身体の輪郭を指がなぞる。古泉が俺を暴いていく。
「古泉っ」
「僕はね。あなたをずっと、こうした性的な欲望の対象として見ていたんですよ」
 俺の目に映っている古泉は、古泉自身からはどう見えるのだろう。
 なあ、お前、わかってるか? 今にも泣きそうだぞ。
「あなたが想像もつかないほど汚い妄想で辱めたこともある」
 一言ごとに古泉の傷口が開いていくような、そんな気がした。
 このままだとこいつは傷だらけになるんじゃないかと思った。
 古泉が俺の髪をすく。指先が優しいくせに、それがかえって怖い。
「知らなかったでしょう? 僕もずっと言わないつもりだったんですけどね……」
 自分を貶めたがっている、そんな風に聞こえた。まるで精神的自傷行為だ。
「……もうやめろ」
 古泉を止めたかった。けれど俺はまた間違えたらしい。
 長い前髪の間から覗く目が、すっと細められた。
「残念ながら、そのお願いは聞けそうにありません」
 皮膚を這う手のひら、徐々に下へ降りていく。下腹部へ到達し下着の中へと潜り込んだ。
「ひッ」
 緩やかに指が動き、程なくしてあっさり俺は勃ちあがった。息の隙間に微かな水音が混じりだす。
「んっ、あ、こいず、みっ!」
 ダイレクトな快感に力が入らない。どうすればいい、どうすれば古泉を止められるんだ。
 本当はもっと別の、言いたい言葉、言わなくちゃいけない言葉があるはずなのに!
 古泉はろくな抵抗も出来ないくらい力の抜けた俺を、ひっくり返してうつ伏せにした。
「!」
 古泉の姿が視界から消え、しわの刻まれたシーツの白だけがただ、目に眩しい。
 嫌だ。怖い。
「こ、古泉! 嫌だ!」
 古泉の顔が見えない。冷たい指と濡れた舌が身体のそこかしこを這い回る。
 一昨日の悪夢が俺を追いかけてきて捕まえてしまう。俺を引きずり倒し恐怖と混乱の渦に叩き込む。
 指がそこに触れた。
「あっ、あ!」
 顔が見えない。
 指の冷たさや乱暴さ、痛みなんかと相俟って古泉じゃない男にやられてるみたいな錯覚に陥る。
 嫌だ!
 俺は必死で古泉の顔を思い浮かべた。
 同時にふっと心の中をよぎるものがあった。そうだ、あのときもこんな風に――――。
 古泉、古泉、お前の顔が見たい。
 こんなのは嫌だ。
 涙が堰を切って溢れた。
「うっ……うぅっ……うっ……」
 古泉の指はいつの間にかその動きを止めて、圧し掛かっていた身体の重みもどこかへ消えていた。
 俺は泣きながら恐る恐る振り返った。
「すみませんでした。もう……しませんから」
 そこにいる古泉が、俺には血まみれに見えた。
 もちろん実際にそんなことありえないのだが、けれど俺にはそう見えたのだ。
「でも、これでわかったでしょう? 僕はあなたの信頼に足る友人ではない」
 泣く前兆のひきつりのような笑み。
「それだけじゃないんです。僕は、もっとひどいことをあなたに」
 もういい、もうやめろ。
「あなたが暴行を受けたあの日」
 古泉。
「僕は、彼らに加わってあなたを犯しました」
 古泉の笑顔が泣き顔に変わった。