俺は間違ったことはやっていないはずだ。
 胸を張って言えるとも。
 戦場において、大局を見るのは確かに大事だろう。
 だが、そのために部下を切り捨てる……見殺しにする、なんてことは俺には出来ない。
 命令違反をやらかして呼び出された上司の部屋で、俺はきっぱりとそう答えた。
「それがあなたの言い分だと? ご自分のされたことをわかっておいでですか。下の人間などいくらでも替えのきく駒のようなもの、そんなもののために、重要な役職についている自らを危険に晒すなど、愚の骨頂です。人間としては正しいのかもしれませんが、軍人としては失格ですよ」
 ああ、軍人としては、お前の言っていることのほうが正しいんだろうさ。
 でもな、俺は自分の考えを曲げる気はない。
 これから先も、ずっとだ。
 言い切った俺に、古泉は微笑んでゆっくりと椅子から立ち上がった。
「上官に逆らうとはいい度胸ですね。どうしてさしあげましょうか」
「……処分は覚悟してる」
「その言葉、偽りはありませんね?」
 頷いた俺は、なにもわかっちゃいなかった。
 謹慎程度じゃすまないだろうな、営倉に入れられるか、どこか前線に飛ばされるか、はたまた降格か。
 そういう覚悟があると言ったことに嘘はない。
 だが、古泉の目が昏く光り、ざわりと室内の空気が一変したことに気づいたとき、俺は自分の考えの甘さを思い知ることになった。
 伊達に死線を潜り抜けてきちゃいない、こういう変化には敏感なんだ。
 なんだ、これは。
 古泉の背後からしゅるしゅると、まるで蛇のように辺りを這い、蔓植物のように生え出てくるそれらを目にし、俺は息を呑んだ。
 先端から青白い電流の火花を散らした機械のコードが、意思を持った生き物のように蠢く。古泉に従っているのか?
「な……」
「駒のためにご自分の命を投げ出せるあなたなら、身体を投げ出すことにも躊躇いはないですよね」
 コードを伴い、古泉がゆったりとした足取りで近づいてくる。
「怖がらなくても大丈夫ですよ。淫乱なあなたのことですから、きっとすぐに気持ちよくなれます」
 バチ、と耳元で音がした。
「さあ、存分に嬲ってさしあげましょう」