I miss you : 1
翻ったマントの色は鮮やかできらきらしい。
派手なのだが、その派手さも持ち主の美貌によく似合っていた。
ただし、その持ち主がまるでこの世の終わりが来たかと思うほどの悲しみと絶望に満ちた顔をしているとなれば話は別だ。
「ああ、なんたる悲しみ。これからしばらく僕の愛するソフィーに会えないなんて……」
ハウルはぐずぐずと、抱きしめたソフィーの身体を離そうとしなかった。
これが出かける間際の数分の出来事なら可愛いものなのだが、ドアの前でかれこれ30分にも及ぼうかというほどになるとさすがに疲れる。
カルシファーはさっさと見切りをつけて、うたたねしながら燃えていた。
一応弟子であるマルクルはそんなわけにもいかず、側で荷物を渡そうと律儀にずっと待っている。
ソフィーはなんとかハウルのまとわりつく腕から脱け出しながら息をついた。
「もう! いい加減にしてちょうだいハウル」
苦労してせっかくほどいた腕をまた絡ませられる前に、ハウルと距離をとる。
ソフィーに先手を打たれた相手の表情は、絶望のがけっぷちに立っている人のそれだ。
「ソフィーは僕としばらく会えなくても平気なの?」
「仕方ないわ、お仕事なんだもの」
「君は冷たい! もうちょっと寂しがってくれたっていいと思うよ」
「あなたは大げさなの」
なにせ、たかだか数日留守にするくらいで、今生の別れででもあるかのような悲しがりようなのだ。
しかしハウルは即座に反論してきた。
「大げさなもんか! 僕にとって、君と会えないことは身を引き裂かれるよりつらいことなのに!」
どうやら本気で言っているらしいので、ソフィーも少し素直になった。単にほだされた、とも言う。
「……わたしだって、寂しくないわけじゃないわ」
「ソフィー!」
がばっと抱きつこうとしたハウルを
「でもっ」
ひょいっとよけて
「あなたが言ったのよ? 大事なお仕事なんだって。だから我慢するの。でしょ?」
「うー……、う……うん。……だ、ね」
むなしく空を切った腕を身体の横に下ろしてハウルはしぶしぶ頷いた。
まだ完全に納得しきれてはいないらしいが、ここまでくればもう一押し。たださじ加減が難しい。
やりすぎて「やっぱり君を置いてなんか行けないよ!」などと言い出すことのないように、ほどほどにしなければいけない。
ソフィーは極上の笑顔を作った。
「頑張ってなるべく早く帰ってきてね」
「……うん」
いってらっしゃいに可愛いキスをつけてとどめ。
ようやくソフィーはハウルを無事送り出すことに成功したのだった。
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04.12.19