_______+ちしゃの葉ひめ+___




「すっげー……うまく化けたな」
感心したようにハボックが呟いた。
「お前、ほんとにエドなんだよな」
「そうだよ、悪い?」
「いや、悪くはない――……が」
まっすぐな金髪に大きなつり目、少女趣味な服をまとったエドは文句のつけようの無い、どこから見ても可愛い女の子だった。
これがあの泣く子もますます泣く――じゃなくて、泣く子も黙る有名な国家錬金術師、鋼の二つ名を持つエドワード・エルリックなのだろうか。
にわかには信じがたかった。
それほどに、目の前のお嬢様然とした少女と、普段の瞬間湯沸かし器な少年とは結びつかない。
「でも、それじゃあ動きづらくないかしら」
ホークアイが言うと、エドはスカートの端を軽くつまんだ。
「大丈夫。犯人見つけたら錬成で短くするから」
エドを見るリフは、ぼーっとなってしまっている。
ピンクとお花の世界に行ってしまったのだろうとハボックは結論付けた。
これは当分戻ってこれねぇな、と同情しつつゆったりタバコの煙を吐く。
正面の椅子に座っていたロイが口を開いた。
「考えたな鋼の。装飾の多い服なら、男と女の体型の違いはごまかせるだろう」
「ま、ね」
「あ、そうか! 兄さんあったまいい!」
アルは納得した。
フリルが多く身体の線の出ない服は、表向きは『男のエドの体型をごまかすため』として、実は『女であることがごまかせる』のだ。
「ところで下着はどうしたね?」
「大佐、その質問はセクハラ」
「作戦の重要な部分に関することだ、答えたまえ」
「セクハラに変わりは無いって」
「で、どうなんだ」
「……普段とおんなじだよ。トランクス」
「めくれて見えたらばれないか?」
「それはオレに女物を穿けと?」
「できれば上もつけてもらいた」
「単なるあんたの趣味じゃねーか!」
不純な言葉を言い終わらないうちにエドのつっこみとともに銃声が響き、ロイは両手を上に挙げた。
煙の立ち上る銃を構えているホークアイのほうを青ざめた顔で見ながら、器用に椅子ごと後ずさる。
それをいい気味だと一瞥し、エドはきびすを返しながら言った。
「もう行くぜ、時間の無駄だから」
「あ、兄さん!」
アルは部屋の一同に向かってぺこりとおじぎをし、エドに続いて執務室を出た。
生命の危機に直面したロイは青ざめ。
ハボックは冷や汗を流し固まって。
リフはのぼせたまま。
残された面々のうち唯一涼しい顔をしているホークアイだけが、それに手を振った。




長い裾をからげながらずんずんと廊下を歩く美少女の姿は、軍部という場所において非常に似つかわしくない。
本人はもう気にしていないように見えた――あるいは開き直ったのかもしれない――が、後ろからついていくアルには、すれ違う軍人の反応がとても気になる。
1、まずみな一様にぎょっとした顔をする。
2、次に自分の目が信じられないのか、数秒凝視する。
3、そして振り返ってまで『彼女』の行方を見送る。
4、その後は呆然と口を開けて立ち尽くす。
アルには彼らの気持ちが手にとるようにわかった。
無理も無い、無理も無いよね。
鋼の錬金術師は実は女だった! とか、実は女装趣味の変態だった! とか広まったらどうしよう。
張本人を差し置いてそんなことを心配してしまう。
もしそうなったら、さらに軍部の食いつきがいい別のネタを広めてこっちのネタを忘れさせよう。
例えば、あのひらひらふりふりは『大佐の』趣味だとか。




確かにイーストシティは以前より女性の姿が見受けられなくなっていた。
シザーマンに襲われるのではないかと、明るいうちでも安心して外を出歩けないのに違いない。
そんななか、服装もあいまって、人の行きかう路なかでも、エドはとても目立っていた。
建物のかげにはロイの部下たちが潜んで、エドの周囲をうかがっている。
――――さあ、どっからでもかかってこい。
人々の間を堂々と、スカートをひるがえしながら歩いた。




囮捜査
―――― 開始。




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