_______+そして全てに幕は下りる+___




「はいこれ、着替え。予備の軍服を持ってきたわ」
ホークアイが差し出したのはあの青だった。軍でいつも囲まれている青。
ふと気付いて尋ねる。
「この服、中尉の?」
「いいえ、ちゃんと男性用の予備よ」
エドはその言葉にたっぷり沈黙して
「……サイズ、は」
「大きかったら錬成で直しちゃってかまわないから」
「そう……」
がっくりと肩を落とし、影を背負って落ち込んだ。
いや、己がち○さい(言いたくないので伏せ)ということをこうも目の当たりにさせられると落ち込む以外に無いじゃないか。
「じゃあ、終わったら声をかけてね。しばらく出ているから」
ルーの肩に手のひらを乗せてホークアイがドアの向こうへ消えると、ようやくエドはぐったりと身体の力を抜くことが出来た。
「ふ――――――……」
このドレスを着たときもこんなんだったな、大佐に廊下に出てもらって、それで……。
上着を近くにあった椅子の背にかけ、灰色になった手袋をはずす。
機械鎧は……無事だ、傷ひとつない。
何かあったらあの幼馴染にスパナで撲殺されているところだ、危なかった。
ドレスのファスナーが下ろせなかったが、もう焼け焦げだらけだし破れているし、別にいいだろと思って壊した。
せっかく大佐が選んでくれたものだけれど、仕方が無い。
ドレスを脱いでしまうと、流石に布の薄いドレスでノーブラじゃまずかろうと巻いたサラシが顕わになる。
首に引っかかっている金の細いチェーンに気付いて、どうしようか迷った。
自分でははずせないし、かといって別に壊れているわけではないのでファスナーのように千切ってしまうにも抵抗がある。
一度壊してから錬金術で直すと言う手はあったが、なんとなくためらわれた。
だって、せっかく……なのに。
あのときロイを呼んだようにホークアイを呼ぶわけにはいかない。彼女にはエドの本当の性別を明かしていないのだ。
「軍服の襟で隠れるから、いいよな」
まるで言い訳のように呟いて、つけたままにしておく。
お湯をはった盥にタオルを浸して絞ると、黒くなった身体を拭いた。
拭きながら、ネックレスをつけてくれた無能な上司の顔を思った。彼の大きな手を思った。
綺麗だよ、と耳元で囁かれた声に、嘘つけ、と返したこと。
『エドお兄ちゃんは、あのおじちゃんが好きなの?』
子どもの戯言だ、だけど子どもの純粋な目だからこそ映るものはある。

オレが。あいつを。好きか。

こういう女々しい自分は嫌いだ。だから否定してきたし、見ないようにしてきた。
だいいち、あいつがオレのことをほんとに好きかわかんないし。
気にかけてもらってる、なんて自意識過剰なのかもしれないし。
オレは大佐からすりゃまだガキだし、普段の言動からしてもろ男だし、身体も女らしいとはいいがたいし、片田舎の平民出身だし、相手になるとは到底思えないし。
――――それに、思いを告げられたわけじゃない。
賢者の石なんていう不確かなものを追い求める自分が言えたことではないかもしれないが、そも錬金術師は形あるものしか信用しないから、これは錬金術師としての性分みたいなもので。
ということは、オレは大佐から『確かなもの』が欲しいのか……?
「あーもう、考えるのやめ! 好きとか恋とかオレの柄じゃねーし!」
肌が赤くなりそうなほど強くタオルで擦って、エドは軍服を纏った。
案の定大きい。
内心ショックを受けながら気にしないフリをしつつ、仕方無しにサイズが合うように錬成しなおして、下ろしていた髪を結んだ。


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