しばらくベッドの上で毛布を挟んで抱き合っていた。む、なんかこの言い方激しく語弊があるな。
 まあとにかく、抱きしめ合っていたわけだが、だんだん古泉の身体が重くなってきた。
 自分の体重くらい自分で支えろよ、癪なことにお前のほうがガタイいいんだから!
「おい、古泉?」
「……な、なんだかほっとしたら一気に眠く……実はこの二日ほとんど寝ていないものでして」
 はぁ!? そうじゃないかと薄々思ってはいたが、やっぱり寝てなかったのかお前。
 アホだろ。バカにプラスしてアホだ。谷口を超え……てはいないがそれに並ぶ勢いのアホだぞ。
 古泉は不明瞭になり始めた発音で答える。
「そう言われましても、性的興奮を覚える相手と一つ屋根の下二人きり、おまけに相手は自分のベッドで寝ているという状況で安眠しろというほうが無理な話です……」
 僕だって健全な青少年なんですから、ときたもんだ。
 性的興奮を覚える対象が同級生の男子という時点で健全とはいいがたい気もするがそれを言うと薮蛇だろうからあえてつっこまないでおく。
「例えばそうですね、朝比奈さんがあなたの家にいてシャワーを浴び、湯上りの裸で抱きついてきたあげく高熱で倒れたらどうです? 服を着せ自分のベッドに寝かせた後、うなされる彼女の悩ましげな声を聞く。眠れると思いますか」
 確かにそれはかなりの責め苦かもしれんね。
 というか改めて羅列されるとすごい行動のオンパレードだ。
 これ全部俺がやったんだよな、信じられん。つうか信じたくない。
 あああわかったからもう黙れ、黙れと言ってるだろうが!
「あまつさえ次の日押し倒されてキス、とどめにフェ、フェ」
 口ごもるくらいなら最初から言わなきゃいいだろ。
「フェラですよ? 僕はもう理性と情欲の間で死ぬかと思いました」
 どっかのベストセラーみたいに言うな。
 その件に関しては、ついイライラしてやった、今は反省している。
 若さゆえの過ちってやつだ。
 ほら、若さって振り向かないことだって言うだろ?
 だから水に流せ、俺もさっきのお前の無体はなかったことにしてやるから。
 お願いだからそういうことにしといてくれ俺だってあんまり思い出したくないんだよ顔から火が出そうだ!
「あんなことされて平常心を保てるはずがありませんっ、僕がどれだけ、どれだけ……」
「とりあえず寝ろ! 可及的速やかに寝ろ!」
 これ以上いらんことを口走るつもりなら永眠させるぞこの野郎。
 俺は毛布を古泉に押し付けて、枕をばんばん叩いた。
 ベッドから降り、はだけていた服を整える背中に声がかかった。
「……あなたは?」
「俺は帰るよ」
 その言葉はすんなり俺の中から出てきて俺を驚かせた。
 うん、でも、そうだな。もう大丈夫だ。
「そう……ですか」
 なんで声ががっかりしてるんだよ、お前が帰れって言ったんだろ。
「そうですけど……」
 古泉は目に見えてしょぼくれる。俺は溜息をついた。やれやれ、しょうがないな。
「……お前が眠るまでは、いてやってもいい」
 いてやってもいいとは言ったが手を繋ぐとは誰も言っていない。
 なのに古泉は目を細めて、毛布から出た手で俺の手を握ってきた。調子に乗りすぎだ。
「ありがとうございます」
 頬を染めるなこっちまで照れる。いいから早く寝ろって。
 俺の願いが天に届いたのか、すぐに微かな寝息が聞こえだした。まあ二日徹夜じゃ無理もない。握られた指の力が弱くなる。
 ありがとうはこっちのセリフだバカ。
 俺は眠る古泉に顔を近づけた。
「お前が好きだよ」
 一瞬だけ古泉の寝息が途切れた気がしたが、気のせいだろうと思うことにする。
 繋いだ手を離し、俺は立ち上がった。