(前略)

 玄関を開けると、古泉の家のにおいがした。当たり前のことなんだが、その当たり前のことが、なんだかすごく懐かしい。たった十日来てなかっただけなのにな。古泉を焦らしてるつもりで俺も溜まってたとか、ミイラ取りがミイラになりつつあったようだ。がちゃり、とやけに施錠の音が大きく聞こえた気がして、ん、と思ったら後ろから抱きしめられた。
「! おま、」
「――――……」
 振り返ろうにも締め殺されるんじゃないかってくらいのすごい力でがっちりホールドされていて、あ、こいつキレてやがる、こりゃ無理だ、ちょっとやそっとじゃはずせそうにねえ。荒い息の音が聞こえる。うなじに唇を押し当てられ、熱い舌がぬるりと滑った。おいおい、このまま玄関先でやる気か。んなもん俺の予定表には載ってない。不測の事態だ。駄目だ、ここで突破を許したら計画が崩れて水の泡になる。俺は精一杯腕の中でもがいた。
「や、やめろってこんなとこで、……落ち着けよ!」
「っ無理です……っ」
 古泉が余裕のかけらもない声を出し、性急な動きでシャツの上から胸をまさぐる。
「……あなたにずっと触れられなくて、気が狂うかと……思いました」
 熱のこもった言葉によろめいた。いやいやいや、よろめいてどうする、俺。目的を見失うな。
「いつ触れるんだろう、そうしたら次、どんな風にしてやろうって、どうやって弄ってやろうか乱してやろうかなかせてやろうかって、そんなことばっかり考えて、やっとそれができるのに、落ち着けるわけがない」
「……っ」
 指先が、勃ち上がりかけた乳首に突き当たる。いつもより乱暴なのに、久しぶりなせいか、すぐに反応してしまう。
「どうして、僕を避けてたんですか」
「避……けてたわけ、じゃ」
「嘘」
 まずい。なにがまずいって、このままだと不埒な手の追求に白状させられてしまいそうな自分がまずい。なんとかしなければなし崩し的に玄関でなだれ込んで全てが終わるじゃないか。なんとかしなければ! よし、なんとかしよう。
「ほんとに、そういう気分になれなかっただけ、なんだ。お前を不安にさせてたんなら、謝る。……ごめん」
 出来るかぎりすまなそうな声を作った。
「だから今日はお詫びってことで、いろいろしてやるから、ここではちょっと我慢しろ」