雨の日は嫌いだ。天然パーマにとって、雨の気配は天敵である。
普段より当社比2割増しの頭にわしわしと手を突っ込みながら銀時はおおあくびを一つした。
夜から降り続いた雨は、今朝になってさすがに勢いが衰えはしたものの未だ太陽を厚い雲のうちに隠している。
世界は薄い紗をかけられたように雨に煙り、そして銀時は出かけるのが億劫になった。
わざわざ濡れにいくのもしゃくだ。
どうせろくな予定もないのだし、今日は一日家にいるか。
こんな雨だというのに、新八も神楽も(定春も)姿が見えないところをみると、どこぞに行っているのだろう。
まったく物好きなやつらだ。
雨の日に外に出るなんて――――。
銀時は頬杖をつきながら、しとしとと細かく降る雨を眺めた。




雨の日は嫌いだ。着物にとって雨は鬼門である。洗濯物だって乾かない。
帯を整えながら妙はため息を一つついた。
こんな天気の中、外を歩けば裾に泥が跳ねるに決まっている。
出かけようか、どうしようか。
雲を通した暗い光は世界を灰色に染めていた。
なんとはなしに妙は、機嫌の悪い空を眺めた。
妙は雨の日は嫌いだったが、この空の色だけは好ましく思っていた。
灰色、薄墨色、鼠色、銀色。くすりと妙は笑った。
湿気のせいで膨らんだ頭をぼやく姿がリアルに想像できてしまう。
きっと銀さんも、雨の日は好きじゃないわね。
くすくすくす、笑い声は雨の降る音と混じり、そしてその小さな音の向こうから、門を叩く音が聞こえた。
誰だろう。妙はつと立ち上がると、門を開けに出た。
果たして雨が連れてきたものは銀時であった。
そしてなんとも酔狂なことに、銀時は手ぶらであった。
つまりは傘を差していなかったのである。
全身を雨の中に曝して、彼はここまで来たのだった。
「何か御用?」
異様な姿にそう妙が問うと、ちょっくら雨宿りさせてくれやと銀時は答えた。
雨は今いきなり降ったものではないのに。
しかし妙は心得たように、ずぶ濡れの銀時を家の中に招き入れた。
滴が銀時の身体をつたってぽたりぽたりと廊下に落ちて、木目に吸い込まれ黒っぽい染みを作った。
このままでは風邪を引くかもしれない。
なにか身体を拭くものをと思い、妙は大きなバスタオルを銀時に手渡した。
銀時は無言でそれを受け取ると、身体についた水滴をぬぐう。
「頭もちゃんと拭かなきゃダメよ」
「あー、やって」
「はいはい」
「はいは一回だってば」
妙は柔らかな手つきで銀時の頭をバスタオルでくるみ、濡れた髪の水気をとった。
「さっきね」
「ん?」
「ちょっとびっくりしたわ。ちょうどこの――髪の色を、思い出していたから」
「何お前、ひょっとして俺に会いたいとか思っちゃってた?」
軽口を叩く銀時の頭をぺしりとはたいて、妙は笑った。
「そうよって言ったら、嬉しい?」
その笑みを受け止めながら、銀時はバスタオルの上に乗っている妙の手を取った。
湿ってひんやりと冷たい肌に、妙の手のひらが温かい。ここちいい。
「……もっかい言って」
「銀さんに、会いたいとか思っちゃってたの」
銀時はためらわず、その温もりごと女の身体を畳の上に押し倒した。




ルドモ