_______+そして全てに幕は下りる+___




重たい幕がゆったりと波打ち、上げられていく。
輝く照明、響く口上、そして目を奪われる美貌の女優。
クリスティ・ドールだ。
あちこちで客がほぅ、とため息を吐く。
何不自由なく育った令嬢が、結婚を約束した男に裏切られ、財産を奪われ、国さえ追われそうになる。
危ういところで難を逃れたが、箱入りだったために一人で暮らしていく術を持たなかった彼女は、やむなく花を売って機をうかがうのだ。復讐の機会を。
舞台の中央で腕を広げ、いっそ誇らしげに声を発する。
「わたくしは誓う、わたくしを不当に貶めたものたちに、どんなことをしてもその報いを受けさせてやると!」
舞台に良く通る声は美しく、その所作も例外なく美しかった。
一応同性であるエドでさえ見惚れてしまうほどに。
これは恋人同士で見にこないほうがいいんじゃないか、とエドは思った。
隣の恋人が別の女にのぼせている様を見て、いい気分になる女はいないだろう。
下手したら破局の危機に陥るんじゃないか?
そんなことを考えながらロイの方をちらりと見ると、意外なことに男は真剣そのものといった表情で舞台を睨みつけるようにしていた。
「……そろそろ予告時間だ」
「あ……」
爆破予告は8時。
言われてエドはそっと辺りをうかがった。
しかし別段怪しい動きをしているような人間はいないようだ。
誰もが舞台に釘付けで、一心にクリスティの一挙一動を目で追っている。
やがて彼女は一人の少年を通じてとある町医者と出会い、心を通わせていく。
実は彼の一人息子であった少年も彼女を慕い、彼女は医者から結婚を申し込まれる。
舞台は今、ちょうど彼女が少年と知り合うシーンにさしかかっていた。
袖から現れた少年を見て、エドは驚いた。
さっきぶつかった……ルー、じゃないか。
ルーはとことこと、教会で祈りを捧げているクリスティの元へ近づいていく。
母親を亡くした少年は、その母親のために祈りに来て、初めてクリスティと出会うのだ。
舞台装置であるステンドグラスの反射が色付きの影を落とす。
「あなたはだれ?」
ルーがクリスティにそう言った瞬間、照明がいっせいにクリスティとルーに当てられた。
真っ白い光の強烈過ぎる眩しさに、エドは一瞬目をつぶった。
そして再び目を開けたとき。

舞台の天井部分が爆発した。



「んなっ……!?」
たちこめる炎と煙の匂い。
「バカな。あそこはきちんと調べたはず……」
ロイは素早く立ち上がると、配置された軍部の人間に向かって叫んだ。
「会場内の人々を外へ避難させろ!」
きゃぁあ、わぁ、と辺りはたちまち混乱の嵐になった。
爆破予告をいたずらだと鼻で笑ってここに来たくせに、いざ自分の命の危険になると、我先にと逃げ出す人間の多いこと。
ロイはその様子に軽く舌打ちして、険しい視線を幕の燃える舞台に向けた。そうして気付いた。
「――――鋼の?」
隣にいたはずのエドの姿が消え失せていた。彼女の身に着けていたショールだけがそこに落ちている。
……エドは、舞台に駆け上っていた。
先ほどの比でない大きさの舌打ちをして、エドを追って舞台に上がろうとしたロイの目の前で、燃えさかる紅い幕が轟音とともに落ちてくる。
その炎は完全にエドの後姿だけでなく舞台すらもロイから隠してしまい、ロイの声はエドには届かなかった。
ロイは隠していた発火布を取り出して手に嵌めると、舞台裏に通じる関係者専用の入り口に向かった。
そこからなら。



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