☆ホタルの住む森30000Hits REQUEST SPECIAL STORY☆〜Request from 部長さま〜
Step5 クリスマスの誓い 5
「おまえに最後の試練をやる。」
聖さんにそういわれた時は今度は何を言われるんだろうと僅かな不安を抱えつつも顔に出す事も無く冷静に構えていたと思う。
自分でも思ったより落ち着いて聖さんに聞かれたことに答えていたと思う。
あの時以外は。
『おまえさ聖良にまだ手を出していないんだろう?』
聖さんにそういわれた時は流石にポーカーフェイスが崩れてしまった。
ちょうど流し込んだウィスキーが、突然の動揺に道を誤り気管へと入り込む。
途端に焼けるような熱さが喉を襲い咳が止まらなくなった。
実は今夜そうなればいいと思ってました。なんて、死んでもいえないよな。
俺が動揺したことに気を良くしたのか(人が悪い)ますます突っ込んだ話を聞いてくる。
聖良のいないときに聖良の事を何処まで話していいのか悩む所だが…
俺は聖良への気持ちを素直に聖さんに告げた。少しでも俺の気持ちが本気であると分かって欲しかったからもあるが、自分の中の気持ちを整理するためでもあった。
自分が求める道を再確認して、聖良と進むべき道を真っ直ぐに見つめ直す。
聖さんに認めてもらって、聖良と堂々と付き合っていきたい。
全てを認めてもらった上で、聖良の心も身体も、その全てを俺のものにしたいと思う。
「今夜は泊まっていけ、聖良の部屋で寝るんだぞ。」
聖さんの言葉に現実に引き戻される。今なんて言ったんだ?
俺を弟として認めるって。今夜聖良と二人で過ごして手を出さずにいられたら聖良を俺に任せるって言ったのか?
このチャンスを逃す手はない。
「俺はおまえが結構気に入ったよ。だから一回だけチャンスをやる。がんばってみろよ。」
聖さんの言葉に応えて、聖良との未来も手に入れてみせる。
「……はい。分かりました。やります。」
だけど…
この後聖さんがポツリと漏らした言葉で俺は一抹の不安を覚えなければならなかった。
『ああ、言っとくけど、聖良は寝相が悪いからな。胸がはだけたりってのは覚悟しておけよ。
かなりキツイ夜になるだろうから、先にご愁傷様って言っておいてやる。
せいぜい強靭な理性っつうのをみせてくれよ。明日の朝を楽しみにしているぜ。』
ご愁傷様ってなんだ?…聖良の寝相ってそんなに悪いのか?
不安が胸をよぎる…。
もしかしたら俺はとんでもない約束をしてしまったのかもしれない。
――今夜は長い夜になりそうだな…。
〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜
食事の後片付けをしている時に聖さんが聖良に言った。
「聖良。今夜龍也が泊まっていくからな。おまえ襲われないように気を付けろよ。」
その言葉に思わず苦笑する。
誰が襲うように仕向けてるんだよ。
「……お兄ちゃんったら、龍也先輩はそんなことしないもん。」
確信めいた聖良の言葉に思わず声を失ってしまう。
そう言われると俺が何のためにがんばっているのかって意味が半減してしまうような気がするんだが。
「…ぇ…あの、聖良…。」
思わず声まで裏返ってしまう。聖良分かってるのか?俺はおまえが欲しいんだけどなぁ。
「まったくもう!お兄ちゃんがそんな事言うなんて信じらんない!龍也先輩は紳士なんだからねっ。あたしのこと大事にしてくれているんだから。」
大事にはしているよ。でも何時までも紳士ではいたくないんだけどな。
「お兄ちゃんのバカ!だいっきらい!!」
ありゃ…聖さん相当凹んだな今の言葉で。
怒りに任せてテーブルの上にあった聖さんのウィスキーを一気に煽ると派手な音を立ててドアを閉めて出て行く聖良。
あいつ…今聖さんのウィスキーをストレートで一気飲みして出て行ったよな。大丈夫なんだろうか。部屋で倒れてるんじゃないか?
聖さんの頭に聖良の大嫌いって言葉が石化して刺さっているように見えるのは俺の幻覚だろうか。
めり込みまくっている聖さんも気になるが、酒を煽って出て行った聖良が倒れているんじゃないかってそっちのほうがすげぇ気になる。
ごめんな聖さん。ちょっと聖良の様子見てくるから…。
俺はそっと部屋を抜け出し、聖良の元へと向かった。
自分の部屋に入ると後ろ手にドアを閉めてその場に座り込む。
悔しくて無性に涙が溢れてきた。
お兄ちゃんがあんなこと言うなんて…龍也先輩に失礼じゃない。
でも、お兄ちゃんがそう言うって事は世間的には普通付き合っていたらそんな関係だと思われてしまうって事なんだろうか。
あたし達ってやっぱりおかしいの?
キスだけじゃダメなのかな?
キスだけじゃ想いあっていることにならないの?
コンコンコン…。
不意に聞こえてきたノックの音。お兄ちゃんだろうか…。
「聖良…俺だ。大丈夫か?」
龍也先輩の声に慌ててドアを開ける。
「泣いていたのか?そんなに怒らなくてもいいじゃないか。聖さんすっげぇ凹んでいたぞ。」
「だって、先輩に失礼な事ばっかり言って。」
「あの襲うどうこうって言う奴か?気にしてないし…っていうか。俺だって男だからな。本当は聖良のこと襲いたくてしょうがないよ。聖良だってわかっているんだろう?」
「でも、先輩はちゃんとあたしの気持ちが整うまで待ってくれています。」
「そりゃ待つよ。惚れた女を抱くのに同意じゃないなんて絶対にイヤだからな。でも、俺を紳士だなんて思わないほうがいいぞ。俺だっていつも聖良を欲しいと思ってる。全然紳士なんかじゃないんだ。」
聖良がまだ何か言いたそうにしているが俺は構わず続けた。
「聖良は俺にキスしたいと思う?」
俺の問いに素直に頷く聖良。
「じゃあ、俺を抱きしめたいと思う?」
大きくコクコクと頷く聖良の瞳は潤んでいて、なんとも色っぽい表情をして見上げてくる。
これは今夜の試練は本当に地獄になりそうだと一抹の不安を感じずにはいられない。
「それと同じで俺はそれ以上を聖良としたいと思うんだ。この意味が分かる?」
「うん…わかります。」
「聖良は俺にそんな気持ちになった事はまだ無いのか?」
「ン…よくわからないけど…でもキスとか抱きしめて欲しいとかそう言うのはいつも思いますよ。」
「そうか…随分進歩したじゃないか。教育の甲斐があったな。」
クスクス笑いながら言うと、聖良は照れて真っ赤になってくる。
恥ずかしさからなのか酒のせいなのか、少し心配になってしまう。
「聖良、さっき聖さんのウィスキーを一気に飲んだだろう?大丈夫なのか?」
「え?あ、あれお酒だったんですか?道理で飲みにくいと思った。」
「頬が熱いぞ。大丈夫なのか?」
「うん…そう言えばさっきからふらふらすると思っていたんですよね。そっかお酒だったんだ。あたし酔うとまずいんですよね。」
…聖さんのご愁傷様って言う言葉が胸を過ぎりゾッとする。
聖良、寝相だけじゃなくて酒癖も悪いのか?
何がどうまずいのか考えを巡らしていると不意に聖良の腕が首に回された。
へ……。
チュッ……
不意に唇に触れた柔らかいもの
聖良?
チュッとかって…聖良が何の前触れも無く俺に抱きついてキスするなんてありえねぇだろ?
これって夢か?
前にも聖良から迫ってくる夢って見たことあったなそう言えば…。
あの時は俺、すげぇ冷静で夢だからいいかなんて思っていたんだっけ。
今のも夢なら問題は無いんだが…。
「龍也せんぱぁい♪だあいすきvv」
そう言って俺の首に抱きついてキスを繰り返してくる聖良はやっぱり現実で…。
どう考えてもこのままの状態は俺の理性にとってはまずい状態で…。
聖良ってもしかして、酒を飲むとキス魔になるのか?
マジかよ。朝までこの状態で迫られたら俺絶対理性なくす自信大ありなんだけど。
聖さんの言った地獄ってこのことかよ。ひでぇじゃん。こんな生殺し。チラリと時計を見るとまだ、10時過ぎ…。
朝までって事はせめてみんなが起き出す時間って事だろうな。
8時としても少なくとも後10時間か…。
やべぇ…こんな聖良と朝まで我慢なんて俺、本当に出来るのかよ
「ちょっ…待て聖良。そんなことされたら俺おまえを襲ってしまうじゃねぇかよ。」
必死で理性を繋ぎ止め、聖良を正気にさせようとする。
「ふふっ。いいですよ。今夜サンタさんが勇気をくれたらって思ってましたから。」
聖良…あの時とは状況が違うんだよ。
せっかくのその台詞は今度素面(シラフ)の時に頼むな
「今日は色んな事があったけど先輩の心が今まで以上にとっても近く感じられて、あたしにとって先輩はとても大切で支えてあげたい人だって思ったの。」
聖良の言葉が胸に染みて心がギュッと抱きしめられたように温かくなる。
だから…ね、龍也先輩。
あたしの持っているもの全てあなたにあげたいって思う。
心であなたを抱きしめてあげる。
身体であなたを受け止めてあげる。
あたしの持っているもの全てであなたを愛してあげたいの。
甘い甘い聖良の囁きが胸の奥底で血を流し続けている俺の傷を塞いでくれる。
「今夜はあたしが先輩をずっと抱いていてあげる。ね?ずっと傍にいるから…。」
「聖良…気持ちは嬉しいんだけど…っ!わあっ…。」
聖良は俺をいきなり引っ張るとベッドにそのまま倒れこんだ。俺抱きしめるようにしてそのまま布団をかけてくる。
「今日はあたしがお母さんになってあげるね。」
そう言って子どもを寝かしつけるように髪を弄りそっと額にキスをしてくれる。
ああ…温かいな。聖良の覗き込むような瞳が安堵をくれる。
胸の感触が頬に伝わり、やさしい鼓動が俺を意識の深いところへと引きずり込んでいく。
ずっと昔、甘い匂いのする女性にこうして胸に抱かれて安心した事を思い出す。
何もかも忘れて、母の胎内で眠っていた頃の記憶が蘇ってくる。
俺の中の暗く淀んだものを浄化するように聖良の優しい声と安らかな鼓動は俺を包み込んでくれる。
「龍也…おやすみなさい。…愛しているわ。」
聖良の声に意識が深い眠りの中に落ちていくのを感じる。
これはいつも見る寒く心細い暗闇の悪夢なんかじゃない。
光の羽で出来たベッドに包まれるような幸福感が俺を包んでいった。
その夜、俺は優しい陽だまりに包まれて甘い香りのする女性に抱きしめられる夢を見た。
母さん…
思い出したよ。
あんたが俺を愛してくれていた事。
翌朝目が覚めた時、聖良は俺の胸に頭を乗せて俺を抱きしめるように眠っていた。
昨夜の事を聖良は覚えているんだろうか。
聖良の額にそっとキスをすると静かに部屋を出て階下へと降りる。
リビングには聖さんが昨夜から一睡もしていないような顔をして起きていた。
「聖さん…寝ていないんですか?」
「おお、龍也。どうだった地獄の一夜は。」
「クスッ…幸せでしたよ。凄く良く眠れたし。」
「幸せっておまえまさか…。」
聖さんの表情に誤解させてしまった事を悟り慌てて否定をする。
「何も無いですよ。聖良が酔っ払っていきなり俺にキスしてきたときはどうしようかと思ったけど、そのままベッドに引き込まれて…。」
「…っ、なにぃ!おまえ、我慢できなかったのか?」
「いや、我慢する間もなく寝てしまいました。」
「……へ?」
「ってことで、俺はちゃんと約束を守りましたから、聖良はもう俺のものなんでしょう?」
「おまえ、本当に我慢できたのか?」
「もちろんですよ。俺の強靭な理性を見損なわないで下さい。」
…なーんて、本当はかなりやばかったけど。
「おはようございます…龍也先輩早いですね。お兄ちゃんも珍しい。随分早く起きているのね。」
「聖良今、聖さんに聖良と付き合う事正式にOK貰ったんだ。」
「本当に?お兄ちゃん、ありがとう。」
パアッと満面の笑みで花が咲いたように笑う聖良。
この笑顔が見たい為に俺も聖さんもがんばれたりするんだよな。
「聖良、昨夜俺に言った言葉覚えてる?」
途端に頬を染め、耳まで赤くなる聖良。
「じゃあ、今度はお酒の入っていない時にあの台詞を言ってくれよな。」
「えと…どの台詞でしょうか?」
「ん?全部。サンタさんが〜って所からあたしの全てで…って所まで。全部。」
「何でそんなにしっかり覚えてるんですか?あたしでさえ良く覚えていないのに。」
「絶対に忘れないよあの台詞は…一生ね。だから今度はお酒の力無しでちゃんと言ってくれよな。」
ニコッと笑ってそう言ってから聖良を抱きしめて聖さんに視線を投げかける。
「聖さん。聖良を貰います。絶対に大切にするって誓います。」
驚いた顔で見上げてくる聖良と、苦笑しながら見ている聖さん。
「聖良。もう我慢もいい加減限界だから。今度は絶対に止めないからね」
その存在を確かめるように柔らかい髪にそっとキスを一つ落とす。
「そろそろ覚悟決めてくれよ?それから…。」
思いを伝えるように額にキスを一つ
「俺がおまえを護るから…聖良は俺の傍にいて支えてくれるか?」
心を求めるように頬にキスを一つ
「うん…誓います。ずっと傍にいる。ずっと龍也先輩を支えていく」
誓いを立てるように唇にキスを一つ…
「聖良…ずっとおまえを護って愛していくから。聖さんの前で誓うよ。絶対に大切にするから」
窓から朝日が差し込んで、光が俺達の進むべき道を照らしてくれる。
聖良、ずっと一緒に歩いていこうな。
俺に笑顔と涙を教えてくれた聖良。
どんな時も、どんな事があってもその笑顔だけは護っていくから…。
「あたしそう言えば先輩にまだクリスマスプレゼント渡して無かったですね。取ってきます。」
そう言って階段を駆け上がっていく聖良の後姿を見つめながらプレゼントはとっくに貰っているのになと心で呟く。
聖良、おまえは俺に母さんに愛されていた記憶を思い出させてくれた。
俺が忘れてしまっていた遠い遠い幸せだった頃の記憶を…。
母さんあんたを恨んでいたけど今は感謝しているよ。
あんたが俺を産んでくれたから俺は聖良に会うことが出来た。
あんたに感謝する日が来るなんて考えてみた事も無かったけれど
聖良が幸せな頃を思い出させてくれた今日だからこそ、素直にあんたに礼を言うよ。
俺を産んでくれてありがとう。
+++ Fin +++
2005/12/24
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