おい新八客だぞ、
なんですか銀さん僕にばっかり押し付けないでちゃんと仕事してくださいよ、
んなこと言ったってよォ、
まったくこれじゃ今月も給料出るかどうか怪しいじゃないですかぶつぶつ、
話聞けよ客がお前を指名してんだよ、
え、なんで?
知るか、とにかくとっとと応対しろ、お客様ー、はいご指名入りマース。
やめてくださいよその言い方……。
そしてそこで新八が見たものは、対テロ用特殊部隊機動警察真選組
「なげェなオイ」
の幹部3人組だった。
新八の向かって右側から順に副長の土方、局長の近藤、そして隊士の沖田が並んで座っている。
あんまりお目にかかりたくない面々だ。
しかし仕事なら仕方ない、と新八は社交辞令風に切り出した。
「えーと、今日はいったい何の御用ですか」
「俺ゃ近藤さんのつきそいだ」
「俺も土方さんの行くところどこでも付け狙いますぜィ」
「狙うなァァ! だったら帰れ!!」
「えーと、今日は新八君にお願いがあってきたんだ」
「……ハァ」
ソファの上でチャンバラを始めた部下二人を無視して、近藤は新八に言った。
「ほら俺たち、もうすぐ義兄弟になるわけじゃない?」
「なりません」
「いや、予定としてはさ」
「予定もありません」
新八にきっぱりと答えられて、近藤は落ち込みかけたようだったが、すぐさま息を吹き返した。
さすが姉にあそこまで酷い扱いを受けてもしぶとくつきまとっているだけのことはある。
つまりそうか、やはり今回彼らがやってきたのは姉がらみなのか。
そのくらいしか、彼らがこの犬猿の仲の万事屋を訪ねてくる理由が思いつかない。
土方とどつきあいを終えた沖田がきょろきょろと狭い部屋を見回した。
「今日はチャイナはいねぇのかい」
「神楽ちゃんですか? 定春と散歩に行きましたけど」
「そうか、そいつぁ残念だ。今日こそ決着つけられると思ったのに」
沖田がくっくっくっと黒く笑うので、新八は青ざめた。こっちの理由もありか。
平静を保とうと茶をすすって近藤を見たが、近藤はもじもじと恥らっていたので、平静を保つどころか危うく茶を噴きそうになった。
ひげ面のいい年した男が10代の乙女のような恥らいっぷりでは、気色悪いことこの上ない。
「あの……とりあえず俺としては、もっとお妙さんのことを知りたいと思ってだね。そこで、一番近しい肉親の君なら、俺の知らないお妙さんのことを知ってるんじゃないかと」
「早え話が、将を射んとすれば先ず馬からってこった」と土方が続き、
「つまり弱そうなやつから先に抱き込んでいこうと」と沖田が、
「つまり新八なら懐柔するのが楽そうだと」と銀時が締めた。
「あんたら微妙にムカつくこと言いますね。って銀さん、何さり気に会話に混じってるんですか! 僕の客だから自分は出ないんじゃなかったんかい」
「あン? そりゃお前、この万事屋の経営者は俺なんだから、その責任としてだなぁ」
「……気になるんなら素直にそう言えばいいのに」
はぁ、とためいきをつく。
まぁいい、この男の傍若無人なふるまいにももう慣れた。
自分の染まりぶりに涙をこらえながらも、新八は近藤に先を促した。
「で? 具体的には何が訊きたいんです」
近藤はもっともらしく頷いた。
神妙な面持ちで口を開く。
ごくり、と新八の喉がなった。
「スリーサイズとか」
「すんません勘弁してください」
コンマ1秒しか挟まない即答だった。それはもう見事なまでの拒絶だった。
しかし近藤は食い下がる。
「そこをなんとか!」
「無理! 無理無理無理! 僕が姉上に殺されますって!!」
「じゃあヒップだけでいいから。バストとウェストはこの際気にしない方向で!」
「意味わかんねーよ!」
「報酬は弾むから! ね!?」
「金より命のが大事です! 命あってのモノダネって言うでしょ!」
というわけでこの依頼はお受けできません、お帰りください。と新八は一応の礼儀として深々と頭を下げた。
がっくりと意気消沈した近藤を、両脇の二人が支えるようにして立たせる。やれやれといった風情だ。
「ったく……ほら、仕事に戻るぜ近藤さん」
「う……うう、お妙さん……」
「しっかりしなせェ、スリーサイズなら今度またストーキングでもして調べりゃいいじゃないですか」
「テメェ何さらりと犯罪そそのかしてやがるんだァァ!!」
「そんなこと言って、土方さんだって気になるから来たんでしょうに」
「なっ! お、俺は別に、あんな女っ」
「おやぁ、俺は何が気になるかなんて一言も言ってやせんぜー?」
「総悟ォォォォ!!」
どたどたと刀を振り回しながら彼らは出て行った。
その騒々しさたるや、まるで嵐が来て、そしてたった今去っていったかのようだ。
その背に銀時が一声投げかける。
「今度お妙に会う時までに、着物の上からでもスリーサイズが当てられるくらいの技を習得しとくんだなァー!」
部屋には新八と銀時と、それから硝煙のにおいが残された。
引きずられた近藤は無事だろうか。階段で頭を打ってそうな気がする。現にごんごんと結構派手な音が聞こえたような気もしたし。まあ別に無事じゃなくてもどうでもいいが。むしろ姉上が喜ぶかも。
新八はそんななかなかに鬼畜なことを考えてから、横目で銀時を見た。
「銀さん、着物の上からスリーサイズがわかるんですか」
「ん? さぁねェ」
ゆっくりと椅子に座りなおす銀時に、新八も彼の向かいに腰を下ろしてぬるくなった茶をずず、とすすった。
「ただ、お妙のサイズなら知ってるぜ」
ぶ――――っ!!
すすった茶は盛大に空気中にリバースし、にやりと笑った銀時の顔面に直撃したのだが、新八は謝る気にはなれなかった。




ルドモ