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Step6 Un? Happy New Year〜番外編 龍也君のお年玉〜




1月4日早朝

俺達は聖さんの見送りのために空港まで来ていた。

大きなスーツケースを持った聖さんがタクシーを降りて空港に入ってくるのを聖良が見つけて俺に教えてくれるのと聖さんが聖良を見つけて目を丸くするのはほぼ同時だった。

聖さんは俺達が見送りに来るとは思ってもいなかったみたいだ。

でも俺には聖さんにどうしてももう一度会わなければならない理由があった。

大晦日に初詣に行く際に無理矢理渡されたお年玉の事だ。

ホテル代の足しにとか何とか言って無理矢理押付けられたけれど使わなかったら返すという約束で預かったものだ。
聖良とホテルに行く事は無かったんだし聖さんがいらないといっても無理矢理返すつもりでいた。


「これはおまえにやったんだぞ。お年玉だって言っただろうが」

案の定俺の思ったとおりの返事をする聖さん。
でも受け取る理由が無いんだよ。俺は身内でもないし聖さんにお年玉を貰うような関係ではない。
ただ聖良の彼氏と言うだけでお年玉を受け取るわけにはいかない。

「聖さんは『本当に我慢できて使わなかったらそのときは受け取ってやる』って言ったじゃないですか」

「あぁ?そんな事言ったっけ?覚えてねぇなあ」

あくまでも受け取らないつもりらしい。

「お年玉なんて貰う理由は無いですよ。俺は預かりますって言ったんです。使わなかったんですから返します」

「ほお〜〜。お兄様の好意を受け取れない訳だこの弟は」

じろりと睨む聖さんに一瞬言葉を失ってしまった。


―― この弟は…


聖さんは皮肉ではなく愛情を込めてそう言った。それがわかったから俺には何も言えなくなってしまったんだ。

「いいか、龍也。俺はおまえの兄貴なんだ。俺がおまえを弟だって認めた時からな。おまえがどう思っていても構わんが俺は兄貴としてに弟にしてやりたい事があるんだよ」

「聖さん…」

「干渉するつもりはねぇよ。でもおまえには俺っていう相談できる兄貴がいる事を忘れんな。いいな」

聖さんは余り身長の変わらない俺の頭をくしゃっとかき回すように撫でた。


とても温かい父親のような手で…。


「でっかい弟だな。これ以上でかくなるなよ。見下ろされるのは好きじゃないんだ。こうして頭を撫でてやる事もできなくなるじゃないか」

「子どもじゃないんですから撫でて欲しいわけじゃないですよ」

聖さんの手の温かさに胸がいっぱいになって涙が滲みそうになったなんて知られたくなくてわざとぶっきらぼうに言ったけど、いつものポーカーフェイスのようにはいかなかった様だ。

何もかもわかっているような聖さんの瞳が優しくて…。

「あははっ。そうか、でも俺にしたらおまえはもう身内だ。受け取る理由がないなんて事は言うな」

その言葉の温かさがうれしくて…。

「聖さん…俺…」

「お年玉が嫌なら餞別だと思って取っておけ。聖良から聞いたけどハワイ旅行が当たったんだって?」

「あ…そうだった。忘れてました」

「そん時に土産でも買ってきてくれればいいさ。それなら受け取ってくれるんだろう?」

サラサラのストレートの髪をかき上げ聖良と同じ色の瞳で爽やかに笑う聖さんにこれ以上抵抗する事なんてできなかった。


「ありがとう…兄さん」


自然と零れた俺の心からの感謝の言葉だった。

聖さんは一瞬驚いたような顔をしてそれから満面の笑みで笑うと、フェイスロックをかけるように俺の頭を引き寄せて髪をクシャクシャに掻き回した。※顔に自分の腕を押し付けて絞め上げるプロレス技

「うわ!やめっ…何するんですかっ」

「か〜いいなぁ。龍也」

んな事言われてもうれしくないし…。

聖さんの腕が絡みつく首を外そうと抵抗を試みた時。


「龍也になら兄さんって呼ばれるのも悪くないよな」


不意に響いた小さな呟きは俺の胸を熱くしてこみ上げてくるものを止められなかった。
不覚にも滲んでくる熱いものを押し込めようとギュッと瞳を閉じる。
俺には家族なんてものは一生無縁かも知れないと思っていたのに、今はこんなにも温かい腕が俺を包み込んでくれる。


「兄さ…ん」


「…イイコだ。素直になれ。泣く事は必要なときだってある。本当の強さってのは自分が弱い事を認めて初めて得られるもんだっておまえも分かったんだろ?」

「うん。…聖良が教えてくれた」

「…そっか」

聖さんはもうそれ以上何も言わなかった。

ジタバタする俺を押さえつけ髪を掻き回している聖さんの姿は空港を行き交う誰が見ても仲の良い兄弟に見えたかもしれない。

ただ戯れるこんな何でもない事が幸せだなんて…。



ありがとう…兄さん





聖さんの乗った飛行機が離陸するのを聖良と二人で見送ってから手を繋いで空港を後にする。


「お兄ちゃんったらあんな所でプロレス技なんかかけて…みんな注目していましたよ」

「あぁ、アレか…。俺の髪ボサボサにしてくれてさ。っとに困った兄さんだな」

ふたりで今ごろくしゃみをしているかも知れない聖さんを思い出してクスクス笑った。

「ふふっ。お兄ちゃん龍也先輩が気に入ってるから。昨夜も食事が終わったら先輩のところへ帰ってやれって言い出してあたしもママもビックリしたんですよ」

「聖さんが俺のところに帰るように言ったのか?」

「うん…ママも驚いていたけれどお兄ちゃんが話をつけてくれたみたい。学校が始まると毎日は無理だけど…」

「聖良…それって…」

「週末とか会える日はできるだけあの部屋で過ごしたいと思うんですけど…いいですか?」

繋いだ手を引き寄せて胸に閉じ込めるとギュッと抱きしめて頬にキスをする。

「離せなくなりそうで怖いな」

「あたしは壊されそうで怖いんですけど…。もうこの間みたいのは止めてくださいね」

頬を染めて見上げてくる聖良の姿に、朝も昼もなく抱き続けた事を思い出だして苦笑する。

「約束できる自信は無いな。なんせ聖良は麻薬みたいだもんな。抱いても抱いても欲しくなるよ」

「・・・やっ!何を言ってるんですか」

真っ赤になって腕から逃げようとする聖良の動きを封じるように抱きしめてキスをする。

「ほら。もう禁断症状が出てきたよ…。キスだけで部屋に帰るまでもつかな?」

冗談めかして言う俺に困った顔をする聖良を楽しみながらキスを深くする。
本当は冗談なんかじゃなくて今すぐにここで抱きたいなんていったら聖良はどんな顔をするんだろうな。
そんなことを考えながら唇を離すと聖良が少し怒った調子で真っ赤になって呟いた。

「キス以上は絶対に外でしないで下さいよ」

お見通しといわんばかりの聖良の言葉に、去年とは明らかに変わった彼女を見つけて笑いが込み上げてくる。
俺の腕の中でどんどん変わっていく聖良。


どんな色に染まっていくんだろう。


「なあ、聖良は何色が好き?」

「え?ん〜〜そうだなぁ。ピンクとか紫とか好きですね。あと白が大好きです」


…なら今日はピンクに染まってもらおうかな。





俺の思いも知らず『先輩は何色が好きですか?』と俺を覗き込むように聞いてくる聖良に『当ててみて』と少し意地悪な笑みを向けてキスをする。

俺が好きなのは俺に抱かれている時の聖良の肌の色だよ。なんて…聖良が聞いたら怒りそうな言葉は胸に閉まっておいたほうが良さそうだな。




なんだか部屋まで我慢できる自信が無くなってきたよ。

聖さんのお年玉…使っちまおうかなぁ。









+++ Fin +++


2006/01/08

【Un? Happy New Year】の番外編です。龍也は部屋まで我慢できたんでしょうか。それともお年玉使っちゃったんでしょうかね?どちらにしても聖良は…絶対に眠れなかったと思いますよ(爆)龍也君の理性復帰には少々時間がかかりそうです。
こんな龍也ですが見捨てずにこれからも応援してやってくださいね。
では、次回は本編でお会いしましょう。

朝美音柊花



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