやると、
「ううんっ…」
彩之介は鼻にかかった声をあげ、わずかに身を捩った。

 逞しい屹立を受け入れながら、ささやかな前への刺激に身を震わせる姿は、帯刀の征服欲を刺激し悪心を呼び覚ました。

 「無論…弥一郎がそなたに執心しておったのもあるが、儂は儂で考えがあった」
彩之介の身体が慣れたのを見計らい、ゆるゆると抜き差しを始める。
「そなたの可愛い顔と身体で、いずれわが内藤家のために存分に働いてもらおうとおもうてな」
細い腰を両手でつかみ、帯刀は己のもので彩之介の内壁を強めに擦りあげた。
すかさず彩之介の秘処がうねるように帯刀をしめつける。
「おお…たまらぬな…」
気を抜けば精を放ってしまいそうな心地よさだった。
が、まだまだ許してやる気はない。
せっかくの機会だ。
できるだけ長引かせ、存分に若衆の味を堪能してやろうと思った。

 帯刀は古来の閨房術『深浅法』を用いて巧みに彩之介の菊座を攻めた。浅い出し入れの合間に強い突きをまぜ、強弱をつけて相手を翻弄する。
「はあっ…んんっ…」
眼前に突き出されたかわいらしい尻がゆらゆらと揺れた。
「あ、殿様…ああっ…」
彩之介は閉じた瞼を震わせながら、口元がしどけなくゆるんでいる。
「こうして…儂に尻を貸すことも百両のうちじゃ…」
もはや何も考えられぬのか、彩之介は全身を桜色に染め、時折背を小刻みに震わせたり、焦れたように腰をくねらせた。
「なれど…のう彩之介、辛いだけではなかろう?」
帯刀は一度やんわりと奥まで己を差し込むと、抜ける寸前まで強く引いた。
「あああっ一一一!」
やわらかい肉襞を雁の部分がこすりあげ、思わぬ刺激に彩之介が前髪をうち振るった。固く張り詰めた一物で『弱入強出』を試みれば、若衆にも絶大な効果を発揮するらしい。
帯刀は自身も息を荒げながら、
「弥一郎の奴、そなたを見つけて『大和屋』に通っていたとは…あれでなかなか目が高い…」
徐々に大腰をつかいはじめた。
彩之介の呼吸が切なく速まり、すすり泣くようなよがり声が漏れる。

 (こやつ、なかなかに素晴らしい『鳴き』を持っておる…これは弥一郎でのうてもハマるわ…)

 「よい子じゃ…彩之介」
細腰を思いきり引き寄せ、深く突き入れた途端、彩之介が長く掠れた悲鳴を上げて果てた。




 帯刀はこれしきで彩之介を解放してやるつもりは毛頭なく、『止り蝉』など、体格差がなくては中々試せぬ交合の形を存分に楽しんだ。

 一刻ほど後、息も絶え絶えにボロ布のごとく横たわる彩之介を湯殿に残し、帯刀は寝所へと戻った。

 息子の寵愛する小姓に手を出した罪悪感など、この男には微塵もない。

 百両で手に入れた『宝』の価値を己が身体で確かめ、帯刀は込み上げる笑いを抑えきれなかった。




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