それはなぜだったのだろう。
気丈だ気丈だと言われていたが、所詮は妙とて年端も行かぬ小娘である。
悔しければ唇を噛み締めるし、悲しければ涙を流しもする。
だが今、なぜこんなにも泣けてくるのか、泣いているうちに妙にはわからなくなってしまった。
……それに、よりにもよってこの男の前で。
涙で煙った目にはよく見えなくとも、銀時がわずかに狼狽したらしいのは、すぐそばに立つ気配で察せた。
「オイオイオイ、俺が泣かしたみたいじゃねェかよ」
そうだ、この男の前だからこそ自分は泣いているのだ。
妙はそれに気づき、また涙を落とした。
父が死んでから、つらいことなど山ほどあった。
しかし人前で涙を見せたことはなかったのに。
張り詰めていた糸が、銀時のそばにいるときは緩む。
自分にもこんなに可愛い面があったのかと、少し驚いた。
「なんて言うんだっけ、鬼の霍乱? 鬼の目にも涙? あー、つーかお願いだから泣きやんでください。調子狂うだろーが」
そんな失礼なことを言いながら、銀時が頭をかくわしわしという音がする。
妙の目からは涙がもう一滴――――
震えるまつげに伝わる感触、銀時の唇がそれをすくった。
「しょっぱ」
妙は驚いて目をぱちぱちとしばたいた。
にじんだ瞳に映ったのは、舌をちろりと出す銀時の、近くにある顔だった。
「知ってると思うがな、俺は甘党なんだよ。甘いもんの御使いだ、砂糖の申し子だ」
妙はただ頷くしかない。
「つまりは塩辛いのよりは甘いのが好きっつーことで。まあなんだ、お前の涙より、笑ってるほうがいーわ」
何を言うかと思えば。
妙は思わず銀時を凝視してしまった。
「……気障ね」
「人が慣れねぇセリフまで使って慰めてんだぞ、いいかげん泣きやめよ」
「ええ、おかげさまでびっくりして涙なんか止まっちゃったわ」
そして妙は、なんだか気まずげな男を見ながら、彼の好きな甘い笑顔を浮かべるのだ。
ルドモ