金はある。なにしろ真選組局長だ。給料はいいのだ。
その金で惚れた女に贈り物をしては、突っ返されることはや――
一体何回になったか、疾うに忘れるほど近藤と彼女の攻防は続いていた。
それでも近藤はめげなかった。諦めの悪さには定評がある。
いつか受け取ってもらえることを夢見て、今日もまた妙の元を訪れるのだ。
鼻歌交じりで歩く。
手にした小さな箱には指輪が入っている。
可愛らしいリボンがついているのは、店員が気を利かせてくれたからだ。
そのときの会話を思い出して近藤はにやけた。
『彼女へのプレゼントですか?』
『ええ、そうなんですよ』
その場に妙がいたなら即座に『誰が彼女だおんどりゃあァァァ!!』というつっこみと共に鉄拳が炸裂していただろう。
初めて彼女と出逢ったとき、黒髪の隙間に見え隠れする耳の、その柔らかそうな耳たぶを飾っていた石が良く似合っていると思った。
だからピアスを渡そうとした。自分の贈ったものを身に着けてくれたならいいと。
しかし小箱は開けられもせずに手元に戻ってきた。
それから幾度も身に着けるものばかり選んでは、人体急所への突きで拒まれてきてしまったが、今度こそと意気込んで近藤は道場の門の前に立った。
妙の道場はお世辞にも豊かとはいえなかった。それどころか明らかに困窮していた。
あの銀時とタメをはれるぐらい(というのは流石にいいすぎかもしれないが)かつかつの暮らしぶりだった。
新八が給料を貰ってこないことも、それに拍車をかけていた。
スナックの従業員仲間が、近藤のプレゼントを受け取るだけ受け取って、その後は質に入れるなり売り払うなりすればいいと言ったことがある。
しかし妙はそれをしなかった。
暇な時間を見つけてはしょっちゅうやってくる近藤を無下に追い返すのも、もはや日課となってしまった。
しかし相手もさるもので、どんなにすげなくしてもへこたれなかった。
そして手土産を持ってやって来る、繰り返し繰り返し。
いらないと言ってもやめない。
簪やら紅やら帯やら、あんなにむさいなりをして、どんな顔で選んでいるのだろうと思うと可笑しかった。
ああほら、お妙さんと呼ぶ声がする。
あんなに大きな声で呼ばなくても聞こえるというのに、なにがそんなに嬉しいのか(おそらくは妙に会えるのが)弾んだ声で叫んでいる。
そして今日のジャック・イン・ザ・ボックスの中身は指輪だった。
ごつい輪郭に似合わずにこにこと妙の前にそれを差し出している近藤を、妙は無言で眺めた。
饒舌な近藤とは対照的にしばらく沈黙を守った後、何かを思いついたように、初めて妙は……それを自分の手のひらに乗せた。
「とっとと帰りやがれ」
顔と台詞が合っていない。
可憐な微笑で辛辣な一言を吐く妙、一方近藤は受け取ってもらえたことに有頂天で、そんな彼女の態度もダメージにならなかった。
るんるんとスキップしそうなほどの勢いで、ご機嫌に職場にUターンする。
部屋へと引っ込んだ妙は、箱を開け、そこに納まっている細いリングを見た。
デザインは悪くない。
あの男が選んだにしては趣味が良すぎるようにも思えるので、おそらくは店員に薦められたのだろう。
妙はそっとそれを左手の指に嵌めた。
その指には少しサイズが大きかったが、気にしないことにした。
それから。
妙の左手に自分の指輪を見つけた近藤は天にも昇らんばかりに大喜びし、土方に自慢げに語ったが、
そこにいた沖田の一言で見事撃沈したのであった。
左手の小指に嵌めた指輪は、彼氏募集中ってェ意味らしいですぜ。
ルドモ