_______+ちしゃの葉ひめ+___




「それでは私は戻るが、君たちも一緒に来るかね?」
「この格好でまた軍部に行くのは御免だな。いったん宿に戻って着替えてからにするよ」
エドは裾をつまんだ。
そして、何を思ったか両手を打ち鳴らすと、スカートに当てた。
ばちり、と光が爆ぜて、ゆったりした――しかし一応ズボンが出来上がる。
疑問に思ったロイが尋ねた。
「その姿では駄目なのか? 見たところ、男性服のようだし、それでも問題はないように思えるが」
「オレは早くいつもの格好に戻りたいんだよ。今錬成したのは、これ以上スカート穿いてんのがやだったからなだけ」
「……そういうものか?」
「そういうもの」
「まあ、こちらとしては今日中に来てくれればかまわないが」
「わかってる。ちゃんと行くよ」
「そうか。では待っている」
「うん。あとで」

そしてロイはエルリック兄弟と別れて仕事場に戻るべく、待機していた車に乗り込んだ。
書類をホークアイから受け取り、背もたれに体重をかける。
やれやれ、といった気分だ。
「ありがとう」
「いえ。それにしても、普段からこれくらい熱心に仕事をしてもらいたいものですね」
「……。私はいつでも真面目に仕事に取り組んでいるつもりだが?」
「寝言とは寝ているときに言うから寝言なのであって、起きているときのそのような言葉は出来の悪いジョークでしかありません」
「…………」
ロイは反論を諦めた。もとより勝てるわけが無いのだし。
ロイが黙ったのを見計らったかのようなタイミングで、ホークアイは硬質な声で言った。
「あの男――――何か薬を常習しているような感じでしたね」
「例の麻薬組織に関わっている、と?」
ロイの顔つきも真面目になる。
それはここ最近、忙しい彼をさらに忙しくさせていた事件のひとつだった。
「その可能性はあると私は思いますが。何か聞けるかもしれません。糸口になればいいですね」
「ああ……そうだな」
「それにしても――――」
「なんだ」
「叩いたのはやりすぎです。あんなに取り乱す大佐はあまり見たことがなかったので驚きました」
「……その件については反省している」
「まったく、そんなに心配なら最初からエドワード君を囮になんて言い出さなければよろしいんです」
「そうはいかない」
「……え?」
「我々は軍人だ。軍に属する以上、例外は認められない。犯人を一刻も早く捕まえるために必要だと判断したから彼に頼んだ、それだけだ。これ以上事件が長引けば、そのぶん軍に対する不信や不満が噴出すだろう。そんなことはあってはならないんだ」
「……ええ」
「軍全体のため、ひいては国のため――――それがどんなものであっても、最善と思う方法をとる。そこに私情は挟めないさ」
ただ、それがわかっていても、理屈どおりに行かないのが私情であって。
ロイは書類から目を離し、流れる市街の景色を眺めた。




夕焼けが地平線の向こうに完全にその姿を隠そうとしている。
反対側の空はすでに深い藍色に染まり、グラデーションが美しかった。
しかし、こんなに綺麗な光景を目の前にしても、ロイの表情は優れない。
「……遅いですね、エドワード君たち」
「今日中に来いと言ったのに……。これではデートに遅れるではないか」
「何か?」
不謹慎な発言を腹心の部下にじろりと咎められ、ロイの背を冷や汗が伝う。
「イエナニモ」
女性との約束があるのは本当だ。ただ、そこまでして行きたいわけではない。
向こうからデートに誘われて、それなら会うか、といった、その程度のものである。
来る者拒まず、去るもの追わずがロイの基本方針なのだ。
「何かあった、とか」
ぽつりと聞こえたホークアイの言葉が、ロイの心に不快なさざなみを起こす。
この違和感は何だろう、何かがひっかかっている。
「宿に誰かを迎えにいかせよう。中尉」
「わかりました」
出て行くホークアイの後姿を見ながら、ロイはなんだか悪い予感がしていた。
なんだ、何かを見落としている。
やがて戻ってきた部下からの報告で、それは確実なものとなる。




「エルリック兄弟が――宿に戻っていない?」




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