平和だったとき。
まだ、ヘリオポリスで友達に囲まれて、
自分がコーディネイターなのをあまり気にしなくても生きていくことができた、
あの時間。
僕は君を遠くから見てた。
見ていることしかできなかった、とも言うけどね。
どこにいてもフレイは目立ってた。
友達に囲まれて、華やかに笑ってた。
僕の目には、そこだけ色が違って見えた。
その笑顔が自分に向けられたらどんなにいいだろうって、よく思ってたんだ。
でもそんなことはまずないだろうっていうこともちゃんとわかってた。
フレイはよく、告白されたりしてたね。
僕ときたら、どんな返事をしたんだろうって、そのたびに噂に耳を傾けてた。
君の返事はいつもノーだったから、僕はよくほっとして。
今思うと、あのころ君が断ってた理由はサイだったんだよね。
それでもそのときの僕は君に、
フレイ=アルスターに、
憧れてた。
鮮烈だった記憶の中の君。
フレイ、もう一度、フレイの笑顔が見たいんだ。
僕の後ろにできるのは死体の山だ。
重なっていく屍。
腐肉と流れる血のにおい。
君が僕に守ってと頼んだ、君のお父さん。
僕に紙の花をくれた小さな女の子。
君のお父さんも、あの子も、僕は守れなかった。
守ってくれてありがとう、
ありがとうなんて言ってもらえる資格僕にはないのに。
どれだけの命があの艦に乗っていたのだろう。
僕が守るといった人たち、
僕のことを信じて死んでいった人たち。
たくさんのたくさんの、子供や大人や、女の人や男の人の命。
すべてが、一瞬で。
そのたった数秒で、終わってしまった。
光となって消えてしまった。
僕は押しつぶされそうだった。
命の重さに恐怖した。
「わたしのおもいがあなたをまもるわ」
あの言葉が嘘だったとしても。
嘘だとしても、君の言葉が僕を救ってくれたんだ。
僕だって、誰かに守って欲しかった。
ねえフレイ、僕は君の言葉に、
確かに守られてたんだよ。