_______+ちしゃの葉ひめ+___




准尉に悪気はない、悪気はないのだが、いかんせん失言だった。
発言者を除く全員が、どうリアクションをとったらいいものかはかりきれずに固まっている。
急激に下がった室温に、リフも己がまずいことを言ってしまったのかということには気づいたらしい。
「あの……おれ、何か失礼を……?」
一番に氷付けから回復したロイが(さすが、焔の二つ名を持つだけある)笑いながら訂正を入れた。
もっとも、その笑いはなにかを企んでいるときのたちの悪い笑いだったが。
「准尉。鋼のは可愛いと言われて照れているんだよ」
!!
エドの眉がぴくっと反応する。
リフは頬を染めて律儀に謝罪した。照れているのはむしろこの男のほうであろう。
「そうなんですか、おれは思ったことをそのまま言っただけなんですけど」
「え、ええと」
「お世辞とかじゃないです、エドワードさんはすごく可愛いですよ!」
「ちが、オレは――――」
照れながらにこにこにこにこしているこの男はエドの性別をかけらも疑っていないらしい。
エドとしては内心色々複雑だ。
確かに自分は本当は女で、だから可愛いと褒められればやはり嬉しくもあるのだが、性別を偽っている以上喜んでばかりもいられない。
可愛いといわれて喜ぶ男はほとんどいないだろう。だから自分もここでは怒らねばならない。
「オレは男だ!!
「准尉。兄さんは男なんです」
エドが叫んだのと、アルがそう言ったのは同時だった。
「え?」
リフは目を丸くし、ホークアイは頷き、ハボックは肩を震わせている。おそらく笑いをこらえているのだろう。
そしてロイはというと、にやつきながら事の成り行きを眺めている。
100%楽しんでいるとしか思えない男の態度はエドの神経にひどく障って、この雨の日以外でも能無し男、一発殴ったろかなどと思ってしまったことは秘密にしておくまでもなくしっかり顔に出てしまっていた。
「まあそんなに怒るな鋼の。ちょっとしたジョークだ」
「ふざけんなよ。こっちはあんたのオヤジギャグにつきあってる暇なんかねーんだよ」
「いいじゃないか。豆と言われたわけでもなし、可愛いというのは褒め言葉だろう」
「誰が手のひらサイズの豆つぶチビか!!
「女性に間違われるということは、すなわち美少年ということだと思うがね」
「嬉しくねえっ!!
「ははははは、幾らでもいってやろう。可愛いぞー鋼の。可愛い可愛い」
「え……」
不覚にもどきりとした。
顔が赤くなっているのは怒っているせいだと思ってくれればいいのだけれど。
再び口を開こうとして、それを、鎧の腕がすっと遮った。
「アル?」
「大佐、それ以上喋ったら今度はボクがブチ切れる」
険悪な雰囲気を見かねたホークアイが重ねてたしなめる。
「そうですよ大佐。少々悪ふざけが過ぎます」
ホークアイも味方につき、一気にエドに形勢が傾いた。
不利だと悟ったのかそれともただ単に気圧されただけなのか、ロイはおとなしく引き下がったようで、エドは固めたこぶしを振り下ろさずにすんだ。
「男の子……」
ぽつりとリフが言う。
その声に力はなく、まだ信じきれていないのだろうかとエドは思ったが。
事態はもう少しややこしかった。
「うそだ! こんなに小さくて可愛い男がいるはずないですよ!!
「小さい言うな!!
禁句に反応し怒鳴りつけたエドに、我に返ったのかリフはす、すいませんと謝った。
「でも、本当なんですか? みんなしておれをからかってるんじゃ」
「准尉、エドワード君は正真正銘の男の子よ」
「そうなんですか……はぁ。残念だな」
ん? と、リフ以外の一同は、その言葉の意味することを考えた。
「准尉……お前まさか」
ハボックが指に挟んだ煙草の灰が、ほろりと崩れて落ちる。
リフは顔を真っ赤にしてめいっぱい高速で手を振った。
「ち、違いますよ少尉! 一目ぼれなんてそんな」
「ええええええええ!!
きれいにハモった驚愕のコーラスが、執務室にこだました。
その中でロイだけが、声をあげもせずにただじっとエドのことを見つめていた。




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