先のほうをちろりと舐める。筋に舌を這わせ、たっぷりと唾液をまぶすようにする。
 舌の根がしびれそうになるほど動かす。
「ふっ……は……、ぁ」
 隙間から汚らしく混ざり合った体液が滴り落ちた。
 男の手があやすように髪をすく。
「上手いじゃないか、やっぱり才能あるぜ」
 あってたまるか。
 そんな才能に気づいたら、俺は真っ先に屋上から飛び降りるね。
 歯を立てないように細心の注意を払っているせいで、精神の糸が焼ききれそうだった。
 だが俺がやらないと古泉が。
 自分のせいで関係ない人間が痛めつけられるのを見るほど、胸糞悪いことはない。
 俺は一心不乱にグロテスクな肉塊を舐め続けた。
 太ももに手をかけられたときも、俺の注意は全て目の前に向いていたから気づかなかった。
 ぐい、と力任せに大きく左右に開かれる。
「!?」
 嫌な予感が背骨のラインを駆け上がり、汗がどっと吹き出た。
 触れたと思うまもなく尻の間に指先が入ってくる。
「っああ!!」
 俺は何もかもをかなぐり捨てて喉を仰け反らせた。
「いやだ、抜け、抜け、抜けぇぇっ!!」
 我を忘れ、恐慌状態に陥ってひたすらわめいた。
 わめきながらふと、ツンツン男の見下ろす視線にぶつかって、ぎくりと身体が強張る。
 自分の行動を理解するにつれ、肩の震えが大きくなり、やがて全身に波及して止まらなくなった。
 指はまだ体内に入れられたままで、圧迫感も相当なものだったが、それよりも恐怖が上回る。
「歯が、当たったんだけど?」
 面白くてたまらないというように言われた言葉が、がたがた震える俺には死刑宣告に聴こえた。
 逃げろ古泉。逃げてくれ。
 けれど俺の祈りが天に届くことはなかった。
 髪を引っ張られて古泉のほうを向かされる。
「に……げ、ろ」
 奇跡は起きない。古泉は拘束され膝をついたままだった。
 当然だ、逃げられるものならとっくに逃げている。
 古泉。
 なんで、笑ってるんだ?
「僕なら大丈夫です」
 アホか、大丈夫なわけあるか。お前の笑顔は嘘くさいって言ったよな、そんな見え透いた強がり、バレバレなんだよ。
「あなたが……気にすること、じゃ、ありません」
 気になるんだからしょうがねぇだろ!
 ツンツン男が古泉のほうへ踏み出す。
 俺は身体を開かれる猛烈な不快感に脂汗を流しながら古泉を、微笑む古泉を見ている。
 奇跡は起こらない。
 なら、自分でなんとかするしかないじゃないか。
「やめろ!!」
 魂からの叫びだった。男が振り向く。
 この瞬間、俺は全ての覚悟を決めた。
「もう暴れない。抵抗しない。あんたらの言うことをなんでもきく。言うとおりにする。絶対、どんなことでもだ。だから、そいつには何もするな――――しないで、ください」
 古泉の笑顔が凍りついた。
「馬鹿ですかあなた!」
 ああそうかもな、もう否定しないよ。
「僕なら構わないと言っているでしょう! 人の話を」
 悪いが聞く耳持たん。
 俺は叫ぶ古泉を無視して身体の力を抜いた。
 どうやら指を入れていたのは傷男のようで、それともう一人が俺の膝頭を押さえつけていたらしい。
 ひっくり返され、犬の姿勢をとらされる。
 契約が結ばれたことを示すように、未だ叫び続けているにもかかわらず、もう誰も古泉を殴ろうとはしなかった。
 ほっと息を吐く。
 俺の唾液でぬめったままの勃起が再び唇に押し付けられた。
「は……」
 素直に迎え入れ、自分が従順であることを示す。息苦しさは我慢だ。
 俺が口を動かすのに合わせるように、ケツにもぐりこんだ指が緩やかに動くのを感じていた。
 さっきみたいなことにならないよう、注意深く舌を使う。
 硬度を増していく肉の棒。と、男が俺の頭を掴んで前後に揺さぶった。
「ん、ん、んっ」
 ぬちゃぬちゃ頭蓋骨全体にこだまする、耳を塞ぎたくなるようないやらしい音が。
 俺は限界近くまで口を開け、襲ってくる吐き気と戦った。
 速いリズムを刻んでいるのは俺の脈拍なのか、それともほおばったものの脈だろうか。
「っく、ほら、顔上げろ!」
 俺は男の命令に従う。そうすることしかできないから。
 びゅく、と頬に叩きつけられる精液の白さは、俺には嫌悪すべきものに映った。
 口の中に出されたり、飲め、とか言われなかっただけマシなのだろうと自分に言い聞かせる。
「よし、交代な」
 ツンツン男は俺の頭を撫で、やおら古泉に近づくと、拘束役の一人と代わった。
 染めているのだろう赤茶の髪をしたそいつは俺の前にやってきて、
「なんでもするんだって? 顔射は終わったみたいだから、俺は飲んでもらおうか」
 放心する暇も与えられず、尻のほうの指が内部をえぐった。
「っうあ!」
 身体が跳ねるのはもうどうしようもない。
「おいおい、噛むなよ」
 上にも下にも突っ込まれて、それはかなり無茶な要求だと思うぞ。
 だがどんな無茶でも、言うとおりにすると言ったのは俺で、言った以上は自分の言葉に責任を取るさ。
 指が蠢く。探られている。薄い縁を確かめるようになぞられ、俺は身をよじるのをなんとか抑え込んだ。
 入口から、いや本来なら出口なのだが、とにかく進入を果たした指の腹が、中の壁を押した。
「ふぐっ! ……ふ、ふー……うー……」
 危ない、うっかり上下の歯をがちっといくところだった。
「なあ、こっち入れていいか? そろそろ俺も楽しみたい」
 傷男が言う。赤茶が答える。
「噛み切られたく、はない……からな、もうちょっと待っ、てくれ」
「早くしろよ」
「わかってるって」
 傷男は順番を待つことにしたらしい。
 こらえ性がなく待てなかった他の男は、自分で扱いて俺の背中にぶっかける。
 うなじを舐められ、髪が逆立つかと思った。
 傷男の指はぐにぐにと何か別の生き物のように動き、少しでも俺を押し上げようとする。
 後ろに意識が行きがちだったせいか、口のほうが散漫になっていたのかもしれない。
 咥えていたものが前触れもなく脈打ち、俺は目を見開いた。赤茶はイクとも出すとも言わなかったのだ。
 ただ、俺の顔をがっちりと固定して後ろに引けないようにした。
「――――……!」
 どろどろの体液が喉を打った。粘っこくひっかかるそれを、唾と一緒になんとか飲み下す。
 引きずり出されたペニスと俺の唇とが糸を引いた。