ショックだった。
 銃で心臓を撃ち抜かれたみたいな衝撃が俺を襲い、古泉を見るのが怖くて、シャーペンの先ばかりを見る。
 俺の思い過ごしであってくれと願った。そして、必死になっている自分に愕然とした。
 いつの間にか、俺の中で古泉の比重がかなり大きくなっていたことを思い知らされる。
 どうして古泉は俺を避けるのだろう。
 さんざん迷惑をかけたから?
 本当は嫌だった?
 それとも、一晩経って混乱が落ち着いて、改めて俺のせいで巻き込まれたことを怒っているのかもしれない。
 もしかしたら、と別の恐ろしい可能性に思い当たる。
 軽蔑されたのだろうか――――汚いと。
 レイプされた女性が被害者であるにもかかわらず世間から白眼視されているのを、ドラマやニュースの特集なんかで目にしたことがある。
 いや、古泉はそんなやつじゃない、でも、じゃあこの唐突な態度の変化の理由は?
 耳の奥で傷男の言葉が蘇った。
『男に犯されて、女みたいにあんあん喘いで腰振って感じて、すげえ淫乱だなお前』
 俺はシャーペンを折らないように必死に自制した。
 ああ、……だとすれば避けられて当然かもな。幻滅もするさ。無理はないな。
 なにせ俺自身が、あのときの俺を汚いとそう思うから。
 かっこつけて自己犠牲を気取って、本当は気持ちよかったんじゃないのか。
 男の言うとおり俺は淫乱で、だから!
 古泉が俺のことを好きかもなんて、思い上がりもいいとこだ。俺がそれを求めていたんだ。
 ボロボロに痛めつけられた後、誰かに優しくされたいと望んで、与えてくれそうだったのが古泉だっただけなんだ。
 こんなずるくて卑怯な考えが自分の中にあったなんて恥ずかしい。
「っ」
 ぽつ、とノートの上に水滴が落ちた。紙に吸い込まれて滲む。
「え……」
 古泉が気づいて顔を上げる。
「ど、どうかしたんですか」
「う、っく」
 嗚咽を殺すが涙までは止められなかった。ぱたぱたと落ちてノートを濡らす。
 古泉は目を見開いて俺を見ていた。だが腕は伸ばさない。身体を近づけてきたりもしない。
「身体、つらいんですか? 休みますか」
 つらいさ。身体じゃなくて心がつらい。
 そんな風に優しい声を出すな。抱きしめてもくれないくせに寄りかからせようとするなよ。
 中途半端な距離をやめろ。突き放すなら徹底的に突き放してくれ。そうしたら諦めもつく。
――――嫌だ!
 俺は古泉を絨毯の上に押し倒した。
「う、わっ!?」
 古泉が俺から離れていくなんて嫌だ。諦めなんてつくはずがない。
 エセスマイルが剥がれ落ちかかっている古泉を見下ろして、俺は泣きながら笑った。
 これ以上、どこまで堕ちたって構うものか。