第二回
藩主の心得・前編
(副題:バカ殿のすすめ)
主な登場人物


時系列的には本作品は「青嵐」本編、二十八〜九の巻と同時期になります。

by 戸田采女

 皆の衆、久しいのう。

 『惣一郎の徒然草』

 余はこのシリーズを大層気にいっておったのだが、一作きりで後が続かずまことに残念。畢竟、出番も少のうて退屈しておった。

 されど本編も亀の歩みながら着実に進み、高山藩にも大きな転機が訪れることとあいなった。皆も存じておろうが、此度、余は藩主として父上の跡を継ぐこととなった。普通、藩主は死ぬまで代替わりせぬものだが、父上は前々から隠居を希望しておられたし、心の臓の病を抱えてはお城勤めを十分に果たせぬと、致仕を願い出られたのだ。(正確に言うと堀田の爺がそう決めた)


 さて、世に『バカ殿のすすめ』という言葉がある。(←学生さん、嘘ですよ:仙之丞)

 この意味するところは、藩主はなまじ政治に口を挟まず、全て家老に任せておけばよいのだという教えじゃ。けだし名言だとおもう。特に我藩のように人材の揃っているところではなおさらじゃ。

 江戸時代にも名君と呼ばれた殿様が何人かおるが、その実態に余はどうも首をひねりたくなってしまう。この時代、名君の条件とは「儒学をおさめていること」と「倹約令を出していること」だそうな。実名を出すとまずいのじゃが、大名なら池○某とか、保○某とか、将軍家ならサンバの踊れるあの人とか。

(どこをどう転んでも惣一郎様にはあてはまりませぬな:仙之丞)

 ところがじゃ、この手の人物が上にたったとき、果たして家臣・領民は幸せだったのか? なかなか難しい問いかけじゃ。なれど、藩士の遊興や色恋沙汰を厳しく取り締まる殿様など、家来にとっては迷惑千万ではないか? 人間の三大欲求を否定してはいかぬ。
 
 欲こそ人間の活力の源なり。

 男男関係をいちいち処罰していては、我が藩は深刻な人材不足に陥るだろう。父上が誠之進と三郎の仲を許したのは英断だったとおもう。

(殿、絡め手からの自己弁護がすさまじゅうござりますな:仙之丞) 

 むう…。先程から小バエがぶんぶん五月蝿いのう。

 さて前置きが長うなった。本日のお題は『藩主の心得』じゃ。前作、『上に立つものの心得』は、藩の財政難を救うため、自ら絵筆をふるって何千両?と稼ぎだした迷君の話であった。

 なに、本日のお題のタイトルが違う? 

(『バカ殿のすすめ』と書いたテロップを仙之丞がかかげている)

「‥何じゃあれは」

(話しが違う…と首をひねりながらも、迷君は細かい事にこだわらぬもの、と先へ進む惣一郎であった)




 明和五年・十月末、余は江戸城にて将軍家に拝謁し、従五位下・山城守に任じられた。正式に高山藩の藩主となったのだ。できることなら一日でも長く、気楽な『若殿』の身分でいたかったが。

 ふた月前の鎌倉で一一。

『…将来身供を支えるために、留守居の役目、引き受けると申すか?』
『御意』
『身供のために…嫌な宴席にも進んで出ようというわけか?』
『左様にござります』

 右近が真摯な眼差しで覚悟のほどを語った。

『私はこの江戸で、生涯、若殿にお仕えしようと心に決めております』
『そなた…まことに?』
『ならば一番困難で、一番お役にたてる場所に身を置きたいと存じます』

 ここまで言われて藩主として立たねば男が勃たぬ。

 ああ、そして忘れがたい鎌倉の一夜。

 明けの烏が鳴くまで、右近もそれはそれはいい声でごにょごにょ…。

(仙之丞、すかさず『STOP the 妄想!』のテロップをかかげるが、惣一郎は無視。しばしにまにまと思い出し笑いを浮かべる)

 そのような折、父上がお倒れになったとくれば、もはや私も腹をくくるしかなかった。

 しかし現実の藩主の暮らしとは一一。

 聞くも涙、語るも涙。

 皆の衆、余の奮戦ぶりを話してきかせようではないか。


つづく





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