α-10
放課後に古泉とキャッチボールをして、ヤスミにみくるフォルダを発見されて、家に帰ってきたら何故か俺の部屋にそのヤスミがいて、しかもよくわからんままにさっさと去っていった。
何がしたかったんだあいつは。
シャミセンも妹も出ていき一人になった部屋で、俺は腕組みして首をかしげる。
……やはり報告しておくべきだろうか。
「ううん……」
もう随分前のことのような気がするが実際には数日前でしかない、佐々木・九曜・橘京子と遭遇した新年度第一回不思議探索ツアーの日の夜にそうしたように、携帯を取って古泉に電話をかけた。
「……はい」
「……俺だけど」
「そろそろかかってくるころかと思っていました」
いつかどこかで聞いたようなセリフだな。
「というのは冗談で、実は僕からかけようかと迷っていたところだったんです。なんだかあなたと話したくなって」
いつもならばばぁか、とでも返すべきところだったが、実を言うと俺も似たようなものだったのでできなかった。
ヤスミのことを報告するのは八割がた口実で、本当はただ古泉と話したくなったのだ。
そもそも、確かにヤスミには謎が多いが、それが俺や俺たちにとって悪い方向に転ぶかといったらそうは思えない。
ヤスミは九曜や橘やあのいけすかない未来人野郎のようなバックボーンは何も持っていない純粋な個人だと、古泉のお墨付きもすでにもらっているしな。
あの小さな可愛い小動物のような後輩がどんな目的を持って俺の家に来たのだとしても、心配するほどのことではない気がする。
だから、そう、相談がしたかったわけじゃない。
それよりももっと切羽詰まった、衝動のようなもの。
俺を突き動かし、古泉に電話をかけさせたのはそれだった。
「なあ、これから会えないか?」
「構いませんよ。僕も、できれば顔を見たいなと思っていました」
「……ああ。んじゃあ、俺んちこれるか」
「了解です。飛んでいきますね」
――――語尾にハートマークを付けるな。
まさか本当に飛んできたわけではないだろうが、古泉はそれからすぐにやってきた。
「あなたからお誘いいただけるのは珍しいですから。……しかも一日に二回とは」
古泉の言葉で、ああそうか、と腑に落ちた。
キャッチボールのときの感覚に似ているのだ。なぜかそうしなければならないような気がした、という、あの不思議な感覚に。
もしかしてこれも定められた規定事項ってやつなのか?
だが、俺の恋愛感情まで、誰かに操られているとは思いたくないな。古泉に会いたいと思ったのは俺の意思だ。
部屋に通すと、古泉はごく自然に俺のベッドに座り、俺もごく自然に隣に座った。横を向くと目があって、ごくごく自然に唇が重なる。
「……」
ぱち、と至近距離のまつげ。規定事項なんて関係ねえ、したいからするのだ。
古泉がじっと俺を見つめながら言う。
「いいんですか。ここはご自宅ですけど」
「あー、ま、大丈夫なんじゃねえの。妹は母さんの夕飯の買い出しについてくつってたし」
少なくとも三十分くらいは確実に帰ってこないだろうよ。
答えて、古泉の肩に額を押し付けた。ふわんと古泉の匂いがする。
「本当にどうしたんです? 今日は随分積極的なんですね……」
「俺らしくない、か?」
顔をあげて、古泉を見上げた。
「こういう俺は嫌なのか? 俺がお前と……その、したいと思ったら、変かよ」
古泉の制服を掴んだ両手に、ぎゅう、と力がこもる。
自分でも柄ではないとわかっちゃいるんだ。でも、キャラとかどうでもいいと思えるくらい、欲求が上回ってるんだよ。
恋愛感情ってやつは本当に恐ろしい。
「ん」
口を押し付けるようにキスして、古泉の太ももをまたぐように乗りあげた。首とネクタイの間に指を差し込んで、ネクタイを緩める。
「したい」
古泉が目を見開いた。おお、レアな顔だな。
もっと見たくなって、肩に体重をかけてそのままベッドに押し倒した。
古泉とあー、その、せっ……くすしたのは、今までに二回だ。付き合い始めたのは春休みからでつまりまだ一月ほどなのだが、これをもう二回とみるかまだ二回とみるか、誰かと付き合うという行為が初めての俺には比べる対象がないのでわからん。しかし十六歳高校二年生男子という俺たちのステータスを考えた場合、あれだよ。猿にも等しいと揶揄されるくらいにはその手の性的なことで頭がいっぱいのはずだ。谷口なんかを見てるとよくわかる。
だから何が言いたいのかというと、もうちょっとがっついてもいい気がするんだ。
俺は見下ろした古泉に向かって言った。
「なあ、……しようぜ」
俺の部屋にはコンドームなんてものはなかった。
好奇心旺盛かつプライバシーの意味を辞書で引いたことがないとしか思えない我が妹がしょっちゅうハサミやらノリやらホチキスやらを借りに来てはついでにあちこち物色していくので、そんな危険なものが置けるわけはないのである。おかげで俺はエロ本をベッドの下に隠すというのをしたことがない。もとから持ち込んでないからな(持っていない、ではなく持ち込んでない、なのはまあ、察してくれ)。
もちろん潤滑剤もないわけだが、そちらはハンドクリームで代用する。
「んっ……」
古泉の指が俺の中にクリームを塗りこめていく。
古泉の手は俺のケツの方に回されており、俺は膝立ちになって、古泉の肩に手を置いて身体を支えていた。体内からぬちぬちと音がする。
「苦しくないですか……?」
「ん、っ、だいじょ……ぶ、っ、ふっ……」
口を閉じようとしても息が漏れる。
古泉は過去二回、とても丁寧に俺を抱いた。そりゃあもう丁寧すぎてなんの焦らしプレイかと思ったほどだ。
優しくしますからと言った言葉に嘘はなかったが、優しさを通り越していっそ鬼畜だった。命の危険を感じたことは何度かある俺だが(朝倉に襲われたときとか朝倉に刺されたときとかあとあの……あれ、あれはいつだったっけ?)、気持ちよすぎて死ぬかと思ったのはあれが初めてだ。
「も、い、から、……入れるぞ」
この調子で延々弄られていたらまたあのときのようになりかねん。時間もそんなにないんだ、さっさとしてくれ。
古泉がゆっくり指を抜き、それにおかしいほどぞくぞくと感じてしまう俺の身体はとっくにできあがっている。
「っぁ……」
ふる、と身体が震えるのと同時に、入口がひくついているのが自分でもわかる。
こんなにしたのはお前なんだから、責任取れよ。
「っええ、いくらでも」
古泉の声が欲に滲んで少し強く響くのが気分がいい。
古泉のものを指で掴んで、足の間に導く。位置を探って、先端の丸みを穴にぴとりと押し当てた。古泉の手がそっと背中を撫でる。
「うっ……く、」
息を吐きながらゆっくり腰を落としていく。身体を広げられていく感覚は慣れないが、奥深くまでいっぱいに満たされるこの充足感は悪くない。古泉に埋められて、古泉を感じている。
「こいずみ……」
「はい」
ここにいますよ、とでも言わんばかりの柔らかな声音に胸が詰まった。ただ名前を呼んで、答えられただけなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
古泉が右手を伸ばし、俺の頬に手のひらを添えた。
「……かわいい顔、してる。もっと見せて?」
酷い顔の間違いじゃないかと思ったが、あいにくと反論できるほどの余裕がない。色んな意味でいっぱいいっぱいだ。
さて、入ってるわけだが、ここからどうしよう。
おそらく動くべきなんだろうが、どういうわけか身体に力がこめられない。古泉を締め上げている内側が一呼吸ごとに熱くなってくる気がする。
「ん……っ」
「大丈夫ですか? 腰、持ち上げられます……?」
そんな風に気づかうくらいなら前に触るのをやめろ。やめろったら、やめ、あ、やばいってそれ、
「あうっ、ひっ……ああっ」
持ち上げるどころかへたりこんだせいで体重がかかり、より深いところまで犯される。衝撃に耐えられず、脳を焼かれた。
「は……っ、あ、あ、あっ……」
やっぱり少々無茶だったかもしれん。古泉の身体に必死にしがみついて、おかしくなりそうな自分を繋ぎとめる。
「すごい、いま、なかが、ぎゅうって……」
古泉の声がうっとりしているというか、やたらとえろく聞こえる。つうか感想はやめろ。
「だって、気持ちいいんですもん」
もんもやめろ。
「でも、このままだと流石に辛いですね。……動いてもだいじょうぶですか?」
溶けた生クリームみたいな、でろでろに甘ったるい幸せそうな笑みで、興奮も丸出しで、俺を欲しくてたまらないっていう顔をしている。その事実が何よりも俺を煽った。
古泉が控えめに腰を揺すりあげてくる。
「あっ、く……っ」
「あなたも、気持ちよくなって」
欲しくてたまらないのは俺もだということが完全にばれている。
ああそうだよ、だからもっと寄越しやがれ。俺は欲張りだからな、もっともっともっと、いろんなお前が欲しいんだ。
「こいずみ、」
俺は古泉の首に腕を回して、噛みつくように口づけた。
直後、スイッチが入ったように激しくなった突き上げにめちゃくちゃに翻弄されることとなる。
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