『大人の為のお題』より【ミステリーツアー】
** 星に願いを 1 **
※この作品は『Love Step』本編を読んでから読まれることをお勧めします。
梅雨入り前の湿り気をおびた空気が上昇した気温にねっとりと纏わりつく中、バイクのエンジン音ととも切り裂く風が僅かに汗ばんだ身体の熱を奪い取っていく。
経験した事の無いスピード感で緑の美しい山道を駆け上がるその感覚に、心臓はスピード以上にバクバクと早鐘を打っている。
カーブでバイクの車体が傾ぐ度に、龍也先輩の背中にギュッと縋りつき、小さく悲鳴を上げてしまう自分が情けないけれど…。
自分の今ある状況がまだ把握しきれていないのだからしょうがないよね?
あたし…何でこんな山の中にバイクで来ているんだろう?
ううん、それ以前に何で龍也先輩がバイクであたしを連れ出したりしているんだろう?
大体龍也先輩がバイクを持っている事も、免許を持っている事も知らなかったんだから。
「せんぱぁい…まだ着かないんですかぁ?怖いんですけどぉ〜〜。」
半泣きになりながらエンジンに負けないように大きな声で叫んでみると、返事の代わりに先輩の腰に回して硬く握り締めた両手にそっと手を添えてくれた。
触れる部分から先輩が『大丈夫。心配するな。』と言っているのが伝わってきて何となく心が安堵したけれど…。良く考えたらハンドルから手を離していませんか?
大丈夫なの?ちょっとっ!龍也先輩???
プチパニックになっているあたしを余所に、龍也先輩は上機嫌でアクセルを吹かした。
うわあぁんっ!怖いよぉ。龍也先輩お願いだからスピードは控えてくださいってばぁ!
何故あたし達が今バイクで走っているかと言うと…
それはいつもの事ながら龍也先輩の半強制的な一言から始まったの。
お昼休み、あたしはいつもの如く、龍也先輩のお弁当を持って生徒会室のドアを開けた…と、同時に耳に飛び込んできた信じられない一言。
「聖良。今からツーリングに行くから。明日は学校サボれよ。」
突然の言葉はあたしから一切の思考能力を奪い去った。
今から?
ツーリング?
明日はサボれ?
きっと聞き間違いに違いないわ。だって、サボれって…生徒会長のお言葉ですか?
龍也先輩は頭が良いから平気かもしれないけれど、あたしは時々彼に学校を休ませられて困る事がある。
大抵は…その…余り人に言えない理由で…ちょっとベッドから起き上がれなくなったりするからなんだけど…。
まさか明日休めって事は今夜泊まって行けって遠まわしに言っているのかしら?
あたし、明日はちょっと…。
あ?ちょっと待って?もしかして…。
「龍也先輩明日が何の日か知っててそう言っているんですか?」
「当たり前だろう?でなきゃ何でもない平日に無理やりサボれなんて言わねぇよ。」
クスッと笑ってあたしをふわっと抱き寄せる龍也先輩。
あたしがそうされると弱いのを知っていて、眼鏡を外してじっと見つめて来る。
こう言うときの先輩は絶対にあたしに断らせるつもりは無い。
必然的にあたしは彼の言いなりになってしまう訳で…。
「早めに出たほうが良いからな。弁当食ったら行くぞ?いいな。」
……はい?
あたしは龍也先輩の瞳に魅せられて幻聴まで聞こえるようになってしまったのでしょうか?
「え…っと、ツーリングって…サイクリングの事でしたっけ?」
「バカ!バイクに決まってんだろ?」
「バッ…バイク?バイクなんて先輩持っているんですか?…って、その前に先輩免許なんて持っていないでしょう?」
「あるよ。」
「へ…?」
「俺の父親がバイク好きでさ、俺が16になった時すぐに免許を取りに行くように勧められたんだ。俺とツーリングに行きたかったんだとさ。その夢が叶う前に病気になってあっという間に逝っちまったけどな。」
サラリと何でもない風にそう言ってみせる先輩に胸が痛くなって、厚い胸板に顔を埋めるとギュッと抱きしめた。
フワリと彼の香りに包まれて切なさや愛しさが抑えられないくらいに胸の中に広がっていく。
この人を孤独にしたくない。ずっと傍にいて支えていたい。
そう思うのはあたしの奢りだろうか。
あたしのそんな気持ちが伝わったのか、彼は小さな声で『ありがとう』と言うとチュッと額にキスをして、鮮やかに笑った。
「少し遠いけど連れて行ってやりたいところがあるんだ。聖良…明日はおまえの誕生日だろう?だからさ…平日だけどプチ旅行と行かないか?」
「連れて行きたいところ?」
「うん。暗くなる前に着きたいし時間が余り無いから今からすぐに行こう。午後の授業はフケるぞ。」
「…え?って待ってください。フケるって…冗談でしょう?今から出かけて泊まりって…本気ですか?一体どこへ行くんです?」
「秘密。
ミステリーツアーみたいでいいだろ?」
そう言ってニッコリと綺麗に笑った龍也先輩にあたしが敵うはずなんて無かった。
ミステリーツアーって…なんか違う様な気がするんですけど?
そう思いつつも、また突然熱が出た事になったらしいあたしは、龍也先輩に送ってもらって帰宅する事になった。
なんだか最近こう言うことが多いような気がするんだけど?
あたしそんなに病弱じゃないんだけどなぁ。
熱が高いみたいだから明日もたぶん休むだろうと龍也先輩がクラスメイトにちゃっかり先手を打っているのを耳にして苦笑する。
本当に抜け目が無いんだから。
さて、そんなこんなで、一旦自宅へ帰って一泊分の小さな荷物を纏めている間にバイクを取ってきた先輩にあたしは速攻で拉致されて現在に至っている。
周囲の緑がどんどん色を増し鮮やかになっているのを見ても、山の中の自然に囲まれた場所へと向かっているのがわかる。
バイクを走らせてから既に2時間余り…。
ようやく身体に直接重力がかかるような風の抵抗にも慣れたけど、やっぱり景色が物凄いスピードで遠ざかっていくのを見ていると、ドキドキが止まらなくて、あたしはかなりへばっていた。
で、さっきの『まだ着かないんですか〜?』と言う泣き言になってしまった訳だけど…。
それから程なくして、バイクは山頂付近にある少し開けた場所で停車した。
ようやく目的地へ着いたみたい。
ホッとして地面に足をつけようとしたあたしはその場所の美しさに息を飲んだ。
「わあ…っ…すごい。」
そこには落ち着いた雰囲気のログハウスがあった。周囲の新緑が両手を伸ばすように枝葉を広げ建物を包み込み護っているように見える。
この場所に立っているだけで、癒されていくのがわかる。自然に抱かれて世間の雑踏や戒めから解き放たれた気分になるのは龍也先輩も同じだと思う。
ここはきっと心を癒すために森の精霊が護ってくれている聖域なのではないかと…そう思った程その建物周辺は神聖な空気に包まれていた。
その建物は【Friend】というペンションで、内装もとても落ち着いた雰囲気のログハウスだった。高校生のあたし達が足を踏み入れるのが申し訳ないくらいシックな雰囲気で、学生が集団で来る様な場所とは違う。ゆったりと休日を過ごすための隠れ家的な大人向けのペンションだった。
龍也先輩は何度も来た事があるようで、軽くオーナー夫妻と挨拶を交わすとあたしを紹介してくれた。
このペンションは山崎一臣(かずおみ)さんと奥さんの信子さん(のぶこ)の二人で経営されている。二人ともとても気さくな方で敷居が高いと緊張しているあたしを和ませるように話し掛けてくれる。
龍也先輩もいつに無く良く話していたし、なんだか昔話のような事もちらほら聞こえてくる。
話の端々からオーナー夫妻は先輩のお父さんのお知り合いのようだった。
「先輩…こんな素敵なペンションをどうして知っていたんですか?何度も来ているみたいですね?」
「ああ、一臣さんは俺の父親が勤めていた会社の社長の息子で…。」
「お父さんの?」
「このペンションを始める事に大反対だった社長を説得したのが俺の父親だったんだよ。ついでに言うなら一臣さんと信子さんの仲を取り持ったのも…。」
「あ〜コホン!龍也、そのくらいで良いよ。その話は照れるから止めてくれ。」
一臣さんが苦笑しながら龍也先輩を制していると、ちょうど信子さんがコーヒーを持ってきてくれた。
「あら?何の話?」
「あ?いやっ、何でもないよ。」
照れ隠しのようにアハハと笑ってみせる一臣さんがおかしくて龍也先輩とあたしは同時に噴き出してしまった。
そんな様子をきょとんとした顔で見つめている信子さんは大きな瞳に長い睫毛をパチパチさせて不思議そうにあたし達を見た。彼女は30代にはとても見えない愛らしい女性で、もうすぐ2才になる小さなお子さんがいるため最近は余りペンションの表の仕事には出ていないそうだ。
今日は久しぶりに龍也先輩が来るということでお子さんをベビーシッターさんに預けているのだと言う。
子供が大好きなあたしはすぐに信子さんと打ち解けた。他にお客さんがいないのならここへ連れて来て下さいとお願いすると、じゃあ夕食の時にと気軽に約束してくれた。
ここはなんだかとても居心地がいい。
初めて来た場所なのにどこか懐かしくて、ずっと前から何度も足を運んだようにすら感じられるから不思議だ。
案内されたツインルームは思ったよりずっと広く、落ち着いたアンティーク調の家具で統一された重厚さの中にもどこか暖かな雰囲気が漂っていた。
照明やちょっとした小物にも細工がしてあり、山崎夫妻のセンスのよさが伺われる。
ずっとこの部屋で外とは違うゆったりとした時の流れを心ゆくまで過ごしていたい。
多分この部屋に、いいえ、このペンションに一度滞在した人ならば誰もがそう思うのではないかと思った。
「凄く落ち着くお部屋ですね。あたし気に入っちゃいました。」
「そう?よかった。ここは俺も父親と何度か来たけど本当にいい場所なんだ。夜になったら星が凄く綺麗だから見に行ってみないか?あぁ、確かホタルも見れるはずだ。」
「ホタル?あたしまだ今年は見ていません。」
「毎年見ているみたいな言い方だな?」
「毎年見ていますよ。あたしの誕生日には毎年パパのお墓に行くんですけど、そしたら必ずホタル現れるんです。きっとパパが会いに来てくれているんだと思っているんですよ。」
「へぇ…。じゃあ明日の晩もお父さんの墓参りに行くのか?」
「あ。はい、その予定です。だから明日の夜は…。」
「ああ、そうだな。明後日はさすがに学校を休ませるわけに行かないし家まで送るよ。」
そう言った後、何かを考え込む様に黙り込んでしまった龍也先輩に凄く違和感があって、問う様に視線を送ると、珍しく少し慌てて何でも無いと言う風に視線を逸らしながら笑ってみせる。
龍也先輩のその仕草から彼が何かを隠しているのは明白だ。
「……先輩?どうかしたんですか?」
「あ、いや…聖良がここを気に入ってくれてよかったなと思って。」
確かにそれは本当だと思う。でもあたしは瞬時に確信した。龍也先輩は何かしたくてここへ来たと言う事を。
龍也先輩は何かを決心してここへあたしを連れてきた。
もしかして…また龍也先輩のお母さんに関する事なのかもしれない。
龍也先輩はお母さんの事を考えたり話したりする時、無意識に力が入るのか手が凄く冷たくなる事に、最近気付いた。
今だってほら、指の先が白くなって色が変わっている。
あたしはベッドの淵に座る龍也先輩の傍に立つと、フワリと首に腕を巻きつけて瞳を覗きこんだ。
いつもは見詰められると目眩がするほど綺麗な瞳。
だけど今日はどこか躊躇いがちに揺らいでいる。
「龍也先輩。あたしはずっとあなただけを愛して傍にいます。一生支えて行くから…。だから一人で抱え込まないで下さいね?辛いことがあるなら相談してください。」
その言葉にハッと息を呑み、あたしを見つめ返した瞳には、彼が時々見せる迷子の幼子のような頼りない光が浮んでいた。
抱き寄せられ膝に座ると、彼の右手を取って自分の頬に当ててみた。
「やっぱり…冷たい。」
あたしの行動を不思議そうに見る龍也先輩を余所に、そっとその指先を唇に押し当てて温めるようにキスをした。
龍也先輩は瞳を閉じて、暫くされるがままにじっとしていたけれど、やがてゆっくりと目を開けてあたしを真っ直ぐに見つめた。
「聖良…俺、母親の事、調べてみようと思うんだ。」
抗えない大きな力が働いているような気がして…胸騒ぎを抑える事ができなかった。
何かが大きく動き出そうとしている。
そんな漠然とした予感があった。
オーナーの一臣さんは龍也先輩のお父さんと仲が良かったらしい。
だったらお母さんの事も何か知っているだろう。
龍也先輩はお母さんに正面から向かい合って、痛ましい過去の全てを受け入れようとしている。
それは彼にとって避けては通れない道で、いずれ必ず直面する大きな壁でもある。
あれほど憎んでいたお母さんと向き合う決心をした龍也先輩。
だとしたら…。
彼はこの旅行で何かを吹っ切る事ができるのかもしれない。
あたしにできる事は彼を支えて見守る事だけ…。
だけど、何故か胸がモヤモヤとしてスッキリしないものがある。
何故『今』なんだろう。
それがあたしの誕生日に重なったのは単なる偶然なんだろうか。
「俺の両親は籍を入れていなかったらしいんだ。」
龍也先輩はポツリと小さな声で話し始めた。
あたしは彼の右手をギュッと握ると、頭を抱きかかえ自分の胸に引き寄せた。
彼の心が波立たないように願いを込めてあたしの鼓動を彼に伝える…。
龍也先輩は、あたしの鼓動に安堵したように瞳を閉じて、静かに話し始めた。
「この間パスポートを取った時に戸籍を見て初めて知ったんだ。ビックリしたよ。
そんなこと考えた事も無かった。
突然母親が姿を消すまでは、とても仲の良い夫婦だったし蒸発の一ヶ月前にようやく結婚式を挙げたばかりだった。
だからこそ俺は母親が突然消えたことが信じられなかったし、許せなかったんだ。」
龍也先輩はあたしの腰に手を回しギュッと抱きしめたまま、どこか焦点の定まらない目で遠くを見ていた。
たぶんその視線の先には記憶の中のお母さんが映っているのだと思う。
「でも…解った気がする。たぶん何か理由があったんだ。愛し合いながらも9年間も籍も入れられず、ようやく結婚式をあげた途端、突然黙って姿を消してしまうような、人には言えない理由がね。」
「その理由って…心当たりがないんですか?」
「無い。だからここへ来たんだ。一臣さんならきっと何かを知っている。それを聞く時は聖良に傍にいて欲しいんだ。」
「はい…」
あたしは龍也先輩をギュッと抱きしめると、自分からそっと唇を寄せた。
あたしがあなたを護るから…。
あたしはずっとここにいるから…。
そこにどんな真実があっても一緒に受け入れて支えていくから…。
「聖良…おまえだけは……」
―― 俺の傍から消えたりしないでくれ ――
彼の心の声が痛くて…
あたしは安心させるように、ただ強く抱きしめる事しかできなかった。
+++ +++ +++
夕食の後、和やかな雰囲気で龍也先輩の幼い頃の話や、一臣さんと龍也先輩のお父さんの思い出話に花が咲いた。
あたしは信子さんが連れて来てくれた美鈴ちゃんと遊んだり、とても美味しかった今夜のメニューのレシピを教わったりと、とても楽しい時間を過ごした。
心の中では龍也先輩が、お母さんのことを切り出すその瞬間(とき)をドキドキしながら待ちながら。
美鈴ちゃんがあたしの腕の中で眠ってしまい、ベッドで寝かせるために信子さんが自分たちの住宅スペースへと戻っていったのが合図のように、そのときは訪れた。
「一臣さん…俺の母親の事で知っている事を教えて欲しいんだ。」
龍也先輩は真っ直ぐに一臣さんを見て言った。
シン…と静まり返る部屋。龍也先輩の言葉を受け止めるように一臣さんは瞳を閉じ、ポケットからタバコを取り出すと、一本口にくわえた。
火を付けるでもなく、考え込むように閉じていた瞳をゆっくりと開くと静かに語りだした。
「龍也。さくらさんの事を許す事が出来るようになったのか?」
「今でも許せない気持ちはあるよ。でも…もう恨んではいない。むしろ俺を産んでくれた事に感謝している。」
その言葉に一臣さんはフッと優しい笑みを見せた。
「聖良ちゃんのおかげなんだな?…いい女性に巡り逢ったな。龍也。」
「ああ。聖良が俺に思い出させてくれたんだ。笑顔も涙も…人を愛しく思う事も。」
「そうみたいだな。今日おまえの顔を見たときにわかったよ。おまえのそんな柔らかな顔は随分見ていなかったからな。」
「教えてくれ。俺は…母親の事を乗り越えたいんだ。この先聖良と共に歩いていくために。」
龍也先輩はあたしの手をぎゅっと握った。
繋がった部分から彼の心が波立っているのを感じたあたしは、そっと肩が触れるように寄り添い、大丈夫と言う風にキュッと手を握り返した。
一臣さんはそんなあたし達を見て、満足げに目を細くして微笑んだ。
「いつかおまえが自分からそう言ってくれる日を翔はずっと待っていたんだ。翔が死んでしまって、いつかおまえが知りたいと言って俺を訪ねて来たら教えてやってくれと言うのが、翔から託された遺言だったよ。」
「父さんの…遺言?」
「…タバコ、火をつけてもいいか?」
一臣さんは一言断ってから、先ほどから咥えていたタバコに火をつけた。
ふうっと吐き出す煙がゆらりと空気の層を作り部屋を流れていった。
「俺が聞いた事を全部教えよう。だが辛いぞ?真実を知った瞬間からおまえは運命を背負う事になるだろう。…二度と逃げられなくなる。
今ここで話を聞く前に決して後悔しないと誓え。いつかおまえは何も知らなかったほうが幸せだったかもしれないと思うこともあるだろう。
だからこそ、翔はさくらさんがいなくなった事を、おまえに蒸発と教えたんだ。」
一臣さんのタバコを持つ手は震えて、声が擦れていた。
煙を溜息と共に吐き出してから、気持ちを抑えるように続けた。
「それが翔にとってどれほど辛い事だったか…。
真実を知れば、おまえはさくらさんに会いたがる。だがそれがどんなに残酷な事かを知っていたから、翔はおまえが自らさくらさんの事を受け入れる事が出来るようになるまでは決して本当の事を告げなかったんだ。」
「……後悔するつもりは無い。」
紫煙が空気の層となって、部屋の中に広がっていく。
まるでこの部屋を流れる時間のように、煙はゆっくりと部屋に満ちていった。
「彼女は龍也を捨てた訳でも蒸発した訳でも無い。」
一臣さんの声はとても静かだった。
「彼女は…忘れてしまったんだよ、龍也。」
ザワリと本能がその言葉の意味を拒絶する。
「おまえの事も翔の事も。家族で過ごした幸せな日々も全て。」
静寂が…耳に痛かった。
NEXT お題【拒否反応】
Copyright(C) 2006 Shooka Asamine All Right Reserved.
『大人の為のお題』より【ミステリーツアー】 お提配布元 : 女流管理人鏈接集