「……っ」
 刹那の思考停止ののち、心から真っ赤な血が噴き出したのを感じた。
 今のはきつかった。致命傷だ。
 そこまで嫌われているとは知らなかった。無知は罪って本当だな。
 二日間、古泉にはさぞかし拷問だったことだろうよ。
「ごめ……ごめん」
 床が地震のようにぐらぐら揺れている気がした。
 倒れなかったのが不思議なくらいで、そしてそれは、古泉が俺を抱きしめていたからだった。
「……最後の砦だったんですけどね」
 空耳かと思うほどかすれた小さな声。
 え、と問いかける暇もなく唇が重なった。
 え、え、え?
 発音されなかった問いが頭の中で溢れかえる。深く深く差し込まれ貪られた。
「む、ぐ!」
 苛立ちが伝わってくる荒っぽいキス。その自分勝手な動きに翻弄される。
「っは」
「言ったはずですよ。次に謝ったら嫌なことをする、と」
 キスしたまま喋るんじゃない。古泉の何もかもが近い。ぞくぞくする。
 つまりこれは嫌がらせか。
 古泉は本気で怒っている。怒らせたのは俺で、きっともう取り返しがつかない。
 いつしか俺の身体は震えていた。古泉が俺を覗き込む。
「僕が怖いですか」
 怖い。古泉の怒りの矛先に俺がいることが。
 昨日これと同じようなことを、俺は古泉にしようとしたわけだ。古泉が怒るのも仕方ないじゃないか。
「こうなる前に、さっさと逃げればよかったんです。あの時点で逃げるべきだったんです、あなたは」
 どん、と突き飛ばされた先はベッドの上で、背中に弾力を感じた。
「なのにあなたときたら」
 状況に頭が追いつかない俺を古泉が組み敷く。
 覆い被さってくる身体の、体重ではなくて、間にある空気が重い。
「僕も……そろそろ限界なんですよ。耐えられない」
 俺、お前を追い詰めてた? そうなのか?
「何度か警告したじゃないですか。それなのにまだわからないんですか? どうすれば理解していただけるのか……」
 俺は呆然と古泉を見上げた。古泉はとても苦しそうだった。
 こんな顔をさせているのが俺なのだとしたら、確かに俺は罰を受ける必要があるだろう。
 そして古泉には俺を断罪する権利がある。
「決定打がなければ駄目ですか? なら、教えて差し上げますよ」
 古泉は俺の首筋に鼻を埋め、僕のにおいがする、と言った。
 指が服をまくりあげ、肌に直接触れる。
「――――僕が」
 耳元で囁かれ、思わずぴくんと肩が跳ねた。古泉?
「どういう想いであなたを見ていたか」