監禁と軟禁の違いは何だ。誰か教えてくれ。
 誰かっつったってここには俺と古泉しかいないのであり、人間以外で教えてくれる可能性のあるのは辞書くらいのものだ。
 古泉のわかりにくく回りくどい解説を聞くよりは辞書のほうが遥かにいいのは言うまでもない。
 同じ薄っぺらさでも古泉の笑顔と偉い教授が心血注いで書き上げた紙とでは重みがまるで違うしな。
 俺は迷わず分厚い本を取り上げてページを繰る。右手の手首に巻きついた鎖が、しゃら、と音を立てた。

【監禁――行動の自由を束縛して、一定の場所から出られないようにすること。】

【軟禁――家などに閉じ込めて、外部との交渉や連絡をさせないこと。緩やかな監禁。】

 どうやら監禁より軟禁のほうが程度が低いらしいということはわかったが、さて、結局俺の置かれた状況はどっちに当てはまるのやら。
 どっちでもたいして変わりはない、か。
 辞書を閉じて自由なほうの左手で手錠に触れ、そこから伸びる銀色のチェーンを手のひらで辿るように持ち上げた。
 そんな俺を、不安と歓喜の入り混じった表情で見つめる古泉。
 第三者が見たら十中八九異常な光景だと判断してくれるだろう。そいつがSM趣味の持ち主とかじゃなければな。
 断っておくが俺には別にその手の属性はないし、誰かのペットに甘んじてよしと思う性癖もないのでどっかの変態と一緒にしないでもらいたい。
 じゃあなんでこんなことになってるかといえば、そのどっかの変態古泉一樹が俺を夕飯に誘ったのが始まりだったような気がする。
 そんなに特殊なきっかけがあったわけじゃないんだ。俺は肉につられた、ただそれだけ。一〇文字で収まる。