続・勇気の受難のその後…
二人の甘い時間が始まります。
雅にとっては受難…でしょうか?


** 雪うさぎシリーズ Happy Birthday **

この作品はベッドシーンを含みますのでR15指定とします。年齢に満たない方はご遠慮ください。


コン…コンコン★



勇気だ。ノックの音ですぐにわかる。

彼は必ず一回目のノックの後少し間をおいて、その後2回ノックする。
まるで、『俺、開けて』って言っているみたいだと、いつも思う。

「開いてるわよ。どうぞ。」

あたしが言うとお風呂から上がったばかりの洗いざらしの髪を拭きながらパジャマ代わりのトレーナーを来た勇気が入ってきた。

「着替え、あったの?」

「あ? ああ、おばさんが買っておいてくれたみたいだ。下着も一式全部用意してあったぜ。すげえ準備良いよな、おまえんちの両親って。」

「そう?ママは勇気が帰ってきてからずっと、一緒に住めば良いのにって言ってる位だから…。息子みたいに思っているのよ。きっと。」

勇気の『おまえんちの両親』と言う言葉に何か引っ掛かりを感じながらも、ニコッと笑って答える。

勇気はドアを閉めてベッドの傍においてある小さなテーブルの下に紙袋を置くと、そのままベッドを背もたれにするように座り込んで、この間からあたしの部屋へ来るたびに読みふけっているシリーズ物の探偵小説を読み始めた。

「あたしもお風呂に入ってくるから、勇気はゆっくりしていてね。後で英語を教えて欲しいんだけど…いい?」

「ああ、いいよ。風呂入って来いよ。俺、この本読んでるし。」

「うん、そこのミニ冷蔵庫に飲物入っているから、ご自由にどうぞ。じゃあね。」

あたしはそういい残して、自分の部屋を後にした。

このとき勇気の持っていた紙袋の事なんて考えてもみなかった。
この後勇気にあげる誕生プレゼントをどう言って渡すかで頭がいっぱいだったから。





雅が部屋を出て階段を降りる音を確認して、さっきの紙袋を広げてみる。

中に入っているものを見つめ溜息を一つ…。これ、やっぱり説明するべきなのかな?
話した時の雅の反応を色々想像してみる。


1『いや〜!勇気のH!!もう嫌い!!』バチン★

……これは遠慮願いたい。あいつの平手は常人並みの力じゃないからな。


2『パパがくれた?信じられない。パパなんか大っきらい。もう口も聞いてやらない!』

……これもヤバイ。今後おじさんの理解と協力を得られなくなりそうだ。(何のだ?)


もうちょっと希望のあること考えてみよう…


3『ちゃんと考えてくれてるのね?ありがとう。』

……言うはずねぇよな。


4『用意してくれたの?使ってみようか。』

……死んでも言わねぇだろうな。


いろいろと想像を巡らせながら、自分に都合のいい想像をしてみるが、どう考えてもそれは無さそうだ。
となれば、このまま部屋に置いておくのはまずいかなやっぱり…これを見たら絶対に1番か2番は確定だろうからな。
雅にはそろそろ覚悟してもらいたいのは山々だが、いきなりこれを見て、素直に俺を受け入れてくれるとは思えない。少し考えつつ、とりあえず一旦隣りの部屋に置いてこようと立ち上がりドアを開けたとき、雅が同時にドアを開けた。




ゴン!




派手な音がして、俺の顔面を直撃したドアの前に、俺は言葉もなくうずくまった。

目から火花が散るとはこのことなんだろう。
痛みの余り声もでない。高い鼻に生んでくれた事を母親に抗議したい気分だ。

「ゆっ…勇気?大丈夫なの?……ああ、おでこと鼻が真っ赤だよ?」

「雅〜〜〜。いって〜〜〜えええ。おまっ、早くねぇか?風呂から上がるの。」

「そっかな?こんなもんだよ。ほら、もう30分も経ってるんだよ。あたしが部屋を出てから。」

そう言われて時計を見ると、確かにそのくらいは時間が経っていた。

俺、そんなに長い間考え込んでいたのか?

そこまで考えてハッとする。手にもっていたはずの紙袋が無くなっていた。一瞬ヤバイと思い慌てて辺りを見回すと、運の悪いことに、雅の足元に紙袋が転がっていた。

雅が屈みこみ、紙袋を取り上げる。


俺の脳裏を、雅の平手が駆け抜ける幻影が飛びかう。ドアにぶつかった位の痛みじゃないだろうと想像して、背筋がぞっとする。
つい最近知ったのだが、雅は強い。合気道3段に剣道も初段、おまけに空手もかじっているとか何とか…。
俺だって、そこそこ武道はかじっているが、本気になったら雅には敵わないかもしれない。


「みっ…雅、見るなよ。おまえには関係の無いもんだ。」

本当は関係あるけど…そう言いたい気持ちを抑えとりあえず動揺を悟られないように、奪還を試みる。…が、

「……何これ?」

そう言って紙袋の中を覗く雅…ああ〜やべぇよ。絶対にキレる。





「これ?お父さんが勇気に渡したものって。」


…へ?


「さっきお風呂から上がった時にお母さんが言ってた。お父さんが勇気にプレゼントを渡していたって。」

…プレゼント…まあ、言えなくは無いけどさ。

「勇気…これ…どうしよう。」

「え?どうしようって…。」

雅の言葉の真意が良くわからなくてそのままオウム返しに言ってみると、雅は少し困った顔をしてじっと俺の顔を見ていた。
怒り出すと思っていただけに雅の反応についていけていない自分がいる。



「…そういうこと…だよね?これって。」

はあ、と一つ溜息を付くとベッドの上に腰を下ろし紙袋をポイとテーブルの上に投げ出した。

「うちの両親は結婚するのが早かったの。…あたしが出来ちゃったから。だから、心配なんでしょうね。あたしたちが同じ失敗をしたりしないかって。」

ああ、なるほど…

「二人とも、学生だったから、すごく反対されたらしい。ママは勘当同然で家を飛び出してパパと二人で暮らし始めたんだって。パパが20才でママが17才の時だったって。」

「大変だったんだろうな。」

「うん…。詳しくは言わないけど多分凄く苦労したと思う。」

雅の隣りに座ると一瞬ベッドが軋み、雅がぴくっと跳ねたように見えた。



「雅は…俺とそうなるのはイヤか?」


俺は今まで聞けなかったことを思い切って聞いてみた。
俺が日本に帰ってきて雅と再会してからもうすぐ1年になろうとしている。その間、何度もそういう雰囲気になったことがあった。
だが、その度に何かしら邪魔が入る。付き合って1年俺たちはまだ、キス止まりだ。男としてはちょっと辛いものがある。

雅は戸惑いがちに俺を見ていたが、黙って首を横に振った。

「いいのか?」

「あのネ、あたし、言いたいことがあったの。じっと見られてると言いにくいから目を瞑って欲しいんだけど…。」

雅に言われるがまま、目を閉じる。

「絶対にいいって言うまで目を開けないでね」

「ああ、いったいどうしたんだ?」

雅が立ち上がって俺から少し距離をとるのがわかった。
クローゼットを開けたり何かをがさがさしている音がする。
何をしているんだろう。

どの位目を瞑っていたんだろう。不意に部屋の照明が落とされたのが閉じた瞼越しにわかった。

「雅?何をしてるんだ?もう目をあけてもいいか?」

「もう少し待って…勇気手を出してくれる?」

両手を前へ差し出すと雅が俺の傍に戻ってきて俺の手に何かをのせ、そのまま俺の首に腕を回し抱きついてきた。
視界の無い状態での思いもかけない雅の行動に不覚にも鼓動が早くなる。

「お誕生日おめでとう勇気」

雅の声が思った以上に近い所で聞こえたと思ったら次の瞬間柔らかいものが俺の唇を塞いでいた。

信じられない言葉と共に…。




……あたしをあげる




……!雅?




「……目を開けてもいいよ。」




耳元で囁くような声に導かれて目を開く。部屋の隅の間接照明が一つおぼろげに部屋を照らしていた。

雅を腕の中に感じながら手の中に乗せられたものを見る。



「これ……」



手の中にあったのはあの日二人で作った雪うさぎとそっくりなガラスで出来たウサギだった。

「あたしの心は、あの日からずっと勇気の傍に寄り添っていたの。
いつだって勇気だけがあたしをわかってくれていた。あたしの悲しみも、あたしの不安も、気付いてくれたのは勇気だけだった。優しく抱きしめてくれる勇気がどんな時だってあたしの居場所だったの。」

そう言って少し体を離して、俺の顔を覗き込むようにして見上げてくる。
その時初めて気付いた。雅が灯りを消した理由に




淡い照明の灯りに浮き上がる雅は一糸まとわぬ白い肌を俺の前にさらしていた。それはさながらギリシャ彫刻のように神秘的で美しかった。
頬は僅かな灯りでもわかるくらい初々しく染まっている。

胸が鷲掴みにされるような愛しさがこみ上げてきて体が熱くなる。


「勇気が大好き。あなたはあたしの全てなの。だから…あたしの全てをあなたにあげる。」


そう言うと雅はこれ以上顔を見られるのを拒むように俺の胸に顔を埋めてきた。


「勇気、生まれてきてくれて…あたしと出会ってくれて、ありがとう。」


雅の心臓の音が体を伝って俺の鼓動と重なる。いつもより早いリズムでバクバクとなる胸の音が雅の耳にも多分聞こえているだろう。
愛しくて、ギュッと強く抱きしめると雅が小さく細い悲鳴のような吐息を漏らした。

その唇から漏れるどんな僅かな音すら愛しくて

そっと唇を寄せて甘い吐息を吸い取るように舌を絡めていく






雅…愛しているよ……。



欲望が理性の結界を引き裂いて一気に俺を支配する。
僅かに残る理性の中で俺は雅のくれた雪うさぎをそっと握り締めて誓った。

必ず雅を幸せにする…俺の全身全霊をかけて…

唇が喉元を滑り耳元で愛していると囁くと白い肌が薄く色付いていくのを感じた。

腕の中で雅が細かく震える。

愛しさが更に募り腕に掻き抱きそのままベッドへと縫いとめた。

雅が腕の中で俺に腕を絡めその体で全てを受け入れようとしている

その事実が俺を虜にし理性を完全に崩壊させた

夢中で唇を奪い体に紅い花を散らしていく



雅が細い体をしならせるのを夢の中のように見ている自分がいた。







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