_______+ちしゃの葉ひめ+___
それから3日。イーストシティは神出鬼没の髪切り魔の話で持ちきりだった。
同時に、犯人を捕まえられない軍部に対する苦情がぽつぽつと出始めていた。
街角には憲兵が立ち巡回につとめたが、被害者は5人を越え、またこれからも増えるだろうと思われた。
若い娘は極力夜の外出を避けるようになったが、たとえ昼間でも安全だという保証はない。
ロイはいらいらと頭をかきむしった。
「目撃証言による犯人の容姿はばらばら、だと?」
「はい、黒いローブのようなものを羽織って顔まで覆っていた、普通の若者の服装で顔は隠していなかった、と犯行ごとに違っています」
「ふむ……」
「この3日で、金髪の女性が5人、黒髪の女性が1人、栗毛の女性が1人襲われていますが」
「……なるほど」
凛としたホークアイの声と共にロイは資料をめくり、そこに書かれた文字を凝視する。
「模倣犯だな」
「は?」
ロイの一言に、傍らに控えていたハボックがこの場に似つかわしくない間の抜けた声を上げた。
「よく読みたまえ。金髪の女性が切られたときは黒いローブ、黒髪と栗毛のほうは若者のようだった、とあるだろう」
「あ……本当っスね」
「よって、真犯人は黒いローブのほうで、若者は調子に乗った便乗犯だろうな。まったく、この忙しいときに余計なことをしてくれる……」
「あ、そういえば大佐、別件の仕事もあるんでしたっけ」
上に立つ人間は、ひとつのことにかまけてばかりもいられないのだ。
これ以上仕事を増やさないで欲しいのに、そのロイの願いは少し前に儚く泡と消えていた。
「少女誘拐、麻薬密売、と世に事件の種は尽きないようだな」
はあ、とため息をついてロイはぱらぱらと資料を繰った。
この間までの平和が嘘のように、今東方司令部は殺人的なまでの忙しさだ。
猫の手も借りたいとはこのことを言うのだろう。
「それにしても、金髪ばっか集めて犯人は何がしたいんすかね?」
「かつらでも作るのじゃないか」
大佐、不謹慎ですとホークアイがなだめるが、それを聞きながらロイの頭にひらめくものがあった。
エルリック兄弟はイーストシティに滞在を余儀なくされていた。
仕方ないので宿に大量に本を持ち込んで3日を過ごしていたが、内心、その間聞こえてくる髪切り魔の噂が気にはなっていたのだ。
だから軍から迎えがよこされたとき、やはり来たか、と思った。
そもそも留まることを命じられたのは、東方司令部にいてロイの役に立て、ということだとわかっていたから、こうなることは予想の範疇だ。
ただ、迎えに来たのがリフだというのは、エドにとって予想外だった。
エドの前に立ったリフはまるでねじのいかれたオルゴールのように、どもったりつっかえたりうろたえたりしながら軍部からの呼び出しの件を告げた。
あまりに顔を赤くしながらエドに接するので、それがエドにもつい伝染ってしまい、二人してトマトのようになりながら表で待つ車に乗り込む。
アルは鎧なので赤面したりせず、エドの隣に座った。
(なんだかなー)
このヒト、兄さんが一応オトコだってことわかってるんだろうか。
そりゃあ本当は女の子だから問題はないかもしれないけど、軍では男で通ってるんだから、これって間違ってるよね。
微妙に気まずい車の中、アルは早く司令部につかないかとそればかりを考えていた。
さっそくだが、と目の前の男が切り出す。
「君に捜査協力命令が出た」
「出した、んだろ。あんたが」
勿体つけた言い方すんなよとエドはロイを睨んだ。
「被害者は皆金髪だって? それでオレに白羽の矢が当たったわけね」
エドとロイ、そしてアルとホークアイ、ハボックとなぜかなしくずしにリフまで同席している。
一秒でも長くいっしょにいたいんだろうなあ、とハボックは生温かい視線をリフに送った。
リフのためには早く目を覚ましたほうがいいとは思うのだが、傍目で見ている分にはこの上なく楽しいので、もう少しこのままでもいいような気もする。
「君なら気配にも敏いし、切られる前に捕まえることも容易いだろう?」
「兄さんにそんな危険なことさせようっていうんですか!?」
「アル」
エドはアルをたしなめ、にっかと笑った。大胆不敵な笑み。
「やってやろーじゃねぇの、囮捜査!!」
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