前触れもなくいきなり部屋に突撃してくる妹と鍵のかからない自室を持った身では落ち着いて抜くこともできない。
であるからして、俺の場合は家族が出払って家にいないときや完全に寝静まった夜を見計らって、横断歩道を渡る集団下校の小学生のように念入りに安全を確認してからたまに処理するという方法をとっていたのだが、もともと性に対しての欲求が薄いたちなのか――――青少年にあるまじき淡白さかもしれん――――実のところ俺にとって自慰はそうさしたる重要事項でもなく、できないならできないで、そう必死になってやるほどのことではなかった、んだよな。
溜まったら抜いとくか、そんくらいのもんだ。
それが。それが、だよ。
どんな確変が起こったのやら、驚くことに、俺は今、この妹の不在時を幸いと、笑っちまうくらい必死になってオナっている。
余裕なんかかけらもない。
だって、どうしても我慢できなかったんだ。
ベッドの中で身体を猫のように丸め、はぁはぁと荒い息を吐きながら、足と足の間に手を差し込み、勃ちあがったそれをゆっくり上下に扱く。
先走りを全体にまぶすようにぬるぬると手のひらを動かし、人差し指をぐりぐりと亀頭の先っぽに押し当てて溢れる体液を塗りこめる。
「んっ……ぁ、……あ、あ、あっ」
でもって思い浮かべているおかずが古泉だってんだから救いようがないね、いっぺん死んできたほうがいいかもしれん。
しかしながらこの状況で死ぬと末代まで語り継がれる恥を家族を始め警察や世間にも晒すことになるのでやはり生きるべきか、でも生き恥と言う言葉も世の中には存在するし、まさにto
be or not to beである。
「ふっ……く、」
あーやばい、気持ちいい。手の中でちゅくちゅくと音を立てながら育っていく熱い肉。
「こ、……いず、み」
試しに呼んでみると、明らかに身体の熱もそこの質量も増したのがわかって己の単純さに呆れ返るったらねえな。
古泉、古泉、古泉、こいずみ……頭の中で繰り返しているとなんだかだんだん呪詛めいて、熱と言うより恨みがこもってくるような気がする。
それも当然かもしれん、なんたって俺がこんなに盛りのついた動物みたいになっちまってんのはひとえに古泉のせいだからな。
そうだ、あいつのせいだ。あいつの声が、舌が、手が、指が無駄にえろいのがいけない。
そのえろい手練手管でもって全力で俺の身体を陥落にかかるのだから、それまでつたない自慰しか知らなかった俺がひとたまりもなく攻略されてしまったのも仕方のないことで、他人と身体を繋げることの気持ちよさを、男のくせに受身で知ってしまった俺は、その強烈な快感を忘れられずに反芻したり、普通の自慰がなんとなく物足りなく感じるようになり、それでこんなことまで……ほら、やっぱり古泉のせいだろ。
「ん、んんっ、あ、っは、……っ!」
ひく、と呼吸をするように後孔が収縮したのがわかって、自分の身体の浅ましさに絶望した。
後ろが寂しいとか、太いもので埋めて欲しいとかマジ終わってる。
「ん……」
垂れた先走りを指先で掬い取って、そのまま塗りこめるように穴の周りをなぞって、ひくひく反応するそこに、もう俺の身体はいったいどうしちまったのかと!
開発、という言葉が頭をよぎったが、即座に気づかなかったふりでなかったことにする。
人差し指をそっと押し込んでみるとわずかな抵抗こそあったもののあっさりと沈み、期待感に心臓がばくばくとうるさく鳴り出――――いや別に期待はしてねえよ?
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