僕たちは連れ立って外に出た。
　夜空は澄み渡り、星が瞬いている。
　千々に乱れる僕の心とはまるで正反対の美しさだった。
　彼は薄闇の中歩きながら、腕時計を確かめている。
　その横顔を眺め、こちらが痛くなりそうな傷跡を唇の端に認めた僕は、思わず口を開いていた。
「……あなた、どうするんです」
　自分でも驚くくらい自信のない声が出た。彼がこちらを見る。
「そんな顔では帰れないでしょう……？」
　何を言おうとしてるんだろう、僕は。僕こそどうするつもりなんだ。
　彼は頬に手を当てて、少し考えるような仕草をした。
「ファミレスかカラオケ辺りで夜明かししようかと、……あ、お前の家に泊めてもら」
　泊まる？　彼が、僕の家に！？　ありえない、そんな、猛獣の檻に飛び込むような真似。
　彼はわかって言っているのか？
　ああ、けれど。確かにそれが一番自然で、最善の方法ではある。
「……うのは迷惑だよなやっぱり」
「……構いません。どうぞ」
　さあ、ぺらぺら口のうまい古泉一樹。今こそ出番だぞ。
「――――え？」
「あなたには休息が必要です。ファミレスやカラオケでは休まらないでしょう」
　適当な理由をつけると、彼は納得したようだった。
「……うん、じゃ、お言葉に甘えさせてもらうか。ありがとな」
　はにかむような笑いが、僕にとってどれほどの威力を持っているか、彼は自覚していないに違いない。
　僕の神経は、彼の一挙手一投足、髪の擦れる音や呼吸音までもを拾い上げる。
　この学校は急な坂の上にあり、普段の登下校でさえなかなか大変なのだ。
　つらそうに荒くなってくる彼の呼吸に、そんな場合ではないのにいけないことを考えてしまいそうになる。
「っ」
　彼の膝は限界が近いようで、たまりかねて僕は自分の腕を提供した。
　彼を助けるために触れるのであり、仕方がないことだと言い訳をして。
　そしてさっきも僕は、そんな風に口実を作って彼を抱いたのだった。



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