俺たちは連れ立って外に出た。
 空には変わらぬ星が瞬いている。
 そうだよな、俺は凡人で何の変哲もない一般人であり、本来なら俺に何が起ころうが世界には関係ないんだよな。
 唯一の懸念はハルヒで、あいつに知られたらどうなるかわからないが、逆に言えば気づかれさえしなければ安泰だってことだ。
 俺は今日の出来事をなにがなんでも隠し通す決意をした。
 つうか言えるわけがねえ。言えやしないだろこんなこと。
 さしあたっては、家族に隠さなきゃならんわけだが……こんな怪我で帰ったら確実に何かあったとばれるだろう。
 どうするか。
「……あなた、どうするんです」
 おず、と古泉が言う。
 エスパーのごときタイミングだが、お前ってそういう超能力者だったか?
「そんな顔では帰れないでしょう……?」
 お前いつももっとずばっと、それでいて回りくどく切り込むくせに、その遠慮がちで殊勝な態度はなんだ。
 俺は腫れて熱を持った頬に手をやる。いくつか案はあった。
「ファミレスかカラオケ辺りで夜明かししようかと、……あ、お前の家に泊めてもら」
 古泉は夜の底が抜けて空が落ちてきたみたいな驚愕の表情で俺を見ていた。
「……うのは迷惑だよなやっぱり」
 財布の中身、いくらはいってたっけ。ドリンクバーと軽食で粘れるくらいにはあったと思うけど。
 俺が小遣いとの相談をし始めたとき、古泉の声が聞こえた。
「……構いません。どうぞ」
「――――え?」
 いや、そりゃ俺としてはかなりありがたいが。願ったり叶ったりだが。
 でもいいのか?
「あなたには休息が必要です。ファミレスやカラオケでは休まらないでしょう」
 さっきの表情が気にはなったが、言われたことはその通りだと思ったので、俺は素直に頷いた。
「……うん、じゃ、お言葉に甘えさせてもらうか。ありがとな」
 急な坂道は今の俺の足には負担だったので、古泉が見かねたように差し出した腕にも、俺は甘えた。


 家には「今日は友達の家に泊まるから」とだけ連絡を入れた。
 特に不審がられることもなく、すんなりOKが出る。
 信用されているといえば聞こえがいいが、単に放任主義ともいえる。
 まあ、まさか自分の息子が輪姦されたので帰れないだなんて、普通は思いもよるまい。
 体験した俺自身でさえ信じられないくらいだもんな。
 まだ、さっきのことは全部夢だったんじゃないかなんて甘い願望にすがってしまいたくもなるけど、疲労困憊の全身や、意識したくもない場所の痛みなんかが、これは紛れもない現実なんだと俺に突きつけてくる。
 下り坂の負荷に膝が笑い出した。古泉の腕の力が強くなる。
「……おぶりましょうか」
 俺を和ませようと思って気を使って言ったのだということがわかってしまったから、俺もそれに乗っかった。
「いらん。それはさすがにキモイ」
 ああ、いつもみたいな、こうした軽口を叩けるくらいには回復しつつあるみたいだ。
 それはやっぱり古泉のおかげで、隣に誰かいるって大きい。
 毎日登下校する通学路を古泉と並んで歩く、そんな風に、俺は日常を取り戻していけるはずだ。
 今歩いているのと同じみたいに、明日はハルヒと朝比奈さんと長門の背中を眺め、古泉の胡散臭い話にやる気なさげな相槌を打ちながら歩くんだ。
 どうしたって忘れることができないなら、覚えていればいいんだよな。
 その経験、その記憶を次に繋げて、進歩して、乗り越えて――――強くなれたらいいのにと、俺は思った。
 思っていたんだ。